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5年振りに会った幼馴染から『友達の話なんだけど』と相談を持ち掛けられたら  作者: 竜山三郎丸


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第52話 ゼロパーセント

◇◇◇


 週末、二度目の動物園。


 青い空の端には分厚く白い雲が浮かび、セミの鳴き声が辺りを覆う。


「よーし、ではブリーフィングを始めるぞ。前回は時間的都合によりこっち(アフリカ)側しか回れていない為、今回は全部見る為に逆サイドから攻める事とする。意見や質問のあるやついる?」


 巨大なゾウの石像の隣を通った後、園内図を広げて指で示しながら真面目な顔でシロウは説明をする。


 広大で坂道の多い園内、ジックリ見る派のシロウと弥宵にとっては一日で全てを見る事など不可能だ。必然取捨選択が必要となってくる。


「あ、僕コアラが見たいな」


 軽く手を挙げてニコニコと発言をするマキト。


「コアラはルートに入ってるぞ。園内図をよく見る様に」


「本当だ。ごめんごめん」


「じゃあ今日はキリンやゾウは見ないっていう事?」


 今度はイズミが小さく手を挙げると、シロウは苦い顔をして腕を組む。


「……見ない、とは言って無い」


 言ってはいないが、優先順位は下がる。



「キリン、好きなんじゃなかったっけ?シロウの好きはその程度?」


 どことなく不満げなイズミは挑発的にシロウに問い、シロウも言葉に詰まる。


「いや……そりゃ俺だってさぁ」


「コアラ後回しでもいいよ?」


 二人の様子に気をつかってかマキトが遠慮をした発言をすると、柏木が小さく手を挙げて言い辛そうに口を開く。


「あの~……、さ。提案なんすけどさ、午前中はさ、キリン組とコアラ組とで分けてみたらどうかなぁ?」


 人差し指を二本、まるで指揮者の様にクルクルと回しながら柏木弥宵は説明を続ける。


「で、お昼ご飯で合流して、それからまた皆で回る……ってのは、だめ……かなぁ?えへへへ……」


 二本の人差し指はそれぞれキリン組とコアラ組を表していた様で、途中から二本の指は合流して一緒に動き出す。


 シロウがイズミを見るとイズミもシロウを見ていた。


「キリン組~」


「ん」


 シロウの呼びかけに阿吽の呼吸でイズミの手がピッと挙がる。


 残りは挙手を取るまでも無くコアラ組なのだが、そんな言うなれば『消極的コアラ』をシロウが認めるはずも無く、挙手を取る。


「コアラ組~」


「はーい」


「はぁいっ!」


 マキトは小さく手を挙げて、弥宵は大きく手を挙げる。


「はい、コアラ組の皆さん。元気によくできました~」


 子供に言い聞かせる様にニコニコと拍手をするシロウ。


 そう言われるとキリン組やコアラ組というのは、幼稚園のクラスの様にも聞こえてくる。


「あ、でもさ。真ん中あたりに集まるとして、その辺にはご飯食べる場所無いよね。ご飯後集合にしようか。時間は?1時?2時くらい?」


 園内図を眺めながらマキトは言う。シロウとイズミにしても異論などある筈は無い。


「オッケー。じゃあ、14時にしよう」


 地図の中心から少し上、アジアゾウを指さす。


「14時?」


 聞き慣れぬ呼称に弥宵は復唱するが、シロウは特に補足はしない。


「それじゃヒトヨンマルマル、キリン・コアラ両組、アジアゾウ前に集合だ」


 補足しないどころかより分かり辛く言い換えての説明に弥宵の頭の上に?が浮かぶ。


「ヒトヨンマルマル?」


「……弥宵。2時。お昼の2時の事」


 小声で助け舟を出すイズミ。


「では、健闘を祈る」


 その言葉は、柏木弥宵に送られたエールだ。


 弥宵にもそれは伝わった。


「うんっ!」


 ピッと敬礼の真似事をして弥宵は笑う。



「それじゃ、二人ともすぐ喧嘩しないようにね」


 ヒラヒラと手を振り、コアラ方面へと向かうマキトに口を尖らせるイズミ。


「悪いのはいつもシロウよ、私は悪くないもの」


「……へいへい、仰る通り大体わたくしめが悪うございますよ霧ヶ宮様」


「あ、そう言う言い方止めてくれる?心がこもって無いから」


「こうやってすぐにチンピラは誠意を求めるんだよな」


「誰がチンピラよ!」



「あはは、もう始まっちゃったよ」


「もうっ、シロウが悪いの!」


 そんなやり取りを終えると、キリン組・コアラ組はそれぞれのルートへと別れて行った。



◇◇◇


「……はぁ。私まで緊張してきた」


 胸の辺りを押さえ、一度大きく息を吐いてからイズミはそう言った。


「お前が緊張してどうするんだよ、答えはわかりきってるだろ」


 胸に当てた手をぎゅっと握り、言い聞かせるように。安心した様に呟く


「そうだよね。……大丈夫だよね、弥宵はかわいいもんね」


 シロウは呆れ顔で手を横に振る。


「いやいや、そっちじゃなくて。振られるって事」


「……笑えない冗談は嫌いなんだけど」


「いや、冗談で無く。真面目な話」


 イズミは立ち止まり、シロウの服を引く。


「うおっ」


 緩やかな坂道で、後ろに引かれて思わず声が出る。


 セミが鳴き、日差しがくっきりと木陰を作り、その木陰の中でイズミはもう一度シロウの服を引く。


「絶対?」


 振りむくと、泣きそうな顔をしたイズミが服の裾を掴んでいる。


「……ほぼ、確実に」


 誤魔化そうとせず、正直に告げる。


「あんなに仲良さそうなのに?」


「じゃあ聞くけどさ」


 泣きそうな顔のイズミを諭すように困った顔のシロウは口を開く。


「俺と柏木は仲良さそうか?」


「うん」


 考えるまでも無いと言った風に即座に答えてイズミは頷く。



 頷いて自分で答えが分かってしまった様な顔をしたイズミに、それでも構わずシロウは言葉を続ける。


「じゃあ例えば、仮に俺が柏木に告白したとして……、成功率は何パーだと思う?」


「ごめん、……0%だと思う。あっ、『今は』ね。今は」


 申し訳なさそうにしながらも、少しだけ笑っている様に見える。


「……だろ?そう言う事」


「告白するの?」


 イズミは困った顔でシロウを見る。


 まだ服を引きながら。

 

「例えとか、仮にって言ったの聞こえたか?」



「どうしよう」


「どうしようもなにも……、後は柏木次第だろ。あいつは言ったぞ?『振られたら諦めなきゃいけない?』って」


 その言葉にイズミは目を丸くする。


「こうも言ったぞ。『少女漫画のヒロインは一度振られた位じゃ諦めない』……とかってな。ははは、柏木語録」



「そっか。……弥宵はやっぱり強いなぁ」


 嬉しそうに微笑むイズミ。


「俺達にできる事は、柏木を信じてキリンを見る事くらいだろ」


 無駄にいい笑顔のシロウに呆れ顔のイズミ。


「……キリン見たいだけでしょ」


「ははは、否定はしない。早く行こうぜ。今更俺達が考えても結果は変わらないんだし」


「そうね」


 木陰から一歩出ると、夏の日差し。


 セミの声が彩る、勝率ゼロパーセントの戦いが待つ。





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