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5年振りに会った幼馴染から『友達の話なんだけど』と相談を持ち掛けられたら  作者: 竜山三郎丸


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第49話 決戦前

◇◇◇


 築5年、白い外壁の賃貸マンションから歩いて30分程の距離にある一軒家。その2階にある一室がイズミの部屋である。


 綺麗に整頓された部屋に置かれた勉強机では柏木弥宵が教科書とノートを広げて難しい顔をしており、フローリングに置かれたローテーブルではイズミが勉強をしている。


 時折柏木の口から『あぁ』とか『むぅ』とか聞こえる以外は基本的に二人とも無言で、室内にはページを捲る音とシャーペンがノートで踊る音しか聞こえない。


 暫くすると、ベッドに置かれたイズミのスマホから『キーンコーンカーンコーン』とウェストミンスターの鐘が聞こえるのと同時に、柏木弥宵は机に突っ伏して長い時間息を止めていたかの様に大きく長く息を吐き出す。


「ぷは~、休憩っ!いずみん、休憩だよっ!休憩!」


 スマホのアラームを止めて、イズミも大きく背伸びをする。基本50分一区切りで勉強を行っている様子。


「おやつ食べる?」


「食べいでか!」


 聞き慣れぬ言葉にクスリとしながら立ち上がる。


「何それ」


「ん?勉強の成果」


「テストに出ないよ、そんなの」


「学問とはテスト云々ではないのだよ、いずみん。ベッド借りるね~」


 イズミの返事を待つまでも無くぼふっとベッドに横たわる弥宵。


 中学一年の頃からかれこれずっと続くテスト前の光景だ。


 階下に降りたイズミが切ったロールケーキと飲み物の乗ったトレーを持って戻って来ると、その僅かな隙に柏木弥宵は寝息を立てていた。


「弥宵ー。食べちゃうよー」


 半分以上夢の中の弥宵は薄っすらと開けた寝ぼけ(まなこ)でイズミを見る。


「ほえ。……わたし……を?」


「ばか。おやつよ。食べちゃうからね」


「やだ。食べるぅ……」


 ゾンビの様にベッドの上からゆっくりと手を伸ばしてくる。


「よくそんなすぐ眠れるね」


「えへへ、すごいでしょ?」


「はいはい、すごいすごい」


 もぞもぞとおやつの置かれたローテーブルへと弥宵が下りてくるのを待っておやつタイムの開始となる。


 フルーツの入ったロールケーキと、少し甘めのコーヒー牛乳。


 糖分で脳に栄養をやり、コーヒーに含まれるカフェインで眠気を覚まそうと言う考えのようだが、甘くないコーヒーは飲めないので苦肉の策のコーヒー牛乳。


「目が覚めるね~」


 コーヒー牛乳を飲み、満足げに頷く弥宵。


「30分休んだらまた始めるからね」


「わかってるってば。うん、おいしっ」


 厚めに二切れ乗せられたロールケーキをフォークで口に運ぶ。


「おいしいね」


「ね」



 テスト前の日曜日、午前中から続く勉強の合間の一時(ひととき)


「テストが終われば一学期ももうすぐ終わりだね」


 カレンダーをチラリと見ながら弥宵は呟く。


「テスト終わったら動物園だもんね。シロウも楽しみにしてるよ」


「今度はこないだ回れなかったルートで回るからね。坂多いから歩きやすい靴必須だよっ」


「ん、了解」


「でさぁ……」


 ロールケーキを二切れ食べ終えると、チラチラと何かを言いたそうに弥宵はイズミの様子を窺い見て、それに気が付いたイズミは呆れ笑いを浮かべる。


「まだ食べたいの?」


「えっ!?違っ……、いや違わないけど!ケーキは食べたいけど!」


「半分いる?」


「もらうけどっ……!」


 イズミが半分に切ったロールケーキをお皿に分けてもらいながらも、まだ何かを言いたそうにしている。イズミはそっとスマホを手に取ると、30分休憩終了の時間に掛けていたアラームを切り弥宵の言葉を待つ。


「どっ……」


 柏木弥宵は一度言葉を止めると、少し赤い顔で(すが)る様にイズミを見る。


「動物園で、告白するって言ったら……、早いかな?」



 ――その言葉を聞いて、何故だか涙が出そうになった。



 入学式の日、体育館ですれ違った天野蒔土をキラキラとした瞳で追った弥宵を思い出してイズミは首を横に振る。


「ううん。早くなんてないよ」


「本当?」


 恐る恐るイズミの反応を窺う弥宵を勇気づける様に力強く答える。


「うん。やっぱり弥宵はすごいなって」


 そして、自嘲気味に微笑んで言葉を続ける。



「……私なんて、もう何年も何も言えないのに」



 弥宵は元々大きな目を丸くする。


 小4の終わりから今に至るまでの5年間。明確に相手を口にしたわけでは無いが、イズミの口から初めて聞く色恋話だった。


 中学の時、告白される度に『好きな人がいるから』と断るのは相手を傷つけない為の嘘だと言っていた。どれだけ聞いても頑なに口を開かなかったイズミが、相手を言わないまでも初めてその想いを認めた事が弥宵にはたまらなく嬉しい。


「だいじょーぶ」


 弥宵はニッコリと笑い分けてもらったロールケーキをパクリと頬張る。


「動物園、楽しみだね」


「……その前にテストでしょ。あ、アラームかけ忘れてた。後10分で始めるからね」


「え~……」


 照れ隠しの様にそそくさとスマホを操作するイズミに不満の声を上げる弥宵。



◇◇◇


 テスト前日の日曜日。イズミ達と同様にシロウとマキトも勉強会を行っていた。


「何でテストで勝負なんてする事になったの?」


 家も金持ちとシロウに称された天野蒔土の自宅自室。きちんと整頓された室内で、マキトは勉強机、シロウはローテーブルで勉強道具を広げている。


「んー。何か聞きたい事があるんだとさ」


 煙に捲くでも無く正直に答える。


「へぇ。どれだろうね。いくつかあるもんねぇ、シロウの噂。何でそれがテストで勝ったらになるのさ。そのまま教えてあげればいいのに」


「……お前なぁ」


 呆れ顔でマキトを見上げるが、言葉を飲み込んでまた顔を下ろす。


「その方が面白いだろが」


 マキトは椅子を回転させてシロウの方を向き、嬉しそうに口元を緩ませる。


「あはは、またまたぁ。そうしないと気にして霧ヶ宮さんの成績が下がっちゃうからじゃないの?勝てば教えるってなればいつも以上に頑張って勉強するもんね」


「うへぇ~、想像力豊かっすなぁマキトさんは。こりゃモテますわ」


 呆れ顔で拍手をするシロウに得意げな笑みを向けるマキト。


「まぁね、あはは。で、『万が一』?シロウが霧ヶ宮さんに一科目でも勝ったら……何でも言う事聞いてもらえるんだっけ?どうするの?」


「んー。動物園の金4人分出してもらえばいいんじゃないっすかね?ははは」


 ケラケラと笑うシロウに白い目を向けてため息を吐くマキト。


「……何だよ、それ」


「ほれ、椅子戻せっての。勉強だ、勉強」



◇◇◇


 

 日付が変わる頃、ピロンとシロウのスマホが鳴り、イズミからのメッセージ。


『絶対に負けないから』


 宣戦布告とも言えるその内容とその負けず嫌いさに、シロウも思わずニヤリとする。


『望むところだ』


 そして、三日間に渡る期末考査が始まる――。


 




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