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5年振りに会った幼馴染から『友達の話なんだけど』と相談を持ち掛けられたら  作者: 竜山三郎丸


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第46話 そんな事するはず無い

◇◇◇


「弥宵、今日テスト勉強どうする?」


 イズミの誘いに柏木弥宵は本当に申し訳なさそうな顔をしてパンと両手を合わせる。


「ごめんっ、ちょっと用事があるんだ」


 弥宵の言葉にイズミは首を傾げる。


「用事?テスト前に?」


「うん、とっく――。おっと、何でもなかった。えへへ」


 特訓――と言いかけてニコニコと愛想笑いで露骨に誤魔化す弥宵にイズミはジッと見つめる。その用事とやらに天野蒔土が関わっている様ならその様な誤魔化しすらできないはずだから、彼は参加しないのだと予想が付く。


 中学の頃からテスト前は一緒に勉強をしてきているので、テスト期間中に遊びに出歩く様な性格ではない事も理解しているつもりだ。きっと大事な用事に違いないし、今彼女にとってテスト勉強よりも大事な事……。


 と、なると大体わかった気がしてイズミはクスリと笑う。


「そっか。頑張ってね」


「うんっ、頑張る!」


 力強く言い終えてからハッと一瞬慌てた表情に変わる弥宵を見て、本当に隠す気があるのかどうかと呆れ笑いを浮かべる。



◇◇◇


 ――放課後。


 イズミは大体分かった様な気になっていたが、合っていたのは方向性だけと言える。



「マッ……ママママママキトくん!大好きです!」


「あはは、ごめん。僕胸の大きい子には興味と関心が持てないんだ」


「んなぁっ!?」


 真っ赤な顔で告白をする弥宵と、それを受けてヘラヘラと答えるのはマキトの真似をするシロウ。


 石階段上の小さな神社繰り広げられている奇妙な特訓にまで思い至っていたとしたらイズミは超能力者の(たぐい)だと言えよう。


 柏木弥宵は赤い顔で胸を隠しながら険しい顔でシロウに抗議する。正確には、マキトの写真を映したスマホを顔の辺りに置いたシロウに、抗議する。


「マキトくんはそんな事言わないっ!」


 スマホを顔から下ろして、大きくため息を吐くと首を左右に振る。


「あのな。考え得る全ての断られ方を想定しておいた方がダメージが少ないだろ?万一マキトがそう言ったらどうすんだよ?言うのか?『マキトくんはそんな事言わない!』ってさ」


「ぬぐぅ……」


 確か、3人で神社に行った日の帰りだっただろうか?マキトは言った。『彼女たちの好きだったのは僕じゃ無くて学校一のイケメンなんだよ』、と。


 過去に何があったかは分からないが、言い換えてみれば『他者に作られたイケメン像』を嫌うと言えるのではないだろうか?


 それを柏木に直接伝える事はマキトに対してものすごく不誠実な行為に思えたので、この特訓がシロウにできる最大限の応援であると言える。


 天野蒔土も、柏木弥宵も、穂村司郎の友人だから。


 柏木はキッとシロウを睨む。


「シロウくんっ、もう一本お願いしますっ!」


 ニヤリと口角を上げ、顔の前にスマホを持ってくる。


 他人から見ると滑稽に見えるかも知れないが、ただマキトの写真がそこにあるだけで上手く喋れなくなってしまう。何故かは分かっている。言葉にすればたった一言のその言葉。


 胸に手を当て、一度息を吸い込み目の前のシロウを見上げる。


 ほぼマキトの身長と同じ場所に置かれたスマホに映る彼の写真。


 もう柏木の目にはマキトしか映っていない。


「……マキトくん!」


 真っ赤な顔ながらも口籠らずに名前を呼ぶ。


 告白をして、振られればこの気持ちは消えてしまうのだろうか?


 消えてくれなかったらどうすればいいのだろうか?


 それとも、いつかは忘れるのだろうか?


 決意に満ちた目は、悲しみを帯びる。



「ごめんっ、僕実はシロウの事が好きなんだ。はははっ」


「んもうっ!複雑にすんなし!はははじゃないよっ!」


 告白もしていないのにヘラヘラと気軽に振って来るシロウに弥宵はダンっと力強く足踏みをする。


「ははは、今の良かったんじゃねぇか?マママママってならなかったし」


「……そう思うなら邪魔しないでよ。ていうか、たまにはオッケーしてよ。練習とはいえさ。具体的には5回に1回はオッケーして欲しい。精神衛生的に」


 ピッと人差し指を立てて難しい顔をする弥宵に眉を寄せて首を捻るシロウ。


「上手く行った時の練習はいらねぇだろ。つーか、上手く行かねぇんだから」


 ハッキリと辛口の言葉を言い放つシロウに柏木はクスクスと笑う。


 てっきりまた『もうっ!』とか、『こらぁ!』とか声を上げるかと思っていたシロウには予想外の反応だったが、続く言葉も予想外だった。


「シロウくんは意外と優しいよねぇ」


「はぁ?振られ過ぎておかしくなったのか?」


「んふふふ、照れちゃって~」


 ニコニコしながらシロウの肩をパシパシと叩く。


「照れてねぇ、やめろ」


「シロウくんの時も特訓してあげるからね~?わたしいずみん役きっと上手だよ!」


「あ、じゃあその時はお願いしようかな」


「えっ、本当に!?」


 ニヤニヤと軽い気持ちでイズミの名前を出した弥宵は、まさかの反応に飛び上がらんばかりに驚く。



「相手はイズミじゃなくても平気だよな?」



 照れとも冗談とも言えないケロリとした顔のシロウを、困った顔で見つめる弥宵。


「誰?」


「そんなの言う訳無いだろ。ほら、特訓するぞ、特訓」


「……む~。嘘なら嘘って言いなよ~」


◇◇◇


 弥宵は用事があり、シロウも捕まらなかった為イズミは友人に誘われてファミレスでテスト勉強をしていた。


 相手はD組の女子で月代明日香。中学からイズミと同じで少しギャルっぽい雰囲気だが、テスト勉強をする程度には真面目らしい。イズミはつっきーと呼んでいる。



「いずみさぁ、最近あいつとよく話してるじゃん?」


「あいつって?」


 図書館や図書室で無くファミレスで勉強をするメリットは、ドリンクバーの存在と会話ができる所だろう。


「んー?うちのクラスのやつ。マキトの後ろの席で、よく寝てるやつ」


 固有名詞は出ていないが、シロウの事だとわかる。


「あぁ、穂村司郎ね。小学校同じなの」


「え、マ?知っててそれ!?」


 月代の言葉が引っ掛かり、イズミは眉をひそめる。


「どういう事?」


 つっきーは首を傾げる。


「んん?知らんの?」


「だから、どういう事?」


「……えー、だってさ。小学校同じなんでしょ?うち少なくとも3人から同じ話聞いたんだけど」


 困った顔でつっきーが言葉を続けると、バンと大きな音を立ててイズミはノートを閉じる。


「だから。何?」


「……怒るなよ。うちだって聞いた話なんだから」


 イズミは一度飲み物を飲んで、軽く息を吐く。


「ごめん。教えて?つっきー」


 つっきーは言い辛そうに口を開く。


「……小6の時って聞いたかな?あいつが好きな子が転校したんだけど――」


 ――好きな子、転校。


 その二つの言葉が導く答えに喜びを隠しきれず、少し口元を緩ませながら口を挟むイズミ。


「私が転校したの4年生の終わりだよ?」


 だから、学年間違ってるよ?とイズミは言いたかった訳だが、月代は別の意味で納得をする。


「あ、そうなんだ?……だから知らないって事か」


「何を?」


 さっきまでと違って明るい口調のイズミに呆れ顔の月代明日香。


「……いいから最後まで聞きなよ。とにかく、6年の時にその子が急に転校したんだけど、それを知らされてなかった事に怒って教室で暴れ回ったんだってさ。大変だったらしいよ?男子も女子もお構いなしで、怪我した子も一杯いたって」


 イズミは首を横に振る。


「嘘。シロウがそんな事するはず無いわ」


「……うちは知らないけどさぁ。中学でも一回あるらしいじゃん?その噂もあって誰も話しかけないみたいだよ?逆に話してるマキトすげーってなってる感じ」


 イズミは大きく溜め息をついて、やれやれと言った風に呆れ顔で首を横に振る。


「下らない噂ね。聞いて損した」


「下らないっていずみが聞いてきたんだろぉ」


「あっ、ごめん!アイス食べる!?あははっ」


 ニコニコと笑顔を作り、月代にメニューを見せる。


 実に下らない噂だ。シロウがそんな事をするはずがない。


 何より本人に聞けばすぐに分かるのだ。


 そう思いながらも、その日は勉強など頭に入って来なかった。







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