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5年振りに会った幼馴染から『友達の話なんだけど』と相談を持ち掛けられたら  作者: 竜山三郎丸


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第45話 少女漫画なら

◇◇◇


「シロウくんっ、皆で勉強会しようよ!」


 シロウ達の通う公立高校では、中間・期末を問わずテストの一週間前は部活動は禁止なので、今週一週間は剣道部も


「……イズミもそんな事言ってたな。一般的な行為なのか?勉強会って。どうせ菓子食って話してのいつも通りになるだけだろ?」


 柏木弥宵の提案に懐疑的な眼差しを送るが、彼女は全く気にする様子は無い。


「中学の時は毎回いずみんと勉強会してたんだよね~。楽しかったなぁ」


 くすくすと思い出し微笑みをする弥宵。


「勉強会と言う行為の趣旨から鑑みるに、『楽しかったなぁ』って感想は不適切だと思うぞ。実際に成果は出てたのか?」


 継続して送られる懐疑的な眼差しを受けながら、バッグをごそごそと探って眼鏡ケースを取り出すと、装着して得意げな微笑みをシロウに向けて眼鏡のつるに手を添える。


「成果?ふふん、ずっと学年トップクラスだったけど?いずみんは」


「……あいつは元々頭良いだろ?何で柏木が得意げにするのかが分からん」


 柏木は眼鏡をしたままニコニコと笑う。


「まぁ、いいじゃん。とにかく勉強会しようよ。シロウくんも一緒に」


 シロウは腕を組み、苦々しい顔で首を捻る。


「んんんー。俺は別に構わないんだけど、……どう考えても成績下がるだろ?柏木の」


「えっ、わたしっ!?あ、あー……うん、そうだね。理解した。えへへへ……」


 天野蒔土と同じ空間で勉強をして、その勉強が身に付く程の不動心を柏木弥宵が持ち合わせているとは思えないし、柏木本人もそれは理解した様で苦笑いを浮かべる。


「ん~……、まぁ。その分の勉強は後でするから大丈夫!」


 元気に両手でガッツポーズ。


「それ大丈夫って言うのかぁ?」


 呆れ笑いを浮かべながらシロウは心配そうに柏木を見る。



 心配なのは彼女の学力では無い。正直柏木の成績が良かろうが悪かろうが、直接シロウには関係は無い。


「まぁ、何であれ俺に直接の関係は無いんだけどね。でさ、それとは別に一つ提案があるんだけど――」


「提案?」


 柏木は小首を傾げる。


 テスト一週間前は部活動が禁止だ。だが、委員会活動はあるようでイズミは今日は美化委員会の活動だそうで、シロウは下校時に柏木弥宵に捕まり一緒に帰る事になった。


 なので、いい機会だと思う。と心の中で一人頷く。


 きっと、イズミがいたら怒るだろうから。


 齟齬無く伝わる様に、言葉は選ばない。心の中で一度深呼吸をする。



「マキトに告白するの止めねぇ?」



 柏木弥宵は一瞬驚いた顔をしてシロウを見た後で、珍しく挑発的にニッコリと笑って答えた。


「やだ」


 シロウは少し眉を寄せるが、出来るだけ表情を変えずに、出来る限り感じ悪く言葉を続ける。


「言っとくけど脈無いぞ?」


「最初からあるなんて思ってませんけど?」


 ズイっと顔を近づけて不敵に笑う。



「……ならやっぱり止めた方がいいんじゃねぇかなぁ」


 それでもシロウは食い下がり、弥宵は首を横に振る。そこで初めて眼鏡をかけっぱなしにしていた事に気が付いて、そそくさと眼鏡をしまい、照れくさそうに笑う。


「ううん、止めないよ」


「確実に振られるのに?」


 敢えて意地悪い言葉を重ねる。


 天野蒔土はシロウにとって唯一と言っていい同性の友人だ。そんなマキトは柏木弥宵を良き友人と言い、恋愛によりその関係を壊したくないと言った。細部は違うかもしれないが、その様な趣旨の事を言った。


 恵まれた容姿や運動神経で、様々な女性に恋心を抱かれ、告げられ、その度に彼は傷ついていたようだった。きっと、それは彼にしか分からない悩みなのかもしれない。



 自他共に認める恋愛偏差値の低さを持つシロウには、考えても答えは出なかった。


 柏木弥宵に想いを胸にしまってもらい、今までの様に友人として接すればマキトも柏木も傷つかないのではないか?


 それは、間違いでは無いのかも知れないけれど、正解から最も遠い選択の様に思えた。



 だから、穂村司郎は試すように強い言葉を放ち、ジッと柏木を見る。



 柏木弥宵もジッとシロウの目を見る。


 真っすぐと、挑戦的な眼差しでシロウを見上げる。


「うん、振られても。伝えたい。わたしがどれだけマキトくんの事が好きで、そのおかげでどんなに毎日楽しかったのかって」



「で、実際振られたらその後はどうするんだよ」


「その後……?」



 弥宵は首を傾げて眉を寄せる。


「どうするもなにも……、振られたら諦めなきゃいけない?」



 キョトンとしたシロウに、柏木は勝利を確信して『ふふん』と得意げに笑う。


「知らないの?少女漫画のヒロインはね、一度振られた位じゃ諦めないんだよ」


 その言葉に思わず声が出る。


「……ふっ、ははははっ。悪い、柏木。読み込みが足りなかったわ。確かに少年漫画なら……、強敵に負けたら特訓だよな?」


「だね!」


 シロウがスッと右手を出すと、弥宵は全力でパン!と右手を重ねた後で『まだ負けてないけどね』と笑った。



◇◇◇

 

「マキトくん、ずっと好きでした!わたしと付き合ってくださいっ」


 場所を変えて、鬱蒼(うっそう)とした石階段を上った人気(ひとけ)の無い神社。

 

 柏木弥宵の前に立つのは、当然マキトでは無くシロウだ。


「え、あ……喜んで」


 人生初告白に引きつった笑いを浮かべてペコリと頭を下げるシロウに弥宵は憤慨する。


「シロウくんっ!それじゃ特訓にならないじゃん。マキトくんはそんな事言わない!」


「いや、だってさ。もしかすると、俺の人生でもう二度と無い機会かもしれないだろ?あっ、そうだ。録音しちゃまずい?」


「良い訳ないでしょ!」


「ほら、歌だって録音したのを聞き直した方がより課題がはっきりするだろ?それと同じだとは思わないか?」


 シロウの屁理屈に眉を寄せながら懐疑的な眼差しを向ける。


「……まぁ、一理はあるけどさぁ」


「だろ?あ、じゃあ折角だから『マキトくん』じゃなくて『シロウくん』に……」


 弥宵はキッとシロウを睨む。


「ってのは、冗談だ。ははは」


「真面目にやってよ、もうぅ」


「真面目に……って言うなら、柏木ももっと言葉選べよな。そんな定型文でお前の言うどれだけ好きかは伝わるのか?」


「……む~。だって、シロウくんじゃ~ん」


 不満の声を漏らす柏木を横目にスマホをいじるシロウ。


「オッケー、じゃあ待ってな。マキトに写真送って貰おうぜ。『しゃ、し、ん、お、く、れ』っと」


「えっ!?」


 ピロンと返信が来る。


『何に使うの?』

『いいから』

『はい、これで良い?』


 友達と居るようで笑顔で自撮りの写真が届く。

『サンキュー』


 早速送られてきた写真を画面に映し、顔の前に置く。


「はい、もう一回やってみよう。柏木さん」


 マキトの真似をしてみる。


「かぁっこいい~。わたしにも送って!」


「うるせぇな、早く告れよ」


「えっ!?マキトくん……実はオラオラ系なの!?」


「……めんどくさっ」



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