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5年振りに会った幼馴染から『友達の話なんだけど』と相談を持ち掛けられたら  作者: 竜山三郎丸


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第43話 閑話 分かつ屋根の下

◇◇◇


「えっ?えっ?えっ?これ、どうやるの!?どうするの!?あっ!」


 小学4年にして生まれて初めてゲームをするイズミは、携帯機を持つ手を左右に動かしながら声を上げ、その様子を微笑ましく見守る金森すず。


「ふふっ、いず。身体は動かさなくても大丈夫だよ~」


 弟がいるとの言葉通り、一緒にゲームを遊んでいるだろう金森は手慣れた様子でステージをクリアしていく。


「もうっ、これ難しすぎるよ」


 口を膨らませてイズミはゲーム機を置く。


「じゃあ別のにする~?レースゲームは……、何となく想像できるから~動物のやつは?」


「いろんなのあるんだね」


 イズミは感心しながらすずの持ってきたゲームソフトを眺め、次のソフトを始める。


「あ、これならできそう」


 画面の中ではかわいらしい動物が村を歩いている。


「そっかぁ、よかった!私の家にも遊びに来てみて。ふふふっ」


 もう一台持参したゲーム機でも同じソフトを起動しながらすずも楽しそうに笑う。


「へぇ~、そんな事も出来るんだ。あっ、かわいい」


「ありがと~」


 イズミの部屋で寝っ転がりながら二人でワイワイとゲームをする。



「ねぇ、すず。一つ聞いていい?」


「うん、なぁに?」


「このゲームでどうやってシロウをボッコボコにするの?」


「あー……、うん。そうだね。これはそう言うゲームじゃないね」



◇◇◇


 翌日、帰りの会が終わると同時にシロウは教室を飛び出す。


 隣の教室を通り過ぎざまにチラリと中を覗き、イズミの姿を確認すると声はかけずに指で短く合図をする。『早く帰れ』と。


「遅ぇっ!」


 イズミが家に帰ると、シロウは準備万端で玄関前に待機していた。


「シロウが早すぎるんじゃん。私普通に帰ってきたもん」


 鍵っ子のイズミは口を尖らせてシロウに文句を言いながら玄関のカギを開ける。


「公園でいいの?お菓子持っていく?」


 イズミの言葉にシロウは眉を寄せる。


「何でわざわざ公園なんかでゲームしなきゃいけないんだよ。うちかお前んちで良いだろ」


「んー……」


 イズミは玄関の扉を少し開けたまま上を向いて考える。


「じゃあシロウの家でいい?私の部屋、散らかってるから」


 シロウはニッと笑い頷く。


「部屋位ちゃんと片付けろよなー?麦茶くらいはあるとおもうから、菓子頼むわ」


「しょうがないなぁ。準備したら行くから待ってて」


「おう」



 それから15分程経ってピーンポーンと303号室のインターフォンが鳴る。


◇◇◇


「ねぇ、シロウ。片付けしろなんてどの口で言ってたの?」


 お菓子をとゲーム機の入った手提げ袋を持ってシロウの部屋に来て早々イズミは呆れ顔で呟くが、シロウはケロッとした顔をしている。


「ん?片付けたぞ?ほら、その辺座れるだろ?」


 彼の言う通り、示す『その辺』辺りには辛うじて座るスペースがあるが、それ以外は漫画やら玩具が床の上を占拠している。


「親任せじゃ無くてちゃんと自分で片づけなよね~。もう四年なんだしさ」


「へい、かしこまりましたっ!さっゲームやろうぜ、ゲーム!そういや、ソフトは何買ったんだ!?」


 もし犬であれば、パタパタと大きく尻尾を振るのが見えそうなくらい目を輝かせてゲームを催促するシロウにイズミは持参した手提げを差し出す。


「ん、ソフトって言うのはすずが貸してくれた。好きなのやってみていいよ」


「マジか!お前地味にいいやつだよな!」


「……あ、そう言う認識?」


「どれやろうかな……。あっ、これ!出たばっかのやつじゃん。マジかよ、金森!」


 ソフトのケースを見比べて興奮気味に曰く新作のゲームを手に取る。何のことかは分からないが、イズミも何だか少し嬉しくなる。


「弟がいるんだって。一つ下の」


 ベッドに寝転がりゲーム機を起動するシロウの表情はワクワクを隠し切れない様子。イズミはベッドの横に座りゲーム画面を眺める。



「シロウそのゲームやった事あるの?」


「ソフト?ハード?」


 視線は画面に釘付けではあるが、返事はきちんと返ってくる。もっとも、返っては来たがイズミは首を傾げる事になる。


「ソフト……はわかるけど、はーど?」


「ゲーム機の事。要するに、お前が持ってるのがハードで、金森から借りてるってのがソフトだよ」


「へぇ~。で、やった事あるの?その~……、ハード?ゲーム機」


「あぁ、クラスのやつから借りて少しだけ。うち古いやつしかねーもん。皆持ってるって言ってるのにうちの鬼ばばは買ってくれなくてさぁ」


「あ、おばさんに言ってやろ」


「マジやめろ」



 視線は上げずに夢中になってゲームをするシロウ。ゲーム画面を眺める振りをして、イズミはニコニコとシロウの顔を眺めていた。どうせ視線は上がらない。


 一人険しい顔をしたり、時折『あっ!』などと短い声を出したりしながら表情豊かにゲームを続けるシロウを見て満足気に頷いた後で床に散らばる漫画を片付け始める。


 暫く片付けて、取り合えず床に散らばる漫画本を綺麗に本棚に並べ終わり大きく一度息を吐く。


 適当に一冊漫画を手に取り読み始めてみて暫く経つ頃、ようやくシロウの視線がチラリとイズミに向き、バツが悪そうに苦笑いを浮かべる。


「あ、悪い。夢中になってた」


「ふふ、別にいいよ。気の済むまでやったら?」


「マジかよ。神か、お前は」


 そう言った後でイズミが漫画を手に持っている事に気が付き、それを指さす。


「あ、それ面白いぞ。2巻が出たばっかだ。良かったら貸してやるよ」


「ふぅん。じゃ、借りよっかな。あ、お菓子食べる?持ってきてるけど」


「食う食う。漫画に食べこぼすなよな」


 お菓子の袋を開けながら白い目でシロウを見るイズミ。


「……それはこっちのセリフよ」


 

 外で遊ぶ時は5時の鐘が帰宅の合図だが、同じマンションの同じフロアに住む両家はその限りでは無い。幼稚園から一緒で、親同士の面識もある。


「それじゃ、そろそろ帰るね」


 特に怒られる事など無いとは言え、シロウの両親と出くわすと何となく気恥しいのでその前に帰る事にするが、シロウは露骨に不満げな顔をする。


「もう帰るのかよ~」


 当然イズミが帰るのが名残惜しいのではなく、ゲーム機が帰るのが名残惜しいのだろう事は分かるがそんな事に腹を立ててもしょうがない。イズミは野球漫画の2巻を手に取り、ヒラヒラとシロウに見せる。


「これ、借りて行っていいんでしょ?」


「おう。今日はありがとな。超楽しかった!」


 無邪気に満面の笑顔のシロウを見て、イズミもクスリと笑う。


「ふふ、そう。また気が向いたら持ってきてあげるよ」


「気が向いたらってなんだよ!?何なら明日でもいいんだぞ?」


「明日は塾だもん。じゃあね」


「またな~」


 シロウの家からイズミの家まで歩いて二十数歩の距離。イズミは大事そうに手提げを抱えながら家路につく。



 ――その日の夕食時。イズミは両親と食卓を囲む。


 その日の夕食はいつもより少しだけ豪華で、父はいつもより大分上機嫌だったし、母も上機嫌な様に思えた。


 買ってもらったゲームでシロウやすず遊んだ話をしようかと思っていると、父は嬉しそうに口を開いた。


「イズミ。新しいおうち決まったぞ!今度はマンションじゃなくて一軒家だから、イズミの部屋も広くなるからな!はははっ」


 少し前から話は聞いていたし、両親にとっては念願であり悪気は無い事くらいはわかっていた。


「やったぁ」


 両親の嬉しそうな顔を見て、子供心に『喜ばなきゃ』と思い、出来る限りの笑顔を作りそう言った時は気が付かなかった。


 変わるのは家だけで無く、学校もだと言う事を――。


 


















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