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5年振りに会った幼馴染から『友達の話なんだけど』と相談を持ち掛けられたら  作者: 竜山三郎丸


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第41話 ロマンチックとはほど遠いけど

◇◇◇


「え?潰した枝豆を?甘くして?お餅を包むの?正気?豆よ?」


 驚いた顔のイズミを呆れ顔で見るシロウ。


「小豆だって豆だろが。その的外れな批判はもう聞き飽きてんだよ。つーか甘い豆なんか意外とあるだろ。兎に角食ってみろ、食えば分かるから。つーか、きな粉も豆だぞ」


 放課後、引き続き餅の話をしているシロウとイズミ。どうやらシロウはずんだ餅が好きなようで、その説明をしたところ前述のイズミの反応となる。


 イズミはスマホを手にしながら眉を(ひそ)めてチラリとシロウの表情を窺い見る。


「何だっけ?ぞんだ餅?」


「ずんだだよ、ずんだ。ずんだ餅。つーか、もう大分市民権得てると思うんだけどな。ずんだ大福とか、ずんだソフトとか、ずんだシェイクとか」


 スマホでずんだを調べながらイズミはクスリと笑う。


「もうっ、ずんだずんだうるさい」


「ははは、覚えたか?二度とぞんだとか言うなよ」


「でもこれ、緑色よ?」


 画面に映ったずんだ餅の画像を眺めてまたイズミは首を傾げる。


「緑色だからどうしたんだよ、枝豆なんだから当たり前だろ。文句は青かったら言えよ。あっ、話変わるけどお前青いカレー食った事ある?」


 スマホから顔を上げると、イズミは眉を寄せて苦々し気にシロウを見る。


「……青い、カレー?」


 その反応に満足げにニヤニヤしながらシロウはイズミのスマホを指さす。


「検索してみ」


 言われるままにスマホで『青いカレー』と検索をする。



「わっ、何これ」


 イズミは驚きの声を上げる。


 画面にはイズミが打ち込んだ様に『青いカレー』が映し出される。何の比喩でも何かの隠語でも無く、濃淡の差はあれ、ただ『青い色』をした様々なカレーが並ぶ。


「ん?言葉通り青色のカレー。すげぇよな、当然味はカレー味らしいぞ。ははは」


「へぇ。……らしい、って事は食べた事は無いんだ?」


「まぁね。レトルトもあるみたいだけど、わざわざ買ってまで……なぁ?」


「あ、でもこれかわいいよ?近くのテーマパークで食べられるみたい」


 イズミが見せて来たのはご飯がかわいいキャラクターの顔の様に盛られた青いカレー。


「じゃあ柏木と行って食レポ頼むわ。青いだけでこんなに食欲失せるとは思わなかったよ。調べたらブルーダイエットって言うのがあるらしい。青いフィルムの付いたメガネを掛けるだけだとさ。そうすると飯がまずそうに見えるから、痩せるって」

 

 重ねて繰り出される豆知識にイズミはまたクスリと笑う。


「へぇ、豆知識ありがと」


『豆知識』扱いを嫌がるシロウは口を尖らせて反論する。


「だから豆知識じゃねぇ。まぁ、スレンダーな霧ヶ宮さんにはダイエットなんて必要無いでしょうけどね」


「それは嫌み?それともセクハラ?」


「いえいえ、忌憚の無い正直な意見でございますよ。あっ、豆で思い出した。もう一回ずんだ餅調べてみ?」


 また唐突に話が変わり、シロウはイズミのスマホを指差し、イズミは『もうっ』と文句を言いながらもずんだ餅を検索する。



「あー、青いカレーと比べれば。全然普通」


 青いカレーと比較すれば、大概の食べ物は普通の色だろう。そもそもずんだ餅自体普通の色だ。


「だろ?つーか、緑って普通だろ」


「う……」


 検索しながら、うん――と頷きかけて、その中の一枚の写真を見て何かを思いついたイズミは言葉を止める。


 言葉を止めて、首を捻る。


「うーん、そうかなぁ」


「まだ言うか。つべこべ言わないで一度食ってみろっての」


「う~ん。……あっ、このお店」


 わざとらしく声を上げて、イズミはスマホをシロウに見せる。


 画面にはずんだソフト。


「このお店……、隣の駅みたいね」


 目を逸らしながらそう言った後で、反応が気になりチラリとシロウを見る。


 するとシロウはニヤリと笑う。


「丁度良い、今から行こうぜ。お前にずんだの魅力を教えてやる」


「ふふ、望むところよ」


 イズミも嬉しそうに笑う。


◇◇◇


「ん、おいしっ」


 電車で一駅。最寄り駅より大分栄えた隣駅でシロウの奢りのずんだソフトを食べながら満面の笑みのイズミ。


「だろ!?最初から言ってるだろ!?何が豆だ、何が緑だ。己の浅薄さを悔い改めろ」


 ずんだソフトを片手にイズミを責めるシロウ。


「ふふ、わかったわかった」


 ニコニコと空返事をしながら緑色のソフトクリームを食べる。


「絶対わかってねぇ……!だが、美味いのを素直に認めた事だけは一定の評価をしてやる」


「そう?ありがと」


「だがな!このソフトは美味いが違う。言うなれば『ずんだ風味』だ」


 熱弁を振るうシロウをニコニコと眺めながらソフトを舐める。


「ふふふ、そっかぁ」


「そっかぁじゃねぇ。カニとカニ風味の違いだぞ?カニ食わせてやるって言ってカニかま食わせるやつがどこにいるんだ」


「でも美味しいよ?」


「美味いのはわかる。カニかまだって美味い。だが、これはずんだじゃない」


 パクリと一口食べながら溜め息と共に首を横に振る。


 そして、思い付いたようにハッとイズミを見る。


「お前時間は?」


「え……、あんまり遅くならなければ平気だけど。何で?」


「食い終わったら探すぞ。こっちの駅ならでかいスーパーもデパートもあるし、絶対見つかる筈だ」


 真剣な表情のシロウ。


 イズミもコクリと頷く。


「ん、オッケー」


◇◇◇


 そして、二人は街を歩く。


 ずんだ餅を探して街を歩き、店を歩く。日は大分暮れて、栄えた隣駅の景色をライトが照らす。


 早足で店から店へと移るシロウの後をイズミは追う。


 シロウは時折店員に声を掛けながら目当ての商品を探すが、店員は首を横に振る。


 効率を考えれば二手に分かれて探す方が良いだろうが、シロウはそんな提案はしなかったし、イズミも気が付きながらそんな提案はしなかった。


「次、行くぞ」


「うん」


 シロウの少し後ろを早足で歩くイズミの口元は少し緩んでいる。


「ねぇ、シロウ」


「何だ?」


 足を止めず、チラリと振り返りイズミをみる。



「楽しいね」


 シロウの後を追いながら、イズミはそう言って笑った。


「……遊びじゃねぇんだけど」


 早歩きで二人は次の店へと向かい、そこで努力は実る。



◇◇◇


 高級スーパーの和菓子売場で、二つ入りのずんだ餅を見つけた二人はベンチに腰掛ける。


「へぇ~、これがずんだ餅かぁ」


「小豆と比べると豆の粒が残ってるのが特徴かな。後は風味。兎に角、御託は此処までだ。まず食え」


 イズミはニコニコしながら割り箸を割り、一つ掴むと少し眺めた後でパクリと一口かじる。


 シロウはやや緊張の面持ちでイズミの表情を窺う。


 一口かじり、もぐもぐと何度か咀嚼してからその一口が喉を通ると、にっこりとイズミは笑う。


「ふふふ、おいしぃ」


「だから最初から言ってるだろ……」


 そう言いながらも大きく安堵の息を吐くシロウ。


「……でさ、何で好きな餅の話になったんだっけ?」


「うーん、何でか忘れたけど学食で好きな餅の話になったから?弥宵は五平餅って言うのが好きなんだって。知ってる?」


「……あー、そう言えばマキトが言ってたな。平たいやつにタレ塗って焼くやつだろ?まぁ、美味いな」


 納得したように何度か頷くシロウ。


「シロウは食べないの?」


 好きだと言うずんだ餅に手を付ける気配が全く無いシロウにイズミは問い掛ける。


「あぁ。食えよ。美味いって言ったら二つともやろうと思ってたからさ、はは」


「……じゃあ、半分こ」


 箸の背で、餅を二つに割りシロウに差し出す。


「マジで?サンキュー」


 言い終わると同時に手掴みで一口に頬張る。


「うん、美味い。これよ、これ」



「シロウ、問題。私の好きなお餅は何かわかる?」


 手を拭きながら唐突な質問に苦笑するシロウ。


「一日に二回も好きな餅クイズをされるとは思わなかったな。んー、どうせきな粉か磯辺かだろうが……」


 負けず嫌いのシロウは考える。


「……どうせって何よ」


「ずんだも五平餅も知らない素人さんなら精々後はあんこ餅くらいかな?との推理だよ」


「じゃあ答えは?」


「んー、磯辺焼き」


 イズミはクスリと笑う。


「ぶっぶー、ハズレ~」


「……うぜぇ。正解は?」


「ん?……ずんだ餅、かな」


 少し照れくさそうにイズミが呟くと、シロウは満足げにニッと笑う。


「はははっ!マジか。そんなに気に入ったのか!?だから言ったじゃねぇかよ。ははは」


「ふふ、そうだね。また食べに来ようね」


 すっかり日も落ちて、街灯が二人の座るベンチを照らしていた。


 オシャレなカフェでもスイーツでもなく、外のベンチとずんだ餅。ロマンチックとはほど遠いけど、イズミはニコニコと楽しそうに微笑んだ。








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