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5年振りに会った幼馴染から『友達の話なんだけど』と相談を持ち掛けられたら  作者: 竜山三郎丸


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第40話 餅の話

◇◇◇


「2人の大会期間が終わって、テストも終わったらまた動物園に行かない?」


 昼休みの学食、3人で昼食を食べながらイズミが提案する。


「もち……、えへへ。いずみんがそこまで言うならしょうがないなぁ!そこまで言うならわたしとしてもやぶさかではないよ!」


 弥宵は照れ臭さを誤魔化す様に笑い、あくまでもイズミが行きたいなら付き合うよ?と言うスタンスを取る。イズミも知ってて意地悪な微笑みを浮かべる。


「へぇ。弥宵、『もち……』がどうかした?お餅が食べたいの?ねぇ」


「柏木さん餅好きなの?何餅が好き?」


 Bランチを食べながらマキトが弥宵に問う。本日のBランチは焼き鮭定食だ。話を振られる度に弥宵は一度固まり、下か横を見て話し出す。マキトは弥宵の対角線に座っている。


 勿論シロウも誘ったのだが眠そうに断られたので、弥宵の向かいの席は空席となっている。今頃シロウは夢の中だろう。


「……そんな事急に言われても。……ねぇ?いずみん」


 途端にトーンダウンして、急に頼ってくる弥宵が面白くてクスリと笑う。


「弥宵が好きなお餅はあれでしょ?ヤキモチ」


 助けを求めたつもりが後ろから撃たれた心境の弥宵は真っ赤な顔でイズミの肩に体当たりをする。


「もうっ!いずみんっ!全然違うし、面白くないしっ!わたしやきもちなんか妬かないから!」


 一度ならず二度三度と肩に当たる。


「ちょっ……痛い。止めてよ、ご飯中に」


「いずみんが先に言ったんでしょっ!」


「わかったってば。ごめんって」


 焼き鮭の骨を取りながらその様子をニコニコと眺めるマキト。


「結局柏木さんは何のお餅が好きなの?」


 ピタリとイズミの肩に頭を乗せたままの姿勢で固まると、そのまま首を捻り顔を隠すながら呟く。



「……五平餅(ごへいもち)す」


 イズミとマキトは互いにきょとんとする。


「え、弥宵。なんて?」


「……五平餅」


「初めて聞いた。どんなの?」


「……いやぁ、えへへ」


 イズミの肩で顔を隠し、まごまごと言い訳をし始めそうな弥宵。イズミはグイっと肩を押して弥宵を離す。


「あっ!」


 弥宵が離れた瞬間にイズミは椅子を引いて距離を取る。


「あ~……」


 隠れる所が無くなり、覚悟を決めた弥宵は赤い顔をしながら両手で楕円を作って説明を始める。



「あの、ですね。こんな形のお餅に……すね。割り箸をこうブスっと指して、甘じょっぱいタレを付けて……焼くんです」


 視線を落としてではあるが、何とか説明を終えた弥宵。


「みたらし団子みたいな?」


 頑張って説明を終えた弥宵に今度こそ助け船を出すイズミ。

 

 弥宵は首を横に振る。


「ううん、うちは味噌っぽい感じ。お餅ももっとお米っぽい感じでね~、ふふふふ。とにかくおいしいんだよ!」


「へぇ。食べてみたいね。あっ、ちょっと待ってて。水貰って来る」



 そう言ってマキトは席を立ち学食の調理をしているおばさんの方へ向かう。


「茂美さ~ん、今日もご飯おいしかったよ」


 茂美さんと呼ばれた白い割烹着の中年女性はマキトの声掛けに嬉しそうにニコニコ笑う。


「お粗末様。本当マキト君はよく出来た子だねぇ。うちのなんて一言もそんな事言わないんだから」


「あはは、きっと照れてるんだよ。ねぇ、茂美さん。五平餅って知ってる?」


 洗い物をしながら茂美さんは頷く。


「あぁ、知ってるよ。岐阜とか長野辺りの郷土料理だろう?好きなのかい?」


 マキトはニコリと微笑み頷くと、チラリと弥宵に目をやりヒソヒソと小声で茂美さんに答える。


「うん。あの子が大好物なんだってさ。僕も食べてみたいからその内日替わりに入らない?」


 それを聞いた茂美さんは指折り数えながら少し考えた後でニカっと笑う。


「材料はあるし、明日でもできるよ。じゃ、Bランチにしようかね。タレはどんなのが好みだい?」


「味噌だってさ。甘じょっぱいタレって言ってた」


「任せときな。頬っぺたこぶとり爺さんにしたげるよ」


 トンと胸を叩く真似をする茂美さんに子供の様に笑うマキト。


「やった。ありがと、茂美さん」


 

 交渉を終え、何食わぬ顔で席に戻るマキト。


「お待たせ」


「学食のおばさんとも仲いいんだ?」


 声は聞こえないながらも楽しそうに何かを話していたのはイズミ達の席からも見えた。


「茂美さんね。中三の子供がいるんだってさ。あ、話変わるけど明日のランチはBランチがおススメだってさ。頬っぺたこぶとり爺さんになるって」


「小太……り……?」


 その単語にビクッと反応して怯えた様に呟く弥宵。



◇◇◇


 教室に戻るとシロウはいつも通り鞄を枕替わりにして机に突っ伏して眠っていた。


 シロウの席は窓際の一番後ろで、一つ前のマキトの席から少し離れている。マキトは椅子を引いてシロウの机の傍に付けるとトントンと肩を叩く。


「シロウ~、おはよう。もう昼休み終わるよ」


 そのまま何度も揺さぶるとモゾりとシロウが目覚める。


「あぁ、悪い。サンキュー」


「楽しかったよ、シロウもくればよかったのに」


「……眠かったんだからしょうがないだろ」


 大きく欠伸をしながら答えるシロウを呆れ顔で眺めるマキト。


「いっそ鞄に枕入れてきたらどう?」


「あー、それダメ。寝すぎるんだよ。気が付いたら下校時刻とか引くだろが」


「試し済みかぁ」


 まさかのチャレンジ精神に苦笑する。



「あ、そうだ。話変わるけど、問題。柏木さんの好きな餅は何でしょう?」


「……何だその問題。唐突かつノーヒントかよ。わかる訳ねぇだろ」


 と言いながらも負けず嫌いなシロウは頬杖を突きながらも考える。わかる訳も無いが、黙って降参も癪なので少し考えた後に口を開く。


「わかった。『ヤキモチ』だ」


 マキトは答えを聞いてプッと笑い、その反応でシロウは解答の間違いを悟る。


「……何だよ」


「いや?霧ヶ宮さんも同じ事言ってたよ。あはは」


 シロウは机を更に後ろに引いて白い目をマキトに向ける。


「そんなの聞いてねぇ。正解は?」


「意外と君ら似てるよね。それとも似るの?」


 ニヤニヤと笑うマキトにシッシッと手を振り払うシロウ。


「うるせぇな。正解だけ言って早く前向けよ」


「あはは、照れちゃって」


「はい、もう返事しねぇ~」







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