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5年振りに会った幼馴染から『友達の話なんだけど』と相談を持ち掛けられたら  作者: 竜山三郎丸


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第33話 押された背中

◇◇◇


「今日さぁ、マキトくんと一緒に帰ったんだぁ」


「へぇ」


 電話越しに嬉しそうにそう報告する柏木弥宵に何となく既視感を感じる霧ヶ宮泉。確か、動物園に行った日だっただろうか?『マキトくんに好きと言った』と虚偽若しくは過剰に盛った報告をしてきた覚えがある。それもあり、イズミは過剰に反応する事も無く相槌を打った訳だが柏木弥宵はそれが不服だったようだ。


「『へぇ』って、いずみん興味無い?ふん、じゃあいいですよーだ。シロウくんに話すから」


「あっ、違うの!興味無いわけ無いでしょ!?でもさ、弥宵前にもさ……、ね?」


 柏木弥宵には心当たりが無いらしく、電話の向こうで首を傾げる。


「前にも、何?」


 深く掘り下げてもあまりいい事は無さそうなので、イズミは話を弥宵の下校に戻す。


「ううん、何でもない。それで?あっ、わかった!剣道部の皆とサッカー部の帰りのタイミングが一緒になって、体育館棟から校門までの間一緒に帰った……って事でしょ?」


 冴え渡るイズミの名推理に弥宵は大きくため息を吐く。


「いずみ~ん、そんなので一緒に帰ったって言う訳無いでしょ?それともいずみんの中ではその位で一緒に帰ったって扱いになるって言うの?」


「えっ!?違うの!?じゃあ……、そのまま校門をでて10メートルくらい歩いたって事?」


「あっ、わかった。いずみんわたしの事馬鹿にしてるね?」


 その言葉にビデオ通話では無いにも関わらずイズミは大きく首を横に振る。


「違うってば!そんな訳ないでしょ!じゃあ~……あ~」


 そのまま数秒考えた後で、言い辛そうに口を開く。


「……正解は?」


 その言い方が問題の答えを聞く小学生の様で、弥宵はクスリと笑みが漏れる。


「クイズじゃないんですけど。最初から言ってるでしょ?マキトくんと一緒に帰った、ってさ」


「ねぇ、弥生。正確を期する為に確認させてね?マキトくんと、二人きりで、一緒に帰ったって事?この場合の『一緒』って言うのは、少し前や後ろをたまたま歩いていると言う物で無く、互いが互いの意思を以て一緒に下校をする……って言う意味よね?」


 一緒に帰ったと言う報告に対して、余りにも迂遠且つ煩雑な事象の確認。


「あははっ、なんかいずみんシロウくんみたいだね~」


「……褒めて無いでしょ、それ」


「そんな事無いよ~?」


 電話をする際には大きなぬいぐるみを抱いている柏木弥宵。いくつかチョイスはあるのだが、今日は大きなクジラのぬいぐるみ。マキトと会話をしながら下校した夢の様な時間を思い出すと顔が熱くなるので、照れ隠しにぬいぐるみを抱く手にギュッと力を入れる。


「マキトくんが『一緒に帰ろう』って」


 色々野暮な質問をしてしまった事を反省しつつ、イズミは微笑みながら頷く。


「そっか。ちゃんと話せた?」


「……えへへへ。多分、いつもよりは少しだけ」


「ふふ、よかった。いつもみたいに元気に話してれば絶対大丈夫だよ。弥宵は元気でかわいいんだから」


「んふふふ~、知ってる知ってる。もっと褒めて~」


 

「すぐ調子に乗るんだから。そういうのもマキトくんの前でやればいいのよ、もうっ」


「あはは、む~り~」


◇◇◇


「ほうほう、話は分かった。で、今日は学校が休みなのに何で俺が呼び出されたんだ?」


 土曜日、シロウ達の通う都立高校は原則授業が無い。


「だって弥宵は部活なんだもん」


 サッカー部も、テニス部も、剣道部も、……と言うか、授業が無い為大半の部活動は土曜日に活動を行っている。


 シロウは呆れ顔でため息を吐く。


「柏木の部活が休みなのと、俺が呼び出される因果関係がいまいち不明なんだが?」


「マキトくん攻略会議のメンバーだから。理由にならない?」


「なるほど、まぁまぁ納得できると言えなくも無いな。だが、多忙な俺は常に予定が埋まっているから最低でも半年くらい前には声を掛けて貰わないとスケジュールが空かないから注意しろよ?」


 はいはい、そんな訳無いでしょ――。と言おうとして、喉まで出かかった声を一旦飲み込む。


 何であれ理由も言わず急に誘って、快く承諾してくれたのは事実だ。


 イズミは憎まれ口を飲み込み、ニコリと微笑む。


「うん。ありがと、シロウ。次は気をつけるね」


 憎まれ口以外が返って来るとは思わず、拍子抜けしてトーンダウンした返事を返すシロウ。


「……冗談に決まってんだろ。気をつけんなよ、そんなもん」


「ふふ、そっか」


「そんで?目的は?」


「うん、お守り買いに行きたいなって。弥宵に。縁結びのお守り」


 お守りを『買う』と言う目に見えた揚げ足を嬉々として取りに行くシロウ。


「残念、お守りは『買う』もんじゃねーんだなぁ。あれは神仏から後利益を『受ける』もんなんだよ。だから巫女さんも『お納めください』って言うだろ?『毎度あり!』って言わないだろ?そう言う事だ」


 細かい事を一々うるさいなぁ、と言う言葉を再度飲み込み、北風と太陽よろしく憎まれ口を封印して笑顔で感心してみる事にするイズミ。


「へぇ、シロウは物知りだね」


「……何だよ、熱でもあんのかよお前」


「ううん、平熱だと思うけど。ご心配どうもありがと。ふふふ」


 新鮮な反応に上機嫌なイズミとシロウは、目当ての神社へと向かう。


◇◇◇


 電車で10分程揺られて向かったその神社は彼らの住む東京都下では比較的有名で大きな神社であり、主祭神は大国主。イズミの言う様に縁結びの神様でもある。


「へぇ~、俺でっかい神社って来るの初めてだ」


 キョロキョロと物珍し気に見渡しながら参道を歩く。


「お正月は本当にすごい人だよ。この両側に出店も一杯出るし、お祭りみたいな感じかな」


 両手を広げて参道の両側を示す。


「マジか。人混みは嫌いだけど見てみたいな、それ」


 両手を広げたまま楽しそうにクルリと回るイズミ。


「じゃ、4人で来ようよ。半年前だし、平気でしょ?ふふっ」


 珍しく揚げ足を取り返し、悪戯そうに笑う。


「……了解、空けておくわ」


 参道を進み、授与所へと進む。土曜日とは言え観光地と言うほどではないのでさほど多くの人はいない。


 縁結びの御守りも幾つか種類があるようで、真剣な顔をしてイズミは選び、シロウはステッカーや破魔矢を興味深げに眺めている。


 暫くして、漸く御守りを選び終えたイズミはやり遂げた顔でシロウに声を掛ける。


「お待たせ。シロウの言うとおり『お納め下さい』って言われたよ」


「だろ?って言うか、常識な」


「弥宵のはピンクで、私は水色にしたんだ。ふふ、かわいい?」


 袋からお守りを2つ出してシロウへと見せる。


「あー、そう言えば好きな奴いるって言ってたっけ?人の事よりお前はどうなんだよ。上手くいってんのか?」


 イズミはお守りをしまい困った顔でジッとシロウを見る。


「どうだろうね」


 シロウは呆れ顔で首を横に振る。


「どうだろうね、じゃねーよ。人の心配もいいけど自分の事も気にしろよな」


「じゃあ……、シロウも手伝ってくれる?」


「……手伝うって、まさかお前までマキトloveなんて言うんじゃ無いだろうな!?」


 眉を寄せるシロウを安心させるように笑って手を振り否定する。


「あははっ、違うってば。ね、協力してくれるの?」


「……柏木にしてお前にしない理由が無いな」


 その言葉にイズミはにっこりと笑い、シロウの服を引く。


「ありがと。じゃあとりあえず……、神頼みしに行こっか」


「へいへい、お供しますよ。あ、賽銭は誰持ち?」


「自分の分は自分に決まってるでしょ、罰当たり」


 



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