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5年振りに会った幼馴染から『友達の話なんだけど』と相談を持ち掛けられたら  作者: 竜山三郎丸


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第29話 ただ卵焼きを巡る何て事の無い一話

◇◇◇


 昼休みの学食――。


 割り箸と水の入ったコップが3つ乗ったトレーを持ち、柏木弥宵は歩く。


「えっ、なっ、まっ……」


 言葉にならない声を出しながらトレーを持って歩く柏木。緊張に強張る身体はクッションが効かずコップからちゃぷちゃぷと水がこぼれて割り箸は水浸しだ。


 翻訳するならば、『えっ、何で蒔土くんついてくるんですか?』だろうか。


 その後ろをニコニコしながらついてくるマキト。


「やぁ、シロウ。僕もここ座っていい?」


 パックのジュースを片手にシロウの隣の椅子を引き微笑むマキト。


 シロウの向かいはイズミが座っている。



「お好きにどうぞー。うっわ、マキト。お前のせいで俺の箸がひどい事になってんぞ」


 机にトレーを置いた弥宵は、息を吐く間も無くシロウに弁解をする。


「シロウくん!悪いのはわたしだよ!」


 シロウはジロリと白い眼をマキトに向けて水に濡れた割り箸を差し出す。


「いーや、こいつだよ。ニコニコして後ろついて来てたじゃねぇか。明らかにわかってやってたぞ」


「あはは、ごめんごめん。面白かったからつい。替えの箸貰って来るよ」


 飲みかけのパックジュースを机に置いたままマキトは席を立つ。



 胸を押さえてふーっと大きく息を吐く弥宵。


 シロウはニコリと爽やかな微笑みを浮かべて、マキトが置いていったパックジュースを柏木弥宵にそっと差し出す。


「柏木、お疲れさん。ほら、飲めよ」


「えへへ、ありがと~」


 何の気無くジュースを受け取り、ストローに口を近づけた所でハッと柏木はその本来の持ち主に気が付き、勢いよくシロウを見て声を上げる。


「殺す気かっ!」


 真面目な顔の弥宵とは対照的にへらへらと軽薄な笑みを浮かべるシロウ。


「いやぁ、ご褒美のつもりだったんだけどな」


「もうっ、やっていい冗談と悪い冗談があるよっ」


◇◇◇


 少しして割り箸と菓子パンを1個持ちマキトが席に戻ると、弥宵の弁当箱の蓋にはイズミの弁当から卵焼きとブロッコリーが提供されている。


 4人掛けのテーブル。シロウの隣はマキト、向かいはイズミ。つまり、弥宵の向かいはマキトだ。


「えへへ、シロウくん。やっぱり止めよっか。わたしの負けでいいからさぁ」


 学食へ向かう時の威勢の良さは消え失せて、引きつった笑いで料理の乗った弁当箱の蓋を回収しようと弥宵は手を伸ばすがシロウはひょいと蓋を取り上げる。


「何言ってんだよ。戦いはこれからだろ」


「何の戦いが始まるの?」


「あぁ。柏木とイズミの卵焼きバトルだ」


「へぇ、興味深いけどなんでそんな事に?」


「柏木が善意で卵焼きくれるって言ったら、イズミも卵焼きを渡してきたんだ。戦いの火ぶたが切られるのは必然と言えるだろ?」


 シロウの言葉にイズミも口を尖らせる。


「そんなつもりで渡したんじゃないもん」



「あっ、じゃあさ。折角分けてくれたんだし、僕とシロウで一つずつ貰うってのはどうかな?それなら戦いの火ぶたとやらは切られないんじゃない?」


 元々が卵焼きバトルに多大な関心がある訳でもないシロウはコクリと頷いて弁当箱の蓋をスッとマキトに差し出す。


「マキトが言うならしょうがねぇな。お前選んでいいよ、俺どっちか答え知ってるからさ」


「そう?じゃあ――」


 恩着せがましく言ったシロウの言葉にマキトが卵焼きに手を伸ばそうとすると、弥宵が声を上げる。


「うあっ!だだだだめっす、ままま蒔土くん!これ、毒入ってるんで!クソマズ即吐きなんで!こっち!絶対だめっす」


 制止をしようにもマキトに触れる訳には行かないので、大慌てで何とか自身の卵焼きを選ばせないように主張するが、正直者のババ抜きと同じでそっちが弥宵の卵焼きなのはバレバレだ。


 マキトはニコリと微笑み弥宵の卵焼きをひょいとつまむ。


「あはは、毒って。そこまで言われると興味湧いちゃうよね」


「うあぁあ……」


 卵焼きを追いかけた視線はマキトの口付近へと移動して、ついマキトと目が合ってしまいそのまま硬直する。


 パクリ、とマキトは卵焼きを頬張る。


 イズミもシロウもその光景をただジッと見守る。


 モグモグとマキトは卵焼きを咀嚼して、弥宵はその光景を視界に入れたまま固まっている。


「うん、おいしい」


 弥宵が料理上手な事はイズミも知っており、弥宵の作った卵焼きが不味い筈が無い事も分かっていたが、マキトの言葉に二人は胸を撫でおろす。


 隣の弥宵の顔を見ると、今にも泣きだしそうな顔で口を少し開けてただマキトを見つめていた。誰が見ても弥宵がマキトに好意を寄せているだろう事がわかる表情だ。


「本当においしい。他のも少し食べてもいい?あっ、僕の買って来た菓子パンあげるよ」


 弥宵は言葉を発せず、コクリ、コクリと操り人形の様に頷いた。


「で」


 隣の席の2人はさておき、イズミはシロウをジロっと見てトントンと机を指で叩く。


「シロウは食べないの?どっちかの卵焼き」


 わざと勿体付けた言い方をするイズミに呆れ顔を向けるシロウ。


「どっちかのって、答え出てるだろ」


「そうだっけ?ほら、マキトくんも食べたんだからシロウも食べたらいいじゃない」


 しょうがねえなぁ、と弥宵がミニ弁当を作ってくれた弁当箱の蓋に目をやると残りの卵焼きは既にマキトが食べていた。


「マキト、お前趣旨理解してる?」


「あ、ごめん。食べちゃった」


 イズミはクスリと笑い、弁当箱をシロウへズイっと近づける。


「はい、一つ取っていいよ」


「あれ?そう言う話だっけ?」


「いーいーかーらー」


 マキトが持ってきた割り箸を割り、手を合わせる。


「それじゃあ失礼して」


 イズミの弁当箱から卵焼きを一つ取りパクリと頬張る。


「うん、美味い。お前の母ちゃん料理上手な」


「作ったのはわーたーしっ」


「あ、そう。うん、まぁまぁ美味いよ」


「……何で少し評価下がってんのよ」






 







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