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5年振りに会った幼馴染から『友達の話なんだけど』と相談を持ち掛けられたら  作者: 竜山三郎丸


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第28話 学食へ行こうよ

◇◇◇


 昼休みの始まる鐘が鳴り、教室に開放的な空気が広がると同時に穂村司郎は総菜パンの封を開ける。


 一つ百円ちょっとの大型の総菜パンを頬張り、何度か咀嚼すると炭酸で流し込む。3分程度で総菜パンを食べ終えると、机の上に置いた鞄を枕替わりに机に顔を伏して眠りに就く。狸寝入りなどでは無く、がっつり本眠だ。イヤホンを付けて、目を閉じれば3分以内に眠りに落ちる自信がある。


 つまり、穂村司郎は昼休みの鐘から6分以内に眠りに就く事が可能と言う訳だ。


「え、何でもう眠ってるの。起きなよ、どうせ狸寝入りでしょ」


「いずみん、もしかして本当に眠ってるかもしれないじゃん。止めなよ、行こ」


 昼休みが始まって5分後に二人がシロウのクラスを訪れた時はシロウはまだギリギリ眠る前だった。


 鞄を枕にして、窓の方を向いて机に伏したまま返事をせずにそのまま眠る事に決めた。別に返事をしても構わないとも思ったが、今起きて狸寝入りと思われるのも癪なのでもう3分かけてこのまま眠る事にした。


 だが、霧ヶ宮泉はその3分を与えるつもりは無い様子。


「えい、起きるスイッチ。ピッ」


 イズミはシロウのつむじをピッと人差し指で押す。


「ちょっと、いずみん……。あはははっ」


「起きてるの知ってるんだから。おーきーろー」


 ぐりぐりとつむじを押していると、堪忍袋の緒が切れたシロウの頭がギュンと勢い良く回り真顔のシロウがイズミ達の方を向く。


「きゃあっ!」

「んぎゃっ!」


「……ねようとしてるのに余計なちょっかい掛けるんじゃねぇよ。小学生かおめーは」


 イズミと弥宵は身を寄せ合いホラー映画から抜け出して来たクリーチャーを見るような目で鞄を枕にしたままのシロウを見る。


「よっ……呼んでるの聞こえてたんでしょ!?すぐに起きればいいじゃない」


「おかしな動きしてたけど、首……大丈夫?シロウくん」


 恐怖を帯びながらも心配の眼差しを贈る弥宵を指さしながらイズミに白い眼を向けるシロウ。


「柏木を見習って心配の声の一つでも掛けたらいいんじゃないっすか?」


「勝手にふざけてやったんだから筋を痛めようが、骨を折ろうが自己責任てものよ」


「いや、違うね。お前が俺のつむじを押した事により起こった現象なんだから、それにより起こった因果の責任はお前にあるだろ」



 シロウの反論を受けてイズミは大きくため息を吐く。


「はいはい、わかったわかった。ああ言えばこう言うんだって忘れてた」


「ねぇねぇ、早く行かないと時間無くなっちゃうよ。ほら、シロウくんもお昼行こっ。学食!」


「いや、俺もう食ったし。で、これから午睡を取る所をお前らが邪魔をしに来たって訳だ」


「えっ、まだ昼休み始まって5分も経ってないのに!?」


 弥宵は時計とシロウを二度見する。


「何が午睡よ、カッコつけた言い方したってただの昼寝でしょ。いいからおいでってば」


「シロウくんも行こうよ~、卵焼き一個あげるからさ~」



 弥宵はシロウの袖を引く。


「へぇ、柏木が作ったの?」


「うん、まぁね。半分冷食だけど、ちゃんと自分で詰めてきてるんだよ?偉いでしょ、えっへん」


 そう言って柏木弥宵はその豊かな胸を張る。


「じゃあお呼ばれしますかねぇ。あと何くれるの?」


 柏木の誘いを受けてシロウは重い腰を上げる。


「じゃあ私の作った卵焼きもあげるわ。半分ね」


「え、すげぇなお前。敢えて白黒つけさせるんだ」


 シロウは驚きの眼差しをイズミに向け、弥宵は両手でガッツポーズを作る。


「ふふふ、いずみん!望むところだよっ」


「えっ!?……あっ、違うの!別に食べ比べとかそう言う意図じゃないんだってば!」


「行こうぜ、柏木。戦場に」


「うんっ!」


「だから違うのっ!」


 足早に学食と言う名の戦場に向かう二人を追いかけながらイズミは弁解を繰り返した。



◇◇◇


 シロウ達の通う高校の学食は日替わりの2種類のランチと、カレーライスの合計3種類のメニューがあるが、弁当等を持ち込んで食堂で食べる事も許可されている。


 入学して約二か月、シロウが学食を訪れるのは初めてだ。


「お、端っこ空いてんじゃん。あそこにしようぜ」


 シロウが指さしたテーブルはトイレの目の前の最不人気席。イズミも弥宵も眉を顰める。


「え、やだ。トイレの前じゃん」


「ね、あそこはやだ。あっ、ほらテーブル空きそう!ちょっと行ってくるね」


 弥宵は小走りに席を片付ける女子達に駆け寄り、ニコニコペコペコしながら机拭きを引き受けている。なるほど、全部終わってからだと早い者勝ちで上級生に譲ったりしなければいけなくなるかもしれないが、後始末を引き受ける事で平和に席を譲り受ける事に成功したと言う訳だ。


「シロウは学食初めて?」


「まぁね。来る理由も無いし」


「マキトくんは毎日来てるんでしょ?」


「マキトは友達と一緒だろ?マキトの友達は俺の友達じゃ無い」


 そんな話をしていると視線の先の弥宵が両手で大きく〇を作る。


 3人が席について、イズミと弥宵が弁当箱を開くとシロウはニィッと笑い口を開く。


「さぁ、戦い(ゲーム)の始まりだ」


「いや、始まらないから」


「じゃじゃーん、弥宵ちゃんの手作り弁当だよ!おいしそうでしょ~?シロウくん、ミートボール以外で何か食べたいのある?あったら分けてあげるよ」


 弁当箱の蓋に約束の卵焼きを取り分けて柏木弥宵はニコニコと笑う。


「あ、じゃあミートボールで」


 シロウがミートボールを指さすと、弥宵は必死で弁当箱をシロウから遠ざける。


「ダメッ!ミートボールだけは絶対ダメ!」


 我が子を守る猫の様な眼でキッとシロウを睨む弥宵を見てイズミはクスリと笑う。


「弥宵はミートボールが大好きなんだよ。照り焼き味の」


 当然そんなのは織り込み済みのシロウはへぇとも言わずに言葉を続ける。


「あぁ、だろうな。別に俺は特別好きと言う訳じゃ無いから、どうなるかなーと思ってさ」


「もうっ!シロウくんは意地悪だなぁっ!」


 プンプンと怒りながらも弁当箱の蓋にシロウ用のミニ弁当を取り分けている柏木弥宵。


「あっ、割りばし貰って来るね」


 返事も待たずに忙しそうに小走りに弥宵は席を立つ。


 その後ろ姿を見てシロウは感心した様に頷く。


「すげぇなぁ、女子力の塊かよ」


「ふふ、かわいいよね」


 クスリと他人事の様に笑うと、がやがやと学食の喧騒の中で、周りに聞こえない様に声を落として独り言の様にイズミはボソリと呟く。


「……上手く行って欲しいなぁ、マキトくんと」















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