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5年振りに会った幼馴染から『友達の話なんだけど』と相談を持ち掛けられたら  作者: 竜山三郎丸


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第27話 自転車に乗って

◇◇◇


「ねぇ、シロウ?最後にもう一度だけ聞くけど、あの自転車本当にマキトくんから借りたのよね?」


「ははは、母さん。流石にうちのシロウが(せっ)チャなんてケチな真似をするはずは無いだろう。なぁシロウ?父さんは信じてるぞ。……だが、もし万が一の事があるなら正直に言ってくれよ。男と男の約束だからな。友達から借りたなんて言ってもな、防犯登録を確認されれば一発でバレるんだぞ?」


 翌日の朝、早目に登校の準備を終えたシロウに心配そうな視線を向ける両親。窃チャとは自転車窃盗転じてチャリ窃盗から来ている言葉だろうと推測される。


「全然信じてねぇだろ、早く仕事行け」


「あっ、そうだ!父さんそのマキトくん?っていう子にお礼言いたいなぁ~。シロウ電話番号わかるか?勿論わかるよなぁ、友達なんだもんなぁ」


「最早疑いを隠そうともしねぇな」


 シロウはジッと白い目を父に向けながらスマホを取り出し、マキトに電話をする。


『おはよー、どうかした?』


「あー、朝から悪いな。両親がチャリをパクった疑いをかけてくるんだ。で、うちの親父が自転車を貸してくれた心までイケメンなマキトくんにお礼を言いたいんだとさ。いい?」


『あはは、信用無いなぁ~シロウ。僕で良ければ説明するけど』


「ほんと悪い。どうやら俺に友達の一人もいないと疑っている様子なもんで。ビデオ通話にするぞ」


『どぞー』


 そしてスマホを父に渡す。


「ほい、気が済むまで尋問したら?」


「ばっ……シロウお前人聞きの悪い事言うんじゃない!……ははは、どうもどうもシロウの父です」


 画面の向こうで爽やかに笑いペコリと頭を下げるマキト。


『初めまして、お父さん。シロウくんと仲良くさせてもらっています天野蒔土と申します』


 キラキラと朝日の様に輝くその笑顔にシロウ父も気後れする。


「これはご丁寧にどうも、……はは」


 今日は自転車通学で無くバス通学になる為、朝の準備で忙しいだろうにマキトは嫌な顔せずシロウ父とのビデオ通話で、自転車は自分が貸した旨をニコニコと説明してくれた。


「……ほらな?マキトだって暇じゃないんだから用件が済んだらさっさと切れよ」


 口を尖らせてスマホを催促するシロウ。


「わかったわかった。マキトくん、朝からどうもすまなかったね。でも、そもそも何でお前が自転車なんて借りたんだ?」


「うっせぇ、そういう気分なんだよ」


『あぁ、聞いてません?幼馴染の霧ヶ宮さんの足にボールぶつけちゃったから、家まで送る為に僕が貸したんです。今日もこれから家まで――』


「はーい、以上現場の天野アナでした」


 マキトが話している途中でプツリと一方的に終話する。


「な?本当だっただろ?朝から我が子を疑った自身を精一杯悔いて小遣いの一つでも渡したらいいと思うぞ」


 スマホをしまってからもう一度手を差し出し、今度は小遣いの催促をするシロウに驚きの眼差しを向ける父。


「シロウお前、霧ヶ宮さんって……、昔このマンションに住んでたイズミちゃんの事か!?」


「そうだよ。偶然高校で一緒になったんだよ。そんなの良いから小遣いくれって。朝の貴重な時間を費やしたんだからよ」


 父は真剣な眼差しで我が子を見つめる。


「わかった。シロウ、一つだけ教えてくれ。お前は……、……青春してるのか?」


「はぁ?過去最大級に意味不明だぞ、おっさん。してるわけねぇだろ」


 シロウは否定するが、それすらも青春の一部だと言わんばかりに一人納得して父は何度か頷く。


「そうだなぁ、うんうん。あのイズミちゃんかぁ。そうかぁ。おーい、母さん!母さんは知ってたか!?はははっ」


 話が面倒くさくなりそうなので、小遣いの徴収を諦めて家を出る事にする。


 そして、自転車で出発をする。


 マキトの言う様に、霧ヶ宮家へ――。



◇◇◇


「おはよ」


 家の前に着きスマホで呼び出すと、既に準備が済んでいた様で思いのほかすぐに玄関を開けて霧ヶ宮泉が顔を出す。


「おう、早いな」


「『おう』じゃないでしょ、『おはよう』でしょ。ほら、言ってみなよ。おーはーよーう」


 シロウはムッと眉を寄せて文句の一つでも言おうかと考えたが、それも芸が無いのでスタンドを立てた自転車の傍らで大仰に恭しくお辞儀をする。


「おはようございます、イズミお嬢様。かぼちゃの馬車でお迎えに上がりました」


 シロウからしてみれば近所の目を気にして慌ててくれればとの算段だったが、イズミは満更でも無さそうにクスリと笑う。


「ふふ、ありがと。舞踏会まで連れてってくれるの?」


「えぇ、天下一の方でよろしいでしょうか?」


 シロウの返しがよく分からず、一瞬眉を寄せるがすぐにまた微笑んでコクリと頷く。


「じゃあ、それでお願い」


「……それでお願いじゃねぇよ。俺が言ってるのは武道会だ。戦う方だよ」


 その言葉に気分を害された様で、イズミはムッとした表情で口を尖らせる。


「何で私が戦わなきゃいけないのよ。足だって痛いのにさ」


 そう言ったイズミの足に目をやると、左ひざの少し上に赤紫色の痣が見える。


 シロウの視線に気が付き、イズミはさっと膝の辺りを隠して挑発的に笑う。


「あっ、どこ見てるのよ」


「いえ、どこも見てないっすよ。立派なお家だなぁって」


「嘘ばっかり」


「まぁ、事の真偽は置いておいて。どのくらい時間がかかるのかわかんねぇからぼちぼち出発しようぜ。乗れよ」


 そう言って自転車のスタンドを外す。


「うん、ありがと」


 少し左足を引きながらイズミはゆっくりと玄関を離れて自転車へと向かう。


 シロウはハンドルを握り、サドルに乗る。


 それを見てイズミはクスリと笑う。


「サドル下げた?」


「……うるせぇな、しょうがねぇだろ。あ、俺の足が短いんじゃないぞ?マキトの足がなげぇんだよ」


「ふふ、そうだね」


 昨日の帰り道、公園でマキトから自転車を借りた帰り道。足の長いマキト用にアジャストされたサドルはシロウには高すぎた為、停車する度に何度もバランスを崩しかけた事実がある。


 それ故にシロウはサドルを下げた。


「よいしょっ」


 後ろをちらりと見てイズミがちゃんと座るのを確認する。


「そんじゃ出発するぞ、学校の裏手までだからな。しっかり掴まるんじゃないぞ」


「ふふふ、照れちゃって」


「照れてねぇ。照れる理由がねぇ」


「ふーん、じゃあ弥宵だったら?」


 シロウは首を傾げて想像した後で照れ笑いをする。


「柏木かぁ……流石にちょっと照れ臭いなぁ」


「はい、出発~。全速前進、シロウ号!」


「へいへい、落ちるなよ」


 そして、二人は学校へと向かう。本当は、歩けないほど痛くは無いけれど。



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