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5年振りに会った幼馴染から『友達の話なんだけど』と相談を持ち掛けられたら  作者: 竜山三郎丸


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第25話 行き交う会話と別の何か

◇◇◇


「マキトくんが告白された?」


 バドミントンのラケットでトントンとシャトルリフティングをしていたイズミが驚きの声を上げると、シャトルはラケットを逸れて地面に落ちる。


 放課後、場所は公園。イズミは落ちたシャトルを拾いあげる。


「断ったっぽいけどな。でも、珍しいもんでも無いっぽいぞ。俺の知る限りでも去年塾で告白されてたし。つーか、イズミは何で遊びながら人の話聞いてるの?」


「あ、ごめん。弥宵とバドミントンやりたいね、って話になって友達に借りたの。やる?って言うか、出来る?」


 シロウは大きくため息を吐いて立ち上がると腕まくりをしてラケットを受け取る。


「お前さ、俺が中学の時何部だったか知ってる?」


 自信たっぷりにラケットを一度ヒュンと振るシロウに戸惑うイズミ。


「え、何部って……帰宅部じゃないの?」



 シロウはニヤリと笑い、シャトルを打つ。


「正解」


「もうっ、何よ」


 パスっと音を立ててイズミもシャトルを返す。


「スカートでバドはどうかと思うぞ。お決まりの『下履いてるから平気』ってやつか?」


 言葉とシャトルはまたイズミに渡る。


「当然でしょ。いちいち聞かないでよね。セクハラよ、セクハラ」


「へいへい、すいませんね。意外に上手いな、お前。流石分福茶釜の霧ヶ宮さん」


「つまんな。文武両道って言いたいんでしょ。素で間違ってたら相当やばいと思うわ」


「へぇ、文武両道の自覚はあるんすね。そりゃご立派な事で」


 会話の分だけラリーは続く。


「意外に上手いのはシロウの方でしょ?バドミントンなんてやった事あるの?」


「いや?人とやるのは初めてだ。シャトルリフティングとか壁打ちとかは結構やったけど」


 手近な距離でシャトルの交換を行っていた二人の距離は一打ごとに少しずつ離れていく。



「どういう事?意味わかんないんだけど。何でバド部でも無いのにそんな事するの?」


「何でと言われても別にバドミントンだけじゃねーし。強いて言えば一人で出来るから、か?」


「余計意味わかんない」


「別にいいんだよ。分からせるつもりも分かってもらうつもりも無いから、ははは」



 その物言いにイズミはムッと不満を露にする。


「何それ。全っ然興味なんて無いけど、ムカつく言い方。詳しく!」


 シャトルを打つ手に力が入る。


 対してシロウはいつも通りヘラヘラとした笑みを浮かべながらシャトルを返す。


「いやいや、マジで特に何もないっす。そんなどうでもいい事よりマキトの攻略会議はどうしたんだよ」


「どうでもいいなら教えてよ」


「オッケー、じゃあ俺が先にシャトル落としたらな」


 そう言って少し角度を付けてシャトルを打ち、イズミを右に振る。


「絶対ね?」


 ラケットを伸ばし、イズミはシャトル返す。


 そして、上がったシャトルに合わせてシロウはジャンプしてラケットを振りかぶると勝利を確信してニヤリと笑う。


「落としたらな?」


 シロウはラケットを振る。


 ――が、無情にもラケットは空を切る。


「うげぇ」


 スローモーションの様にシャトルは重力に引かれて草の上に落ちる。



「……ぷっ」


 イズミは口を押さえて笑いを堪え、シロウは引きつった照れ笑いを浮かべる。


「ま……まぁ?本気になるのも大人げないし?」


「あのどや顔でその弁解は無理があると思うけどなぁ、ふふふ。『落としたらな?』きらーん、って感じだったけど。あれなの?シロウの脳内ではマキトくんばりのイケメンに変換されてたの?ねぇねぇ」


 ここぞとばかりにニヤニヤと追撃をかます霧ヶ宮泉。


「うっせぇ。黙れ。大人げねぇぞ。触れずにそっとしておくのが礼儀だろが」


「あー、もうっ。動画撮りたかったなぁ。ねぇ、もう一回やってよ。お願い!」


「や・る・かっ!」


 シロウから渡されたシャトルとラケットをラケットバッグにしまうと、ゴクゴクと紅茶で喉を潤す。勝利の美酒だ。



「ぷはぁ。で、何でバドミントン得意なの?」


「別に得意じゃ無いし、バド限定でも無い。サッカーのリフティングとか、野球のバッティングとか一人で出来るのは粗方かじってみただけ。俺中学ほとんど行って無かったんで時間が腐る程あったからさ」


 想定外の言葉にイズミはキョトンと目を丸くして、確認するように復唱する。


「中学ほとんど行って無かった?……初耳だけど」


「積極的に話す事でも無いしなぁ。と言っても、特別意味も事件も無いからご心配なく。中学も高校も行かなくても高認取れば大学行けるじゃん、て思ったら行くの馬鹿らしくなってさ。ははは、どう考えてもその方が合理的だろ?結局親の手前高校は受ける事になって今に至る訳だけども。あ、高認試験って知ってる?高等学校卒業程度認定試験って言って、その試験合格するだけで高卒程度の学力が認定されて大学受験も出来るんだぜ?」


 きょとんとしたまま話を聞いていたイズミは、聞き終わるとムッと頬を膨らませてシロウを睨む。


「学校は勉強だけじゃ無くて集団生活や社会性を学ぶ場所なんですけど」


「そうらしいなぁ」


「……そうらしいな、じゃないでしょ。心配させないでよ、何があったのかと思ったじゃない」


 イズミの心配を他所に他人事の様にケラケラとシロウは笑う。


「だから特に何も。言うなれば『積極的不登校』って所だ」


 不満は解消されていない様子で、イズミはシロウを睨み続ける。



「学校に来てなかったら動物園だって行けなかったんだからね」


 わざと恩着せがましく言ったつもりのその言葉に納得した様子で頷いて笑う。


「それは確かに。いや~、正直リアルを軽視していたと実感してるよ。あんなでかいのが野生にいるなんて信じられないよなぁ。つーか、野生動物自体ほとんど見た事ねーけど」


 へらへらと笑うシロウとは対照的に、彼をキッと睨んだままイズミの詰問は続く。


「楽しかったでしょ?」


「最高に」


 その真偽を問う様に何秒かそのままシロウの目を見たかと思うと、コクリと一度頷く。


「なら良し。……そ、それはそうとさ、話は変わるんだけど」


 急に歯切れの悪い言葉に変わり鞄を探り出すイズミ。


 鞄の中から小さいぬいぐるみを二つ取り出す。キリンと、ゾウだ。



「……お土産を買う時にどっちか迷ったから両方買っちゃったんだけど、……よかったら一ついらない?」


「え、マジで!?いいの!?」


 明らかに苦しい提案だが、突然の僥倖(ぎょうこう)に沸き立つシロウはそんな事気にもならない。


 シロウは迷わずノータイムでキリンを手に取る。


「そんじゃ遠慮なくキリン様もーらいっ」


 イズミは嬉しそうに微笑む。


「ふふ、そんなにキリン好きなんだ」


「まぁね。昨日更に好きになった」



「……へぇ」


 嬉しそうに笑うシロウを見て、どこに向ければいいのか分からない感情にイズミは口を尖らせて短く返事をした。


「あ、こないだネットで見たんだけど。送り付けられたぬいぐるみに盗聴器とかカメラが入ってるって事があるらしいな」


「へぇ、そう。今関係ある話?」









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