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5年振りに会った幼馴染から『友達の話なんだけど』と相談を持ち掛けられたら  作者: 竜山三郎丸


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第21話 よく晴れた日曜日

◇◇◇


 ――日曜日。雲一つ無いとはいかないが、青い空を白い雲の縁取りが飾る様な爽やかな空模様だ。


 モノレールに揺られて4人が来たのは郊外にある動物園。


「でけぇ!」


 入口にある巨大な象の像を見上げて驚きの声を上げるシロウ。彼らしからぬテンションに他の三人はニヤニヤとその様子を眺め、イズミはスマホを向けて動画を撮っている。


「あんな元気なシロウ初めて見たよ」


「ふふ、後で見せてやろ」


 イズミは悪戯そうに笑う。



「シロウくん、これ本物の象と同じ大きさなんだよ」


 弥宵はニコニコと動物園ビギナーに教えてあげるが、シロウは小馬鹿にした様に鼻で笑う。


「まさか。幾ら何でもデカすぎるだろが。俺を騙そうったって……」


 疑いの眼差しを向けられて尚ニコニコと微笑む大天使柏木弥宵を見てシロウはもう一度象の像を見る。


「冗談抜きで、真面目な話?」


「うん、そう言ってるじゃん。象と同じ大きさだよ、って」



「……マジかよ。デカすぎんだろ!あはは、こんなのどう考えたってライオンより強いだろ!?何だよ百獣の王って!それともあれか?象は百獣の中に入ってないのか?はははっ!でけぇ!」


「んふふふ~、良い反応だねぇ。江戸時代に初めて象を見た人もこんな感じだったのかな~?」


「江戸時代に象っていたの?」


 イズミの問いかけに弥宵が答えるよりも早くシロウが口を挟む。


広南白象(こうなんはくぞう)で検索しろ。かの有名な徳川吉宗の時代だぞ」


「へぇ」


 弥宵と二人で口を開けながら何度も象の像を見上げるシロウ。


「でけぇなぁ」


「大きいねぇ」


 全力で動物園を満喫している様子だが、その実まだ入園すらしていない。

 

「弥宵ー、シロウー、そろそろ入ろうよ」


 イズミの呼びかけでハッと我に返るシロウ。


◇◇◇


「なぁ、マキト。お前何の動物が好きか当ててやろうか?チーターだろ?」


「え、何その唐突な決めつけ。何かなぁ、……あっ、コアラとか?」


「コアラもいいよな。水に濡れたコアラで検索してみ?」


「へぇ。お風呂上りみたいな?」


 言われるままにスマホで検索してマキトは驚きの声を上げる。


「うわっ!?何これ強そう!」


「ははは、コアラさんはただかわいいだけじゃないんだぞ」


 上機嫌でケラケラと笑うシロウ。



 上機嫌のシロウとマキトが並んで歩き、その少し後ろをイズミと弥宵が歩いている。


「いい天気だね~、いずみん」


「ね。晴れてよかった」


 理想を言えばこのお出かけで弥宵とマキトに仲良くなって欲しいが、あまり結果を急いで不自然に接触させてもいい結果は生まないだろうとイズミは考える。極論イズミと二人で園内をまわることになってもそれはそれで構わない。


「弥宵の言ってた何とかアリクイは?」


「ミナミコアリクイ?残念、ここにはいないんだよね~。超かわいいんだよ!あっ、マレーバクならいるよ!それも超お薦め」


「まれーばく?」


「うん、白と黒で激かわいいよ。さて、ここでいずみんに問題です、ジャジャン!」


「え、何急に」


 唐突にクイズ風の効果音を口で言う弥宵に困惑を隠せないイズミ。弥宵は構わずに言葉を続ける。


「アリクイは蟻を食べますが、バクは何を食べるでしょ~かっ!」


「そもそもどういう生き物かがわからないんだけど……草とか?」


 その答えを聞いて弥宵は大きく肩を落とし溜息を吐く。


「せいか~い……。そうだね、草食だからね。草とか果物だね。うん、合ってるよいずみん。正解正解」


 明らかに落ち込んだ様子の弥宵を見て慌てるイズミ。


「何か悪い事言った!?」


「ううんー、別に?バクだから夢を食べる、とかそう言う答えは期待していないよ~。そんなバクちゃんはあちらです」


 そう言って分かれ道の進行方向を指さす。


「へ……へぇ!見たい見たい。かわいいんでしょ?行こうよ」


 弥宵の落ち込む原因はいまいち納得出来ていないが、どうにか元気づけたい様子。


「先キリンとかの方がいいんじゃなーい?ルート的に」



 園内図を広げたシロウがそれを聞いて振り返る。


「柏木、ここ詳しそうだな」


 柏木弥宵は胸を張り得意げに答える。


「ふふん、まぁ嗜む程度にはねぇ」


「このマップを見るだけで広大な事はわかる。出来る限り効率よく周れる最適ルートはどれだ?」


 弥宵は分かれ道の右を指す。


「やっぱり最初は花形のキリンや象から周るべきでしょ」


「キリンと……象か!ライオンは?」


「残念、今工事でお休み中~。一日で全部周ろうとしない方がいいよ、って言うか無理だから」



 シロウはニヤリと笑う。


「柏木、……挑戦する前から無理なんて言うもんじゃないぜ」


 弥宵もニヤリと笑う。


「うん、私は別に無理じゃないよ。一般論。何なら走っても行けるけど?」


「言うじゃねぇか、後悔すんなよ?よーい……」


『ドン!』


 合わせて声を上げると二人は坂道を駆けて行く。


 マキトは精神年齢小学生の二人の後ろ姿を見て、イズミを見る。


「走る?」


 イズミは呆れ笑いで首を横に振る。


「ううん、止めとく。汗かくから。マキトくんも走りたかったら気にせずにどうぞ」


「ははは、僕も遠慮しておくよ。しかし、シロウがこんなに動物が好きだなんて意外だったなぁ」


 イズミもクスリと笑う。


「ね。弥宵が動物好きなのは知ってたけど」


 マキトは眉を寄せて彼らの駆けて行った坂を指さす。


「え、本当に?こんな坂走って上るくらい好きだって知ってたの?」


「あ、ごめん。それほどとは思わなかった」


 二人は笑いあう。


 傍から見れば美男美女のカップルと言って差し支えの無い二人だ。



「柏木さんとは小学校から一緒だって聞いたけど。すごいね、小中高って同じなんて」


「マキトくんはいないの?同じ中学の子」


「C組とF組に一人ずついるよ。一人は同じサッカー部のマネージャーだね」


「へぇ。中学の頃から大分おモテになったって聞いてますけど?」



 イズミの言葉にマキトは困った顔で首を横に振る。


「それは間違いだね。正確には……小学校の頃からだよ」


「あ、謙遜しないんだ」


 イズミはクスリと笑う。


「うん、謙遜すると嫌味に聞こえるみたいだから。しないようにしてる、あはは」


「モテすぎるのも大変なのね」


「そうなんだ。シロウはなかなかわかってくれないんだけどね」


「んー、それはちょっと酷だと思うよ?」


 二人は笑いあって坂を上る。



 空は青く、白い雲が彩り、坂を少し上った木陰のベンチにはうなだれて肩で息をする二人の姿。まだ一匹の動物も見ていないのに。

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