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第2話 友達の好きな人

◇◇◇


「100円を入れる時にさ、何て言うか……こう上の方に角度を付けながら勢い良く指で弾くんだよ。そうすれば大概入るから」


 穂村司郎(しろう)と霧ケ宮(いずみ)による第二回天野蒔土(まきと)攻略会議inファミリーレストラン。ドリンクバーのみはイズミの奢りとなる。


 シロウは見えない自動販売機にお金を入れる真似をしながら得意げに説明を続けるが、イズミはコーンポタージュを飲みながら眉を(ひそ)める。


「本当に?」


「勿論。勢い良くバシュッと弾くんだよ。あれ何で100円玉だけなんだろうな、入らないの」


「違うってば。そんなのどうでもいいから。そんな下らないきっかけで蒔土くんと仲良くなったの?って事!」


「あ、下らないって言ったな?俺とマキトの友情の100円物語を。それなら本人に聞いてみろよ」


「わかったってば、信じる信じる」



 友情の100円玉物語――。去年、高校受験対策で同じ塾に通っていたシロウとマキトは元々は全く接点を持っていなかった。片やイケメンで社交的なマキトと、特に目立たぬ容姿で多人数と触れ合う事を嫌うシロウには当然の事だった。決して内向的と言う程でも無いが、多人数で集まると『自分一人が話さなくてもいいかな』と輪から離れる傾向があり、それにより一人でいる事が多くなった。


 それ自体は別に苦痛でも何でもない。ただの一つの傾向だ。


 ある日の休憩時間にブラックコーヒーを買いに自販機に向かうと、お金が入らずに困っているイケメンが居てそれがマキトだった。声をかけるのも面倒なので諦める迄少し待機していたが首を傾げながらも何度もお金を投入するマキトにイライラしたシロウは声を掛けてしまう。


「貸せっ!同じ事何回もやって通る訳ねーだろ、コツがあるんだよ!」


 そう言って100円玉を奪い取ると、前述のコツを使い一発で100円玉を入れて得意げにニヤリと笑う。


「おぉー、ありがとう!君すごいね」


 キラキラした瞳でイケメンに感謝されれば誰だって悪い気はしない。イケメンは正義なのだ。


「いいから早く買えよ。待ってるんだから」


 照れ臭そうに困り顔でシロウは答える。思えば人に感謝をされたのはいつ振りだろう。


 で、その後コーヒーを買おうとしたら財布にお金が入っておらず、横で見て居たマキトが100円を貸してくれた。と言うのが友情の100円玉物語だ。


 結局の所、きっかけなんて何でもいいのだ。人によっては冗談抜きで消しゴムを拾った事がきっかけになる場合もあるだろう。彼らにとってはそれが100円玉と自販機だっただけの話。



「ゴホン、話を戻すわね。当面の作戦なんだけど、まずそれとなく蒔土くんに弥宵(やよい)が優しいいい子だって事を刷り込んで欲しいの」


「オーケー、ステマだな」


 シロウの相槌に眉を寄せながら、作戦概要を進める。


 弥宵とは、天野蒔人に思いを寄せるイズミの友人柏木(かしわぎ)弥宵(やよい)だ。もっとも、天野蒔土に思いを寄せる女子は多く、作戦の成功は彼と親密な関係にあるシロウに掛かっていると言っても過言では無い。


「他にもっと良い言い方あるでしょ?絶対悪い意味の言葉じゃん、それ」


「まぁまぁ、そんなんどうでもいいだろ。サブリミナルばりにばっちり深層心理に刷り込んどいてやるよ。だが優しい子だけじゃパンチが弱いぞ?他にセールスポイントは?例えば胸が大きいとか」


「確かに胸は大きいけど……。これ写真ね、かわいいでしょ?」


 明るい髪の色のショートボブで、にっこりと口を大きく開けてポーズを取る少女の写真。背はさほど高くないが、制服でもわかるくらい胸は大きい。


「あ、そう。興味無いね」


 画面の写真を見た途端にがっくりとうなだれるシロウ。


「えっ、なに急に。興味持ってよ!どうしたの?」


「いや、別に。一応聞くけど、度の過ぎた浪費家だったりしない?で無ければ足が臭いとか、怪しい宗教にハマってると最高なんだけど」


「何で急にイカれちゃったの!?どこかにネジ落とした!?」


 念の為テーブルの下を覗いてみるが勿論そんな物は落ちている筈がない。


「だってさぁ……。何で俺彼女の一人も居ないのに、只でさえもてる奴にそんな優良物件紹介しなきゃいけないんだろ、って思ってさ。だったらでかい欠陥があればまだ納得できるだろ?」


 弥宵の写真が好みのタイプだったようで、思いの外ショックを受けるシロウに哀れみの目を向けるイズミ。


「あんたも人並みに彼女欲しいんだ?」


「……悪いかよ。言っとくけどそれが普通だからな?」


「あー、……うん。何かごめんね。えへへ、ポテト食べる?今日は奢るよ」


「……食べる」


 押しボタンを押して店員さんを呼ぶが、その間シンと無言になる。


 その無言はホカホカのポテトがテーブルに運ばれてくる迄ずっと続き、湯気の立つその皿をイズミは救世主の様に待ちわびた。


「ほら、シロウ!どんどん食べて元気出して!ケチャップ?マヨネーズ?好きなの付けていいから!」


 シロウはわざとらしく落ち込んだ振りをして、チラリとイズミを見るがその実とっくに立ち直っている。そもそもがそんな事で落ち込むほど繊細では無い。


「……うまい」


 下を向きながらボソリと呟くと、イズミはホッと胸を撫で下ろす。


「でしょ!?あはは、おいしいよね。全部食べて良いからね、全部」


「……パフェも、……食いてぇな」


 メニューをチラリと見ながらまたシロウは呟く。


「パフェも!?」


 わざとポテトの端を持ち、チビチビと食べる事で物悲しさと気落ち感を演出する。ここで押すのは逆効果。ただイズミの良心へと訴える作戦だ。


 イズミは溜め息を吐きまたボタンを押すと、念を押すようにジロリとシロウを見る。


「……今日だけだからね。私イチゴ。あんたは?」


「キャラメル……」


◇◇◇


 キャラメルパフェがテーブルに到着して漸くシロウは元気を取り戻す……振りをする。元より落ち込んでなどいない。


「二人が上手くいったらシロウにも誰か紹介するからさ、協力してよね」


「弥宵ちゃんよりかわいい子じゃなきゃダメだぞ」


「紹介はするよ?相手があんたを気に入るかは責任持てないけど」


「無責任な奴だな。そこはしっかりステマしとけよ」


「ハイハイ、じゃあ一応聞いておくけどあんたの売りは?」


「売り……?」


 イズミはパフェは側面から掘る派だ。シロウは上の層から順に食べ進めていく。


「長所よ。お勧めポイント」


「えー……っと。誠実さとか?将来性?」


「将来性」


 馬鹿にしたように復唱してイズミはニヤニヤと笑う。


 パフェを食べ終えた頃、第二回会議はお開きとなる――。




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