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第18話 月曜日

◇◇◇


 サッカー部の活動日は月、水、金、土。剣道部の活動日は火、木、金、土。美化委員会の活動日は不定期で、シロウの活動日は月、火、水、木、金。帰宅部は運動部よりも活動日が多いので、帰宅部の方が偉いと言うのがああ言えばこう言う穂村司郎の持論だ。


 それはさておき月曜日。


 シロウが白亜の城こと白い外壁の賃貸マンションを出てしばらく歩くと、後ろから自転車の音が近づいてくる。自転車の音はどんどん近づいてくるが、どうせマキトだろうと思い振り返らずにそのまま歩いているとすぐ後ろで勢い良く『キキッ』とブレーキ音がする。


 どうせマキトだろう、と思いそのまま振り返りもせずに歩いていると案の定マキトが困った顔で自転車を押して横に並ぶ。


「おはよ!何で無視するんだよ!?」


「悪いな、そんな遊びに付き合う程幼稚じゃないもんでね」


「……幼稚で悪かったね」


 ジャージやボールの入ったスポーツバッグを前カゴに入れた自転車を引きながらシロウの横を歩く。


 時折同学年の女子がマキトに挨拶をして、マキトは爽やかに手を振り応える。


「同じ学年?」


「うん、ていうか同じクラスだね。つまり、君も」


「へぇ、よく覚られるよな。それにアイドルでも無いのによく手を振るわ」


「シロウも手を振ってみたら?」


「あ、バカにしたな?お前。いいだろう、やってやるよ。どうなっても知らないぞ?責任取れよ、マジで」


 シロウはムッと不貞腐れた顔をしてジロリとマキトを見るがマキトはニコニコと笑う。


「あはは、取る取る」


 どんな責任をどうやって取るのかは分からないが、お互いにここから言葉を翻すのは非常に恰好が悪い。賽は投げられた。彼らはルビコン川を渡ったのだ。



 両手をポケットに入れて涼しい顔で歩いているが、その実シロウの心臓はドキドキである。そもそも何で手なんて振らなければならないのか。本当に振らなければならないのか。


 何故名前も知らない女子に手なんて振らなければならないのだろう。これは何かの罰ゲームだっただろうか?


 内心戦々恐々としていると、不意に前方から声がする。してしまう。二人連れの女子だ。


「マーキトくーん、おはよ~」


「おはよ」


 反射的に笑顔で手を振り返してからマキトはチラリとシロウを見る。


 マキトにその意図があるかは分からないが、シロウはその視線を自身への挑発と捉える。


 腹を決め、ヘラっと口元を緩ませながら左手で小さく手を振る。


 女子たちはめいめいに眉を顰めて顔を見合わすと、当たり障りのない愛想笑いを浮かべた後で何かを言いながら足早に学校迄の道を急ぎ、一度だけチラリとシロウ達を振り返った。


「責任」


 ボソリとシロウが呟くが、マキトは楽観的に笑う。


「あの子たちは隣のクラスの子だね。笑ってたじゃん、ははは」


「……お前はバカか?笑いにも種類があるんだよ。嘲笑、苦笑、失笑、愛想笑い。な?今のあの子達の笑いでNK(ナチュラルキラー)細胞が活性化すると思うか?癌が抑制できるか?何ならお前に向ける笑顔を一生あんな感じにしてやろうか?いや、あの子達は悪くねぇよ?悪いのはお前だもん」


 恨みがましい視線を横目で送り、ネチネチと小声かつ早口で文句を垂れ流すシロウに苦笑いのマキト。


「あはは、納得。ごめんってば」


「俺の爽やかな朝を台無しにしてくれた責任はどうお取りになるんですかねぇ?マキトさん」


「えー、っと。取り合えず自販機でいいかな?」


「そうな。取り合えず、な」


 ひとまず納得した様子で頷くシロウ。


 次の自販機を見つけ、小銭を入れるマキトを監督する様に偉そうに腕を組み傍らに立つシロウにいつかの様に声が掛かる。


「あれ、また朝からマキトくんにたかってるの?いい加減止めた方がいいよ、そういうの」


 声の主は見るまでも無く霧ヶ宮泉。


「人聞きの悪い事言うなよ。これは俺が正当に請求し得る当然の権利なんだから」


「はいはい、おはよ」


「シロウくん、おはよっ!」


「おう、おはよう」

「おはよ」

 

 イズミの傍らで太陽の様な笑顔を見せる柏木弥宵を指さして白い目でマキトを見るシロウ。


「マキト、覚えておくといいぞ。これ、これが見本ね。ガン細胞殺しそうだろ?」



「だねぇ、殺しそう。ははは。ところで柏木さんは何背負ってるの?ずいぶん重そうだけど」


 満面の笑顔に隠れていたがマキトの指摘通り弥宵の手には黒い竹刀袋、背には黒い合皮製の大きい防具袋が背負われていた。


「はぇっ!?いやいや、全然重くなんて……ないす。えへへへ、慣れてますんで」


 照れ笑いをしながら顔を背けて頭を掻く弥宵。


「そう?重そうだけど。試しに持ってみてもいい?」


「だだだめですってば!剣道の防具なんですから、超々々々汗臭いって言うか……そんなの蒔土くんに触らせられないっす!」


「あはは、平気平気。ほら、貸してみてよ」



 二人のやり取りを横で眺めるシロウとイズミ。


「やっぱり超臭いの?あれ。」


「……人による。人間だってケアしなければ臭いでしょ?」


 小柄な弥宵の背負う黒い防具袋がマキトに取り上げられて、奪い返そうと真っ赤な顔の弥宵があわあわと手を伸ばす。


 その光景をニヤニヤしながら見守り、チラリと互いを見て口角を上げる。本当はハイタッチでもしたいくらいの気持ちだったのかも知れないが、流石に当人同士の目の前でする事ではない。


「……よっと。あぁ、やっぱり見た目通り結構重いね」


「重さなんてどうだっていいんすよ!そんな事より……何て言うか」


 防具袋を背負うとまた自転車に跨り、ニコリと微笑む。


「いいトレーニングになりそうだ。先行ってるね」


「えっ、お前が――」


 ――先に行ってどうするんだよ、と思ったがそれを言う間も無くマキトは風の様に自転車を漕いで学校に向かった。



「……見ての通り、あいつ基本いいやつだから」


「どうしよう……、新しい防具袋買った方がいいかなぁ!?あれ神棚とかに飾った方がいいかな?!ねぇ、シロウくん!マキトくん……格好良すぎ!もう!」


 シロウはマキトの真似をしたような爽やかな笑顔を浮かべる。


「そうだな、絶対飾った方がいいぞ。マキト様のご加護があるからな」


「……胡散臭い笑顔」


「流石に傷つくぞ?」




 




 







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