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5年振りに会った幼馴染から『友達の話なんだけど』と相談を持ち掛けられたら  作者: 竜山三郎丸


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第15話 元気な子

◇◇◇


「シロウくんっ、今日いずみん遅いから一緒にかーえろっ」


 休み時間、柏木弥宵はシロウ達のD組に来てニコニコとそう言った。イズミは委員会活動の為遅くなるそうで、部活の無い柏木はいい機会だとシロウを誘いに来たのだ。勿論もう一つの思惑もある。


「え、やだ」


 机に伏したシロウに眉を顰めながら即答されて、弥宵は驚きの声を上げる。


「えぇっ!?何で!?いつもいずみんとは一緒に帰ってるじゃん!」


「別にイズミともいつも帰っている訳では無い。誤解を招く様な物言いには十分気を付けて欲しい」


 毅然とした塩対応で弥宵の誘いを断るが、弥宵とてそんな説明では納得できない。


「ふーん、そっかぁ。いずみんの誘いは受けるけど、わたしの誘いは受けられないって事かぁ。なるほどねぇ、いずみんは特別かぁ」


 柏木弥宵は腕を組み、にやにやと意味ありげな笑みを浮かべながらゆらゆらと動く。


 シロウは呆れ顔で廊下を見るがイズミの姿は無い。弥宵にせよイズミにせよ先日の反省会の結果を踏まえての事だろう。


「ねぇねぇ~、いいじゃぁん。お茶しようようっ」


 いつの間にか要求が一緒に帰る事からお茶をする事に変わっている。イズミの姿は無い、と思ったが窓の外、コの字型の校舎の反対側から心配そうにこちらを見るイズミが目に入った。


 ほんの小さな事かも知れないが、二人とも少しずつ頑張っているのだ。そして、シロウにもそれは伝わった。


「……わかったよ。言っておくけど金は無いからな。美人局(つつもたせ)とか仕掛けても無駄だぞ?」


 その言葉に柏木弥宵は腕を組んだままきょとんとした顔で首を傾げる。


「つつもたせ?」


「あぁ、美人局ってのは――」


「こらこら、シロウ。あんまり変な事言っちゃダメだってば」


 見かねたマキトが呆れ顔で振り返りシロウの言葉を遮る。マキトの席はシロウの一つ前だが、シロウが席を下げている為他の席より大分離れていて、シロウの席だけ離れ小島の様になっている。


 振り返ったマキトと目が合うと、弥宵はメデューサに見つめられて石化したかのようにピタッとその動きを止め、マキトはニコリと爽やかな微笑みを浮かべる。


 特に何等かの効果を狙っての物ではない。天が与えた無意識の天賦の技能だ。異世界に行けば【魅了】とかそう言うスキルが付くだろう。

 

「柏木さん。僕こないだのマンガ続き買っちゃったよ」


 固まった笑顔で何度か酸欠の金魚の様に口をパクパクした後に、柏木弥宵は声を絞り出す。


「え……えへへへへへ。そっかぁ!おももももも面白いよねぇ!うん!ねぇ!?シロウくんっ!」


 呪いの人形さながらの急な動きでシロウを振り返り救難信号を送る弥宵に一瞬驚きつつも、シロウはマキトの真似をしたような爽やかな微笑みを返すが、それは弥宵の神経を逆撫でする。


「あーもうっ!腹立つ笑顔だなぁっ!全然似てないっ」


「ひでぇな、おい」


 二人のやり取りを眺めてクスクスと笑うマキト。


 コの字の反対側の校舎でイズミがおろおろと慌てた様子を見せ、それから間も無く弥宵のスマホがピロンと鳴る。


 そして、スマホを見る間も無く授業開始のチャイムが響く。


 休み時間は終わり。


「あっ、やば」


 スマホを見るとイズミからで『授業始まるよ!』とメッセージが送られていた。


「うん、知ってるっ!じゃあシロウくん、放課後ね!」


 シロウに有無を言わさず力強くそう言い、チラリとマキトを見てぎこちない笑顔を見せると弥宵は足早にD組を後にした。


 チャイムが鳴り、皆が席に戻るとマキトはまたシロウを振り返りクスリと笑う。


「元気な子だね」


 マキトからの思わぬ感想に思わずシロウの口元も緩む。


「そうだなぁ」


◇◇◇


 霧ヶ宮(きりがみや)(いずみ)は美化委員に属している。その名の通り校内及び外周の美化並びに環境整備を目的とする委員会活動である。


「高校では部活やらない代わりに委員会にしたんだってさ」


 いつも攻略会議が行われるファミレスでミックスジュースを飲みながら弥宵は言う。


「へー、剣道部だったんだろ?何で高校ではやらないんだ?」


「そんなのいずみんに聞きなよ」


「覚えてたらな。そこまで積極的な興味がある訳じゃないし」


「あ、いずみんに言ってやろ」


「嘘っす。興味深々です。次会ったら聞くのでお気遣い無く」


「嘘くさぁ」


 ケラケラと弥宵は笑う。


「柏木は小学校も一緒なんだって?」


 コーラフロートのアイスをスプーンで押し込むシロウ。クーポンを用いてバニラアイスを単品で頼み、ドリンクバーのコーラと調合して作りあげたコーラフロート。


「うん、転校初日から仲良しだよ。ほら、出席番号も近いでしょ?『かしわぎ』と『きりがみや』。ね?」


「へぇ、剣道はどっちが?」


「はーい、わたし。小学校からやってるんだ」


「すげぇなぁ。何段?」


「二段。えへん」


 弥宵は得意げに胸を張る。


 中学生から始めたイズミと同じじゃん、と言い掛けた言葉を飲み込むがその間を察した弥宵はジト目でシロウを見る。


「あっ、今あんまりすごくないって思ったでしょ?高一では二段までしか取れないんです~」


「何も言ってないだろ」


「目が言ってたよ、目が。『俺の愛しのイズミと同じ段じゃねぇかよ』ってさ。あはははっ」


「腐ってるのは目か?頭か?」


「もうっ、シロウくんはひどいねぇ!あははっ」


 箸が転がっても楽しい柏木さんはまたまたケラケラと笑う。


「あ、マキトがさ。『元気な子だね』って」


「えっ」


 短く驚きの声を上げると柏木弥宵の顔は真っ赤になる。


「いやっ、空元気っす。あはは、そんな映画のタイトルみたいな。……ねぇ?冗談きついっすよ。えへへへ……」


 手のひらで顔を隠しながら照れ笑いをする弥宵。


「それ、天気な?」


 

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