第14話 反省会
◇◇◇
「はーい、それでは反省会を行いまーす」
シロウ達3人は放課後、学校から徒歩10分程の公園に集合する。例のだだっ広く池のある公園だ。お決まりの東屋に集まり、今日も池では亀が気持ちよさそうに過ごしている。
「はーいっ」
「何で反省会なの?」
柏木弥宵は元気に手を上げて返事をするが、霧ヶ宮イズミは首を傾げる。
例の如くコンビニで買ってきたお菓子をパーティ開きにしながらシロウは眉を寄せる。
「な、ん、で?ほほぅ、いい質問っすねぇ霧ヶ宮さん。じゃあ一旦状況を整理しましょうか?」
新発売のスナックをポリポリと口に頬張りながらプシュッと炭酸のキャップを捻る。3人で集まる時の費用は割り勘の様だ。
「柏木から借りた少女漫画、あれ確かに面白かった。『泣ける』って言葉は気安く使いたくは無いんだが、已む無しと言ったところだ」
「泣いたなら泣いたってはっきり言えばいいじゃない」
「はい、議長黙って下さい。まだあなたの番じゃありません」
口を尖らせてシロウを追求したイズミはむっと口を噤む。
「ねぇねぇ、シロウくんはどこで泣いたの?告白の所もいいけど、その前の喧嘩もいいよね~。すれ違いって言うかさぁ」
「あ、君もちょっと待ってね。今それ言うところじゃないから」
ニコニコと呑気に感想を述べてくる弥宵を制止する。
「へぇ、弥宵には随分優しいんだ」
「うるせぇな。次から次に出てくるんじゃねぇ。もぐらたたきかよ」
「あははっ、もぐらたたきって!」
シロウはため息を吐いて言葉を続ける。
「はーい、話を戻しますねぇ。んで、柏木から借りたその漫画を?マキトに貸す事で柏木とマキトに接点が出来ればいいね、って作戦だった訳だ。そこまでいいよな?はい、次。進みます」
「前置きが長い」
ボソリと呟くイズミの言葉に答えずに、反省会が開幕する。
「まず、イズミ。何でお前がニコニコ応対してんだよ。バカじゃねぇのって思ったよ正直」
「ばっ……ばかぁ!?」
「シロウくんひどい!」
「そこは柏木に話させるべきだろが。直接面識があるのはお前なんだからそりゃお前に話しかけてくるだろうけどさ。普通に自然に柏木を推すチャンスだったんじゃないですかねぇ……」
「……そう言われると」
「平気だよ、いずみん!私全然気にしてないから!」
「気にしろ。んで、柏木。君は何でイズミの陰に隠れてただニコニコとマキトを眺めてるだけなの?今みたいに聞いてもいないのに感想言えばよかったじゃん」
「……だって、マキトくんカッコいいんだもん」
シロウは大きく肩を落とす。
「理由になってねぇ。あのさ、この際だから聞いちゃうけど柏木はマキトとどうなりたいの?」
「えっ!?どうって……」
弥宵は顔を逸らすと、マキトから返却された少女漫画を一冊取り出し、それで顔を隠しながらぼそぼそと呟く。
「そんなの、……言えないっす」
横を向いているが、耳が真っ赤なのできっと顔も赤いだろう事が想像できる。
「クルロナへの好きとは違うって事でOK?」
弥宵はコクコクと頷く。
「ほら」
イズミが得意げな顔でシロウを見るが、シロウは敢えて反応をしない。
「話した感じ人見知りとかでも無さそうなんだけど、何でいつもマキトが来るとニコニコしてるだけなんだ?」
シロウの問いかけにイズミは大きくため息を吐く。
「そんなの決まってるでしょ?」
「え、何急に攻勢に出てるの?お前の罪は雪がれてねーから」
「悪かったって思ってるもん。もうその話は終わり」
「シロウくん、いずみんは悪くないってば!」
「しょうがない、大天使柏木がそこまで言うなら今回は赦してやろう。次は無いと心得ろよ?」
「何でシロウがそんなに偉そうなのよ」
シロウは適当な枝を拾って地面にガリガリと何かを描く。
「いいか?サッカーで例えてやる。お前はムッシでもクルロナでも無い、ミニエスタと心掛けろ。パスを出すんだよ。決定的なパスを。柏木に。間違っても自分がゴールを決めようとするな」
恐らくサッカーの戦略図だろうものを地面に書き、イズミに言い聞かせるが当のイズミは困り顔で首を傾げる。
「何でサッカーで例えてくるの?余計わかんないんだけど。ミニエスタって?人?ポジション?」
「いずみん、人だよ。すごいパス出す超すごい人。何とね、今日本でプレーしてるんだよ!じゃん、これ画像ね」
弥宵が差し出したスマホを覗き込むイズミ。
「あ、かわいい」
「……かわいいか?」
「かわいいよね~。でも若い時はもっとかわいいんだよ?じゃじゃん」
「ほんとだ、かわいい」
かわいいしか言わない二人に首を傾げながらシロウもスマホを覗き込む。
「あ、かわいい」
「でしょ!?」
一旦逸れた話を軌道修正。
「でさ、話戻るけど何でニコニコしてるだけなの?」
同じ質問を繰り返すシロウに再び呆れ顔を向けるイズミ。
「だからさ、そんなの決まってるでしょ?」
「繰り返すなよ、その決まり事を共有してくれ。前提の共有ってのは意外と大事だぞ?そこがずれてると後で取り返しの付かない事にだな……」
「言葉が上手く出てこないんだよねぇ」
困った顔で弥宵はニコリと笑う。
「好きだから……かなぁ?」
その顔は、嬉しそうにも、泣きそうにも見えた。
「なぁ、イズミ。……俺はどうしてマキトじゃ無いんだろうな?」
「また唐突な無い物ねだりね……」
本当に悔しそうに、言葉を絞り出したシロウを慰めるようにイズミは微笑み言葉を続ける。
「大丈夫、マキトくんに無くてシロウが持ってるものだってきっとあるからさ」
「……例えば?」
「えっ?例えば……、ちょっと待ってね。えっとねぇ」
「あー、いいいい。もういい」
「貯金とかは?」
「残念、あいつの家金持ちなんだ」
「あはは、そっかぁ」
「あははじゃねぇしそっかぁじゃねぇ。慰めならもっと本腰入れろ」
「ねぇ、シロウくん。好きな食べ物とかは?」
「知るか!メロンパンだよ、多分」
反省会、終わり。