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第13話 友達の友達

◇◇◇


「で、どうだったの?」


「あぁ、作戦通り。柏木から借りたマンガが面白いって言ったら興味持った感じだったから貸してやったよ」


 柏木弥宵と天野蒔土の接点を作る迂遠な口コミ大作戦。ひとまずの成功に胸を張るシロウにジト目を向けるイズミ。


「そっちじゃないわ。感想よ」


「そっちかよ。まず作戦を気にしろよ」


「どこが良かった?どの子が好き?どのシーンが好き?」


「お前……、自分の好きは言わねぇ癖に人には聞くのかよ」


「人から本を借りたら感想くらい言うのが礼儀じゃないの?」


「だからお前どの口でそれを言うんだっての」


 呆れ笑いを向けながらも感想を言いたい気持ちは勿論ある。例えそれが一方通行だとしても。


 柏木弥宵オススメの少女漫画は、亡くなった幼馴染に縛られた少年に恋心を向ける少女を取り巻く恋物語だ。


 とは言え、人の貸した野球漫画の感想は言わない癖に自分は感想を聞きたいと言うのは虫が良すぎはしないだろうか?と、シロウは一手打つ。


「イズミはあれだろ?一巻途中の壁ドンされるところだよな?何度も開いてるから折り目ついてたぞ」


「えぇっ!?うそっ!?」


 当然嘘である。だがその反応でシロウはイズミの好みを確信する。そして、煽るでも無く理解を示す様に何度か頷く。それは更に感想を引き出す為の撒き餌である。


「確かにいいシーンだよなぁ、うん。あとは2巻の雨の日の所とかな」


 イズミはコクコクと頷いて口を開く。


「う……うん、あそこも好き。雨のせい、って言ってても本当は泣いてたんだと思うの」


「だよなぁ、うんうん。でさ、告白のシーンなんて最高だったよな。やっぱりイズミさんもああいった告白に憧れてたりされるんですか?」


「んんー……」


 頬を少し赤らめて考えて、熱を冷ます様に両手で持ったグラスに口を付ける。


 次の瞬間、我に返った様子でジロリと上目にシロウを睨む。


「……引っかかる訳ないでしょお」


 イズミの反応にケラケラと笑うシロウ。


「はははは、誰も引っかけて無いっすよ。人聞きの悪い」


「嘘吐き。折り目なんて付けてないもん」


「いや、それはマジ」


「えっ、嘘……」


「あ、嘘っす」


「もうっ!知ってるからっ!」


 恥ずかしさをごまかすようにイズミは声を上げる。


 それはそれとして、作戦の第一段階成功を祝い取りあえず乾杯をする。


 柏木から借りたとマキトにも言って貸しているのだから、今度顔を合わせた時にでも感想があるだろう。因みに又貸しの承諾は事前に受けていて、柏木弥宵としては『読みたいって人がいたらどんどん貸しちゃっていいからね!』と言うスタンスだ。


 で、第一段階の成功と言う事は、第二段階とは?

 

 そもそも最終目標は?


 考えてみて二人は首を捻る。


 面識を持たせて、連絡先の交換をして、皆で遊んで、ゆくゆくは二人だけで会うようになり、やがて告白をして、付き合う……だろうか?


「そこの所柏木は何て?」


「え……知らない」


 イズミは困り顔でシロウを見て、シロウは驚いた顔をする。


「知らないってすげぇなぁ。何をどうしようとしてたんだよお前」


「えぇ~……?だって、マキトくんの事カッコいい、好きって言ってたから。……だからそれなら普通、告白して、付き合いたいのかなぁと……思ったんけど」


 言い辛そうにぼそぼそと呟くイズミの言葉にうんうんと頷くシロウ。


「同じような事イケメンサッカー選手(クルロナ)に言ってたけどな」


 イケメンサッカー選手に上げる黄色い嬌声とマキトに上げるそれとの違いが彼らの恋愛経験では判別が出来ない。


「うーむ、一応確認した方がいいんじゃねぇ?余計な勇み足とかになったら目も当てられないぞ」


「確かに……ねぇ。でも、何て聞こうか」


 作戦は一歩前進したものの、会議としての根幹が揺らぐ様な大問題だ。


「普通に聞けよ。『マキトくんとどこまでいきたいの?』って」


「え、何かやだその聞き方。もっとマイルドなのにしてよ」


「……うっせぇなぁ。取り合えず友達、その気があればその先、って感じでいいんじゃないっすかね?今度直接聞いてみようぜ。『マキトくんとどこまでいきたいの?』って」


「その言い方やめてってば!」



◇◇◇


「シロウ、漫画読んだよ。少女漫画ってあんまり読まなかったけど面白いね」


 また後日、机に伏しているシロウにニコニコと笑いかけるマキト。


「主人公の男にすげー共感できるよな」


「……ははは、そうだねぇ」


 少し照れ臭そうに笑って答えるマキトに即座に冷たい視線を送るシロウ。


「残念ながら少女漫画の男に共感できるのはイケメン限定なんだなぁ。フツメン及びブサメンは全く共感できねぇんだよなぁ」


「えぇっ!?何そのトラップ!」


「当たり前だろ?例えば俺がどの面下げて壁ドンや顎クイすればいいんだよ」


「んー、普通にやればいいんじゃないの?」


「やんねぇんだよ、普通は」


「これ続きも出てるんだよね?買っちゃおうかな」


 席に座り長い足を組み、パラパラと漫画を捲る。


 その様子を見たクラスの女子も『マキトくんもそれ読んでるの?』とか、『私も持ってるよ』とか我が意を得たりと話しかけてくる。

 

 彼女達はシロウに話しかけないし、シロウもそういう時は話に入らない。マキトもそれがわかっているから他者と話している時はシロウに話を振らない。


 彼女達が去った後でまたシロウに話しかける。


「返すのは直接柏木さんに返した方が良いかな?」


「あー、そうね。その方が喜ぶかもね。感想聞きたくて布教してんだろうから。後でA組持って行けよ」


「そうしようか。シロウもついてきてよ」


「絶対嫌だ」 


 

◇◇◇


「本当についてきてくれないの?」


「えぇ、申し訳無いですが」


 次の休み時間、無責任な笑顔を見せるシロウに見送られながらマキトはA組に向かおうと教室を出る。


「あっ」

「きゃあっ!』


 丁度教室の後ろ扉の所でイズミと弥宵に鉢合わせ、弥宵は悲鳴に似た嬌声を上げてイズミの陰に隠れる。


「や、霧ヶ宮さん。丁度これからA組に行こうと思ってたところなんだ」


「もしかして弥宵の少女漫画?」


「うん。すごい面白かったよ。霧ヶ宮さんも読んだ?」


「勿論。ふふ、どこが良かったかは秘密だけど」


 マキトは楽しそうにイズミと漫画の感想を話し、傍らでは弥宵がイズミの陰に隠れながらもニコニコとやり取りを聞いている。


 窓際の一番後ろの席からその様子を眺めていたシロウは、マキトの表情を見て何やら違和感を感じる。


 チラリとイズミを見ると目が合い、軽く口角を上げて小さく手を振って来た。





 




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