表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/68

第11話 動き出す攻略会議

◇◇◇


「マキトはサッカー好きだけど別に詳しいわけじゃないから。海外の選手とかもゲームで知ってるってレベルなんだよ。多分俺の方が詳しい。みんな勘違いしがちなんだけど、あいつにサッカーの話を振るのは割に悪手なんだ。困惑する顔が見たいなら試してみる価値はあるんじゃねぇ?ははは」


「えっ!?嘘!ムッシとCR8どっちが好き?とかダメ!?」


「柏木……『さん』以外からももう嫌と言う程されているだろうし、マジでゲームでしか知らないから話を振るも意味無いぞ。そのゲームにしたって付き合い程度だから」


「むー、そっかぁ。勉強になるなぁ。あっ、柏木さんじゃなくて弥宵でいいよ?シロウ先生」


「……流石にそりゃハードルが高すぎる。柏木って呼ぶわ」


「どぞどぞ」


 シロウの言葉を忙しそうにノートにまとめる柏木弥宵。漸く攻略会議らしくなってきたと言える。


「ねぇ、CR8って何?薬?」

 

「いや、人」


 短く簡潔なその応答はお気に召すものではなかったようで、イズミは口を尖らせて不平を漏らす。


「もう少し詳しく教えてくれたって良いじゃない。私だけ仲間外れにしちゃってさ」


「うわぁ、めんどくせぇ事言い出したぞ」


 弥宵はスマホで検索をして画面をイズミに見せる。


「はい、いずみん。この人。超かっこいいよね!」


 CR8は今世紀を代表するサッカー選手クルストフ・ロナウドの略称だ。一般的には『クルロナ』と呼ばれる事が多い中、CR8と呼ぶ事から弥宵はクルロナのファンであると想像が出来る。


 サッカーの実力は言うまでも無く、鍛え上げられたギリシャ彫刻のような鋼の肉体と、モデル顔負けの端正なルックス。やはりイケメンは正義である。


「あっ、本当だ。カッコいいね」


 弥宵から差し出されたスマホを覗き込んでイズミも頷き、弥宵も得意げに微笑みながら次の画像を見せる。


「でしょう!脱いでもすごいんだよ……?ほら」


「……えっ!?ちょっと……、あ本当だ。すっごい筋肉」


「でしょでしょ!?」


 女子高生二人のイケメン談義に呆れ顔のシロウだが、口を挟んで(ひが)み扱いされても(しゃく)なので落ち着くまで静観を決め込み、落ち着いた頃合いを見て口を挟む。


「あのさ、その会話はマキトに一切効果無いからな?むしろ食傷気味で逆効果」


 その言葉で弥宵はハッと我に返る。


「そうだった!……どうしよう!?」


 自分の口出しで話を脱線させてしまった自覚のある霧ヶ宮泉は無言でストローに口を付ける。



「そうだなぁ。取り合えず外見を褒めるのとサッカーの話を止めてみたらいいんじゃねぇ?顔の事だって言われ慣れてるだろうしさ。あっ、逆に会うなり『不細工!』って罵ってみるとか?」


「えっ、無理!口が裂ける!」


 慌てて口を抑える弥宵。口が裂けても言えない、の応用か誤用か。



「何か柏木だけの共通した話題があると印象強いんだけどなぁ」


 首を捻るシロウへ呆れ顔を向けるイズミ。


「その為にシロウに話を聞いてるんだけどなぁ」


「だから柏木の事を知らないとそれが分からないってずっと言ってたんだけどなぁ」


 呆れ顔のイズミに呆れ顔を向けるシロウ。


「へぇ、じゃあ私が悪いって言ってる様に聞こえるんだけどなぁ」


「あぁ、伝わったか。良かった」


「あ、わかった。バカにしてるでしょ?」


 挑発的な薄笑いを浮かべるシロウと恨みがましくジッと睨むイズミにおろおろと交互に目をやる弥宵。


「あわわわ、私のせいで喧嘩なんかしちゃダメだってば。どうすれば……」


 慌てる弥宵を安心させる様にイズミはニコリと微笑む。


「大丈夫、割にいつもの事だから。昔からこういうやつなの」


「あー、その言葉はそっくりそのままお返ししよう。特に気にすんな、柏木」


「えへへへ……、なら良いけど。びっくりしたよ、もう」


 笑いあうシロウと弥宵を見ながら、ストローで空のグラスの氷をカラカラと回すイズミ。


「そうだ。弥宵、こないだ貸してもらった少女漫画面白かったよ」


 シロウは心配そうな顔でイズミを見る。


「……大丈夫か?食べこぼしとかさ」


「ご心配どうもありがと。大丈夫です」


「寝転がって読んでて目に食べカスが降ってくるとマジで殺意湧くよな。気をつけた方がいいぞ、本当」


「だから平気ですって穂村君」


 出来るだけ早く食べこぼしの話題を終わらせたいイズミ。


「今四巻持ってるから貸す?」


「うん、借りる借りる」


「あ、俺に貸して」


「はぁ?」


 イズミは訝しげな顔でシロウを見る。


「何かいかがわしいこと考えてるんでしょう?」


「すげぇ跳躍力の言い掛かりだな。まぁ、聞こうか。例えば?」


 イズミは困った顔でピッと人差し指を立てる。


「例えば……、盗撮カメラを仕込むとか」


「本に?」


「……ぐっ。……盗聴器を仕込むとか」


「だから本に?」


「食べこぼしを……」


「そりゃお前だろ」


「お菓子食べながら漫画読まないもん!」


 声を上げるイズミを見てクスクスと笑う弥宵。


「あはは、大丈夫だって~。知ってるから」


 

「あー、話戻すぞ?柏木から借りた漫画が面白かった、ってマキトに話せば自然じゃねぇ?って思ってさ」


「お~、自然!大自然だ」


 弥宵は嬉しそうにパチパチと拍手をした後で首を傾げる。


「でも今日持ってるの四巻だよ?一巻からじゃなくていいの?」


「あぁ。最初から読まなきゃ面白くない漫画なんて凡作だ。本当に面白いもんはどこから読んでも最初から読みたくなるんだよ」


「えぇ~、ハードル上げるなぁ。でも、いずみんが先約だからその次ね!」


「じゃあ結局一巻からか。早く読めよな、いずみん」


「……いずみんって呼ばないで」


「えっ!?だめ!?嫌だった!?」


「弥宵じゃなくて!」


「えー、じゃあ不肖書記のワタクシがまとめますね。作戦名『口コミ大作戦』近日決行と言うことで、各自準備よろしくでーす」


「いつ書記になったの?」


「はーい!」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ