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「約束の赤いリボン」 改稿版

 ある日、女の子にぼくは買われた。

ぼくは、テディーベア。

一般的な全身茶色の、クマのぬいぐるみだ。


 女の子は嬉しそうにぼくに頬ずりをする。

その女の子は、シホちゃんと母親に呼ばれていた。

シホちゃんはぼくを大事そうに抱えて、車に乗って家に帰った。


 シホちゃんは一人っ子だった。

だがもうじき、双子の男の子と女の子が生まれるらしい。

シホちゃんにとって一気に弟と妹の両方ができるのだ。

お母さんのお腹はぽんぽんに膨らんでいた。

 お父さんとお母さんがにこにこしている中、なのにシホちゃんはどこか悲しそう。

黙って、ぼくを抱えて部屋の隅に居た。

なぜシホちゃんが黙っているのか、ぼくは分からなかった。


 次の日。

冬の暖かい日だった。

 シホちゃんは今、お気に入りの髪型があった。

お母さんと一緒の髪型のポニーテール。

シホちゃんはちょっとだけ長い髪をポニーテールにし、ピンク色のリボンで結んでいた。

お外があまり好きではないシホちゃんは、お部屋でおままごとをしていた。

テディーベアのぼくと、ウサギのぬいぐるみのぴょんちゃんだ。


「はい、ケーキですよー。ぴょんちゃんは苺のショートケーキ。チョコレートケーキは、えっとえっと」


 シホちゃんは、おもちゃのケーキをぼくに食べさせようとして、止まってしまった。

新しいぬいぐるみのぼくの名前をまだ、決めていなかったみたいだ。


「う~んと、あなたは男の子かな? 女の子かな?」


 僕は男の子だよ。

でも、ぼくはお話しできないんだよね。


「決めた! 多分男の子だから、マーくん。あなたはまーくんよ」


 クマのマーくん、ってことかな?

ぼくはとっても嬉しかった。


 その晩、ぼくはシホちゃんとぴょんちゃんと並んでベッドで眠った。


 次の朝、ぼくが目を覚ますとシホちゃんはもう起きていた。

ぼくは横にいるぴょんちゃんに「おはよう」とあいさつをした。


 その時だった。

シホちゃんの大きな声が部屋の外から聞こえた。

 ぼくは思わずこっそり動いて部屋の入口まで行って顔を覗かせた。


「お母さん! お母さんはどこ?」


 部屋の中を見回しながら、シホちゃんは一生懸命お母さんを探していた。

台所を覗いたり、お手洗いの戸を開けたり閉めたり。

 けれどお母さんは見当たらないみたいだった。


「お母さんはね、今ね病院にいるんだよ」


 お父さんがやって来てシホちゃんの前で屈んで言った。


「え、なんで病院?」


 シホちゃんは今にも泣きそうな声でお父さんに聞いた。


「赤ちゃんたちがこれから生まれるんだよ」


「シホの弟と妹が?」


 シホちゃんはビックリしたようだ。


「そうだよ」


 お父さんが優しく言った。


「いやだ!」


 突然大きな声で、シホちゃんが言いどん! とお父さんを両手で突き放した。


「弟と妹が生まれたら、シホだけのお母さんとお父さんじゃなくなるもん!」


 シホちゃんはワーッと泣いて、ぼくの居ないベッドに飛び込んでいった。

慌ててぼくはベッドに滑り込む。

気付かないでえぐえぐ、とシホちゃんはぼくを抱きしめて泣く。

シホちゃんの涙で濡れてしまっているぼくだけれど、シホちゃんが泣いているとぼくも悲しくて泣いてしまいそうになる。

泣いているシホちゃんの横に、そっとお父さんがやって来て、シホちゃんのピンク色のリボンのポニーテール頭をそっと撫でた。


「おとーさん」


 涙でいっぱいの顔で、シホちゃんはお父さんを見上げた。


「シホ。シホはお姉ちゃんになるんだよ」


「うん」


 分かってるとシホちゃんは頷く。

お父さんは、優しくシホちゃんを自分の膝の上の乗せた。

ぴょんちゃんとぼくも一緒だ。


「実はね、ぴょんちゃんも、マーくんも生まれてくる赤ちゃんたちのお姉ちゃんとお兄ちゃんになるんだよ」


「え! ぴょんちゃんもマーくんも!」


 シホちゃんはビックリした様にお父さんを見てから、ぼくとぴょんちゃんを交互に見た。


「そうだよ。今、お母さんが病院でいっぱいいっぱい頑張っているから、応援しようね」


「お母さん、いっぱいいっぱい頑張っているの?」


 シホちゃんは心配そうに言った。

そして俯いてから顔を上げてまた泣き出しそうな顔で


「お姉ちゃんになっても、シホのこと邪魔じゃない?」


 と言った。

このシホちゃんの言葉に、びっくりしたお父さんは、


「誰がシホのこと邪魔なもんか。大切な大切な、お母さんとお父さんの子だよ」


シホちゃんをぎゅうっと強く抱きしめて言った。

 そしてシホちゃんの体をくるっと回転させた。


「じゃあ、約束の魔法をシホにかけてあげようか」


 パチン! とお父さんはウィンクをした。

そして、シホちゃんの赤いリボンをシュルッと取って、ぼくの首にちょうちょ結びをした。


「あ、シホのリボン!」


 少し怒った様に言うシホちゃん。

そんなシホちゃんにお父さんは新しい大きな赤いリボンを結んであげた。

そして手鏡を持って、シホちゃんを映す。


「さあよおく鏡を見てごらん。この新しいリボンは魔法のかかっているリボンなんです」


「魔法のリボン?」


シホちゃんは首を傾げてお父さんの言葉を繰り返した。

 

「魔法の大きな赤いリボンはお父さんとお母さんからの約束の証。シホも赤ちゃんたちも、マーくんにぴょんちゃん。みんなみーんな家族で一番大事な証拠。これからもこの先も、ずっとずっと変わらない約束でみんなを一つに結ぶリボンだよ」


「うーんと、うーんと」


 長いお父さんの言葉を一生懸命考えるシホちゃん。


「難しかったかな?」


 自分の髪の毛を手でくしゃっとさせてお父さんが言う中、シホちゃんはぼくを見てぴょんちゃんを見て「うん」と頷いた。


「シホにはちょっと難しかったけど、おとーさんが一生懸命お話してくれたのは分かったもん。このリボンは、約束のリボンね! シホも弟も妹も、マーくんもぴょんちゃんも一番大事って事の!」


 シホちゃんはもうすっかり笑顔です。

ポニーテールの大きな赤いリボンも元気よく揺れていました。


 ぼくもお父さんももちろんぴょんちゃんだって笑顔になっていました。


 





それから数日後。

シホちゃんの家に、家族写真が一つ増えた。

お父さんと、お母さんとシホちゃんに、ぼくとぴょんちゃんと、

新しい家族の弟のまひろくんと、妹のシイカちゃん。


写真の中で、シホちゃんは笑顔でまひろくんとシイカちゃんの手を握っていました。

その表情はすっかりお姉ちゃんです。

もちろんシホちゃんはポニーテールにあの大きな赤いリボンを付けていましたとさ。




~おわり~

お読みくださり、本当にありがとうございました。


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