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花を植える旅路

作者: 若松ユウ

 剣と魔法の世界と聞くと、君らは夢と希望にあふれた世界を想像するかもしれない。

 しかし、この世界は違う。数年前までわしの国とりゅうの国が戦争をしていた。

 旧国境付近の激戦区域には、地中に大量の毒が残った。

 毒のもとになる魔素自体は、この世界ではありふれた物質だ。

 善意が結合すると薬になり、悪意が結合すると毒になる。


 オレは、中立国のひとつである熊の国から来た戦後処理人のひとりだ。

 根から毒を吸収し葉に薬効成分を蓄える花を植え、安全に暮らせる土地へと浄化じょうかするのがオレの役割だ。

 特別な学歴や職歴、立派な家柄や爵位しゃくいのたぐいは、この仕事に一切関係ない。

 必要なのは平均並みの体力と、同じ作業を淡々とこなす根気強さだけだ。

 旧国境線は大陸を東端から西端まで貫くほど長く、今のペースでは三十年以上かかると試算されている。


「……妻も鏡越しじゃなくて直接会いたいと言ってますよ、お義兄さん」

「姉貴には、汽車の切符が取れたら帰るとでも言っておいてくれ。じゃあな」

「あっ、ちょっと……」


 やれやれ。仕事が終わると宿舎の遠見の鏡が光っていたので開いたが、どうも世間話というものに慣れない。

 姉という生き物は、いい歳こいて身を固めない弟のことを気にする性質でもあるのだろうか。

 善意だから薬になっているんだろうが、後味に苦みが残ってる気がしてならない。

 まぁ、甘い言葉にだまされて悪意の毒にあたるよりは、ずっと良いのかもしれないが。

 ちなみに遠見の鏡というのは、三面鏡に遠方の人物が映るというもので、君らの世界でいうビデオ通話というものに近いものだ。


 周囲と距離を置き、黙々と仕事を進め、終われば次の土地へ旅立つ。

 一日かけて植えた花が一年で吸収する毒は、戦時中の数秒間にまかれた量。

 世界の歴史からすれば、オレの功績など一行も残らない。

 それでも、オレは愚直に花を植え続ける。

 後世に自分と同じ仕事をする若者が現れないことが、一番の平和だと信じて。



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