形而上のある知見
目が覚めた。
いつもより身体が軽かった。
鳥のさえずりが心地よい、清々しい朝だ。
朝ごはんはいつもの乾パンと昨日の夕飯の野菜スープだ。
隠居してからずっと考えていることがある。
神はなぜ人間を創造したのか?
人間に生きる意味はあるのか?
人間は、神の姿を模倣して創られたと聖書に書かれているが、なぜ創造したかについては書かれてはいないし言及することはある意味タブー視されていた。
そんな事について考えなくても人は暮らしていける。
それは分かっているし生活も苦しかった訳ではない。
だが、考えだしたら好奇心が抑えられなかった。
そして、ひとり隠居だ。
邪魔する者はいない。
そして、とにかく暇があった。
今日も聖書を読んで何か新しい解釈がないか探すために机の前に座る。
前方の窓から木漏れ日が机にかかっていた。
今は朝だから木は影を落とさないはずでは……。
思考が途切れ、影の先を見ると見慣れない白い本があった。
「?」
手に取ると手によく馴染みちょうど良い質量であった。
タイトルは無い……か。
おもむろに開いてみる。
「神はなぜ人間を創造したのか?」
「ッ!?」
いや待て、求めていたとはいえ安直過ぎる。
まあ、とりあえず読んでみよう。
「神の孤独の嫌いについて……」
神は孤独であることを回避するために我々を創造したのか?
「神は全知全能である。人間は神の手となり足となり知覚し、その情報を神へと渡す。それを神が思考し人間や自然へと還す。この円環により恒常的に神は思考し全てを知り全てを創る。ゆえに神は全知全能である」
「ッ!!」
今まで考えた事もなかった知見だ。
全知全能であることは誰でも知っている。だが、それならばなぜ悪がなくなることがないのか?
しかし、これには一考の余地がある。
例えば、情報を渡し常に創造されていく事と全知全能である状態を創り出すならば、悪というものも神は知らなければならない。人間が手や足であるならば、それがなんであるかを人間が感じなければならない。
それにより、全知全能である。
人間を創造したのは新しい事を常に創造する為?そして、全知全能を保持する為なのか?
それが、孤独の嫌い……か。
何年も考えて分からなかった疑問が急に融解していく。
この本は一体誰が?
どこから来たんだ?
いや、この衝撃が癒える前に構想を練ろう。
「人間は様々な行為をし情報を送り神に入力し、神がフィードバックし出力する事で人間は豊かになっていると思う。人間の行為からフィードバックされ人間の思考や創造性や感情が与えられ、それによる行為というように円環がありそれを体験しているだけだが、そのフィードバックにより発展を許される」
「神は全知全能がゆえに分からない問題に直面しそれを解きたいがゆえに人間の社会、文化を分別させて複雑化させ、神の無限のタスクに遊びや飽きを作らせないようにしているのではないかと考えた」
「人間は感覚器であり体験だけを得ると思うが、だから神に情報を送るためにあらゆる物事に触れる体験が存在し、さらにそれを神がフィードバックし反映させる事で発展し世界が成長しさらに体験を得る。という円環により全てがあるのではないかと思う」
「人間が生きる意味は神へ行為から情報を送ることでそれが元で世界が次の時間へと受け継がれていくので体験は個人のためでもあり世界のためでもある。ネガティブな情報でも活かされ次へ受け継ぐために全てがポジティブな情報となる」
「例えば、全ての人が苦痛を受けていると思うがそれにより神はフィードバックし慈悲を抱きそれにより人々が救われている訳で、全てが活かされ受け継がれるためにどのような情報でもポジティブになる。ネガティブなフィードバックであっても陰と陽のバランスにより反転するので円環が起き、受け継がれていくので全てに意味がある。意味をとれば全てがポジティブに受け継がれる」
「よって、人間の生きる意味は体験によりデータを送ることで、全てが活かされ円環が起きるから全てがポジティブの値をとるということ」
「個人にとって生きる意味はない。だから信じたものが価値だからそれが生きる意味である」
よし、大分解釈が進んだ。
もう昼過ぎ。
いったん外の空気でも吸いに行くか。
ドアを開けて外へと出た。
その瞬間。
「うわああー!」
落下した。
目を閉じて、恐怖に耐える。
気付くと漂っていて真っ白な空間にいた。
「ここは?」
「気がつきましたか?」
「? ええ。まあ」
「まだ、気付いていないみたいですね」
「何のことでしょうか?」
「先程は何をしていましたか?」
「ええ、さっきは新しい知見が書いてある本を読んで……。ッ!!」
「私は、おそらく病に伏せていました……」
「そして、今日、あなたは亡くなりました」
「ああ……」
「お気の毒ですが、人間には寿命があります。生きる意味は察した通りです」
「そうだ!あの知見を……」
「お気の毒です。最後に思い残す事のないように真実を体験させましたが、さらなる無知が生まれてしまったようですね」
「いや、そこそこの人生でした。思い残すことはありません」
「そうですね。またいつか」
最後までお読み下さり有り難うございました。
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