第2話 救世の英雄の誕生
視界に入れるだけで緊張する〝救世の英雄〟たちの誕生は、十年ほど前、突然現われた魔王が世界の真ん中に瘴気と魔物があふれ出る迷宮を作ったことから始まる。
瘴気のせいで元々いた各地の魔物は凶悪化。人類はあっという間に滅亡の危機に瀕し、各国は人間同士でいがみ合っている場合ではないと協定を結んだ。
迷宮からあふれ出た魔物が非戦闘地域に雪崩れ込むのを前線で食い止めるため連合軍を組織し、魔王に対抗し得る魔法を使える人材を派遣して対抗したのだった。
薬草と小麦の産出国として名を馳せ食糧輸出で大きな影響力を持つ我がアベニウス王国も、
「自分らだけ守りを固めることはしないよな?」
という周辺諸国からのじわっとした圧に負け、前線に人を送り出した。
この時の諸外国の強い態度は、迷宮から漏れ出た瘴気のせいだった。
受粉も虫まかせ、種をまくのも風まかせ……という特産物であるたんぽぽに似た薬草のようなアベニウス王国の国民性に、日頃からイライラしていたわけではないはずだ。と、思いたい。
我が国から派遣された魔法使いは、治癒魔法使いや補助魔法使いが多かった。
なかでも圧巻の働きをしたのがラーゲルブラード公爵家の嫡男・イェルド様と、その妹のエレオノーラ様兄妹だ。
兄のイェルド様は高度な治癒魔法で、湧いてくる魔物を前線に留めるために戦う者たちを支えた。
枝葉がちぎれても根が無事なら再生可能、とばかりに死体一歩手前の人間をガンガン再生していくさまは、魔物のみならず味方にとってもまるで〝悪夢〟だった。悪夢のたんぽぽである。
さらに瘴気や呪いを祓う退魔師のエレオノーラ様は、魔王撃破のために各国選りすぐりの人材で結成された少数精鋭の魔王討伐パーティーの一員として、魔王が棲む迷宮へ突撃していった。
結果、人類存亡をかけた戦いはつい先日、隣国の剣士エドガー様が魔王を切り伏せ人類側が勝利した。
〝救世の英雄〟たちの誕生である。
出稼ぎ契約隊員とはいえ、結界魔法を使って前線へのポーション輸送を補助する仕事をしていたアンナも、彼らの戦いに少しでも力になれたことが誇らしかった。