第19話 ……話してみませんか?
イェルド様と手を繋いでベッドに入る。
いつもなら数秒で眠りに落ちるのに、今夜は全然眠れなかった。
昼間の両親の言葉が原因なのは明白だ。彼らの言葉なんて忘れて寝ようと思っても、観葉植物の影や手紙に散らされた金箔がチラチラと脳裏をよぎる。
「何かありましたよね?」
暗がりの中でイェルド様が言った。
仰向けで寝ていたはずのイェルド様が、こちらに寝返りを打って視線を合わせてくる。
暗いけれど薄く月明かりが差し込む室内で、しかもこれだけの至近距離では相手の表情もぼんやりとだがわかった。向かい合うイェルド様は心配そうな顔をしていた。
「泣いてしまうほど傷つく何かが」
「……っ」
優しいイェルド様に見つかればきっと心配するだろうと思って黙っていたし、落ち込んでいることがバレないようにいつもと同じように過ごしていたはずなのにバレてしまった。
あの後、スサンナさんが自分のことのようにひどくうろたえてアンナを案じてくれて、彼女に渡された氷水で目も冷やしたのに。
情けないなあと落ち込む自分がいる一方で、優しい声にすがりつきたくなってしまっている自分もいる。
そんなアンナの迷いを見透かすように、イェルド様はアンナと繋いだ手にぎゅっと力を入れて言った。
「私は呪われてしまって、あなたに守られている身の上です。でも人を癒す専門家でもあります。寝入るまで、横になったままで大丈夫です。……話してみませんか?」
ゆっくりとした優しい声だった。




