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第7話:落ち着く時間と毎朝の約束

 規則的なリズムでエリクの脈がイリーナの太ももに伝わっていく。

 エリクのずっと張り詰めていた表情が解けている様子を見て、イリーナは安心感を覚えてジッと見つめている。


「いつもお疲れ様です」


 出会って二日目にも関わらず、イリーナの中で第二王子エリクの人柄は段々と印象づけられていた。

 普段は厳格で堂々としているエイルだが、それはどこか作られたもののようにイリーナの目に映る。


「寝ないのは、体に毒ですよ」


 焦燥感に駆られて無理をする様子のエリクは、イリーナに昔の後悔を思い起こさせた。


「ちゃんと元気でいてくださいね」


 感傷的になって不安げな表情をするイリーナを励ますように、優しい日差しが二人を温かく包み込む。


「今はゆっくりお休みください」


 二人の周りには、朝日と一緒に目覚めた小鳥の囀りや薄緑色の淡い輝きが囲んでいる。

 その空間は、イリーナは夢の中にいるかと錯覚するほどに幻想的な場所に思えた。


「あた……かい……」


 ふと、エリクの寝言がイリーナの耳に届く。


「ふふ、温かくて気持ちいいですね」


 イリーナは夢の中にいるエリクへ返事をすると、体の内から溢れるポカポカとしたものに眠気を誘われる。


「ふわぁ」


 思わずあくびをしてしまう程に心地よい空気感は、もっと長く続いて欲しいと思わせた。

 それでも、徐々に昇っていく太陽が穏やかな朝の時間の短さを伝えてくる。

 空を見上げてそろそろ起こさねばと感じるイリーナは、名残惜しさを飲み込んでエリクの肩に優しく触れた。


「!?」


 ゆっくりと目覚められるように置いたイリーナの手を、夢の中にいるであろうエリクが包み込むように握る。

 いきなりのことに驚きを覚えたのも束の間、今の自身とエリクの様子にイリーナの顔は一気に真っ赤な夕焼け色に染まった。


「どうしよう……」


 恥ずかしさと後ろめたさの混じった感情が、イリーナを大きく困惑させる。

 頭の中を慌ただしくしたイリーナは、太ももに触れるエリクの感触にドギマギして何度も体勢を変えていた。


「ん……あぁ」


 ガサガサとするイリーナの動きを目覚めの合図にしたエリクは、小さくあくびをする。

 エリクの淡い白に包まれていた視界が段々と解像度を上げていくと、そこにはイリーナの豊かな胸と赤面した様子が写っていた。


「すまない!」


 咄嗟にエリクは握っていたイリーナの手を離すと、そのまま深々と頭を下げる。


「い、いえ、殿下が謝るなんて……」

「いくら疲れてたとはいえ、君を苦しめてまで気遣いを求めてしまった」

「膝枕に関しては、殿下が安心できるように自発的にやったものなので……」


 二人を包みこむ妙な空気感に、イリーナは口を変に滑らせてしまう。

 迂闊な発言に余計に頬の赤さを増したイリーナに、エリクもドギマギして上手くフォローができずにいた。


「もし、殿下が求めるならば……」

「俺は君に下心を持って接していない」


 エリクは恥ずかしそうに目を逸らすと、イリーナは口元を抑えた後全力で頭を下げる。


「いや、俺が公言すべきだったことだ……」

「お気遣い心痛みます……」


 ついさっきまで心地よく感じていた太陽の温もりも、今では生暖かい気まずさに変わっていた。


「ただ、ありがとうな」


 上手く会話が噛み合わずにいた中で、エリクの口から小さな声が溢れる。


「イリーナのおかげでゆっくりと休むことができた」


 素直な気持ちを露わにするエリクに反応して、イリーナは朗らかに微笑む。

 その言葉を聞けただけでも満足と表情に書いているイリーナを見て、エリクも釣られて小さく笑う。


「それなら良かったです」

「君といるのは心地がいいな」


 そう口にするエリクからは、緊張や焦燥といったプレッシャーを感じられない。

 

「また、気分転換でここに来るよ」

「いきなり来るのは驚いてしまうので、事前に言ってもらえると……」

「毎朝来るつもりだから、そこは気にしなくても良い」


 当然のことだと主張するように堂々とした表情を浮かべるエリクに、イリーナは何度か瞬きをした後に現実だと理解する。

 

「お忙しいのでは?」

「仕事は夜にやれば良い」

「他にも会う相手はいるのでは?」

「寝顔を見せれるくらい、心を許した相手はそういない」


 イリーナの懸念に全て、エリクは真顔でキッパリと問題ないと断言した。


「それに、君だって幸せにしたい国民だ」


 ふとエリクが見せた眼差しは、どこか近いようで遠い場所を見つめている。

 

「俺にとって君は、幸せにしたい民のイメージそのものだからな」

「そうなんですか?」

「ささやかだが、幸せに溢れた日常を謳歌している君を見ると、王族としてもモチベーションになる」


 そう口にするエリクの様子は、慢性的な寝不足の状態だったことを一瞬イリーナに忘れさせるほどに、覇気のあるものだった。


「だから、毎朝ここで一緒に時間を過ごさないか?」

「はい」


 片手で数え切れる回数しか過ごしていない早朝の時間は、既に二人の中で心地いいものだと位置付けられている。


「私も、こういう穏やかな時間を共有できる相手ができて嬉しいです!」

「そうか」

「だから、夜にはちゃんと寝てください。その分、朝はたくさんお話ができるので」

「善処する」


 イリーナの説教するように人差し指を出す様子を見て、エリクは苦笑いを浮かべながらも明日以降のことへ思いを馳せていた。

 これにて導入部分は終わりとなります。

 ここから、毎朝顔を合わせる二人がさらにニヤニヤする展開を広げていくので、是非その様子をお楽しみいただけたらなと。

「面白い!」「続きが気になる!」「二人から更なる尊さの予感!」と思っていただけたのなら、フォローと下の☆☆☆を★★★にして応援頂けると励みになります!

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