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13.伝説の名ユニコーン

『ユニコーンのオケア、速い! 速い! 鬼のような末脚だあ!』


 他の騎乗生物が止まって見えるぜ。まるで羽が生えたかのようなオケアが大外からトップ争いをする土竜二頭を並ぶ間も無くかわす。

 それでもまだオケアは止まらない。

 まだ坂を上り切ったところだからな。後ろから風竜が来ているがオケアより遅い。


『ユニコーンのオケア、無傷の二連勝! アイアンクラス混合戦を制しました! これはすごい! 伝説のエイムウェルの再来か!』


 終わってみると後続と10馬身以上離しての独走だった。

 正直、初戦のストーンクラスより断然楽だったぞ。これで確信した。

 フェンリルのガロウとナイトメアのローレライが強かったんだって。風竜と距離によっては土竜をチェックしていればいいと思っていたが、なかなかそう簡単には行かせてくれないらしい。

 現にアイアンクラスの前に行われるストーンクラスの混合戦を制したのはフェンリルのガロウだったのだから。

 彼らの勝利に悲壮感などまるでない。逆だ。

 俺たちで風竜と土竜だけになってしまった上位クラスを荒しまわってやろうぜ、と高揚する。

 だけど、最後にロイヤル賞を獲るのは俺とオケアのコンビだけどな。

 そして、翌日のレースでローレライもストーンクラスの混合戦で勝利し、アイアンクラスに駒を進めた。

 

 ◇◇◇

 

 アイアンクラスのレースが終わってから二日後、用がありユニコーン族の村へオケアとともに向かう。

 村の入り口でメロディが待っていてくれて、そこでユニコーン状態のオケアから降り徒歩になった。

 馬と違って手綱を引く必要もなく、オケアと並んで歩く。

 メロディはオケアと何か喋っているようだったが、俺には彼女の言葉は分からない。

 俺もユニコーン状態のオケアと会話できたらいいなあと思うが、これはこれで悪くはないか。

 喋れなくても彼女の気持ちは伝わるし、騎乗するに支障は出ていないものな。

 喋れないから良いってこともあるさ。

 

 それにしても……なんだかユニコーン族が集まって来てないか?


「あれがオケア!」

「エイムウェルの再来!」


 若い夫婦らしき人たちが応援してくれたかと思うと、5歳くらいの少年がトコトコやって来て腕を振る。


「目にモノを見せてやれー」


 こういう声援にどう答えたらいいのか困った俺は、そっとメロディの後ろに移動して歩を進めることにした。


「みんなオケアの活躍を喜んでいるんだ。笑顔で応えてやればいい」

「そうは言ってもな……人間のよそ者が、偉そうな顔で手を振るのはどうかと思って」

「ははは。誰もがよそ者なんて思ってないさ。むしろ、ユニコーン族の救世主さ」

「お、大袈裟な……」


 タラリと冷や汗が流れる。

 こんなことなら村へ行かずに蹄鉄の時のようにメロディに全て頼んだらよかった。

 今回も彼女に依頼していて完成したと聞いたので、せっかくなら直接受け取りに行こうと思ったんだよね。

 蹄鉄の時は少しでもトレーニングする時間が欲しかったので、直接お礼を言いたい気持ちがありつつも我慢した。

 なので今回は蹄鉄を作ってくれた鍛冶師と今回お願いした革職人にお礼を言おうと思って……。

 

「君は以前から乗り手をやっていたのだよな? なら声援にも慣れているんじゃないのか?」

「う、うーん、これはなんか違うというか。あ、そうだ。到着するまでに少し聞かせて欲しいことがあるんだ」


 あからさまに話を逸らしたが、メロディは「なんだ?」と話にのってきてくれた。

 話を振ったもののノープランである。え、ええと。

 

「エイムウェルってどんなユニコーンだったの?」

「伝説の名ユニコーンだな。ユニコーン黄金時代に活躍した。その中でも伝説的な戦績を残したのだ」

「へえ」

「18戦15勝。二着3回。デビューから無敗街道をひた走り、負けたのは三度だけだ。それでな、プラチナクラスにはロイヤル賞と並ぶほどの名誉とされているレースがあってな」


 そいつはすごい。連帯率100%か。

 数ある競走馬でもここまでの戦績を持つ馬はそうはいない。

 話の流れからして名誉あるレースとやらでも活躍したのだろう。名誉かあ、競馬だと……。


「ほ、ほお。デビュー何年未満の騎乗生物しか出れないとか?」

「知っているのか? デビューしてから二年未満かつ、一度しか出場することができないレースになる」

「クラシックみたいなものかな」

「クラシック?」

「いや、こっちの話だ。そのレースの名前を教えてくれないか?」


 クラシックといってもメロディに通じるわけはなし。

 日本の競馬にはクラシックというものがあって、3歳馬限定レースになっている。日本ダービーという単語を聞いたことはないだろうか?

 日本ダービーはクラシックレースの一つだ。

 ふむふむと競馬に当てはめて考えている俺に対し、メロディが指を三本立て俺に向ける。


「三つある。若駒三冠と呼ばれていてな。2000ゴルダステークス、帝国若駒賞、グリセルダステークスの三つだ。それぞれ距離が異なる」

「ということは、エイムウェルは若駒三冠を獲ったってことかな」

「いや、彼女には最大のライバルがいてな。スペクテイターというナイトメアだ。エイムウェルとスペクテイターの勝負は今でも伝説と言われている」

「てことは二着三回ってのはスペクテイターに負けたってこと?」

「いかにも。エイムウェルも三回勝っているから五分五分だな。若駒三冠では最高峰とされる帝国若駒賞をエイムウェルがとったが、残りはスペクテイターだ」

「いい勝負をしたんだなあ。見たかった」

「はは。ロイヤル賞を獲ったのはエイムウェルだったよ」


 クラッシック二強の対決ってやつかあ。ロイヤル賞はロイヤルレース最高峰のレースなので、名誉的にはエイムウェルに軍配が上がるか。


「お、ここだ」


 喋っている間に目的地に到着したらしい。

 思ったより小さな石造りの家だった。看板はかかっておらず、ショーウィンドウもない。

 お店ではなく職人の工房だったのかも。

 木の扉に看板がかかっていたが、読めなかった……。日本語で書いてくれよ。

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