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猫が居た。

作者: たま-1

ちょっとだけホラーで、ちょっとだけコミカルです(作者比)。

よろしくお願いします。

 とても疲れていた。

 数日前、母方の祖父が亡くなり急遽田舎に帰っていた。


 そして今、親たちを祖母が居る田舎に残し、先に姉弟3人で帰宅した所だった。




 祖父は、一年前位前から体の調子を崩し入退していた。

 母親は入院している祖父や、祖母、同居している叔母(母の姉家族)達の手伝いをするために度々田舎に帰っていた。


 数日前、母は田舎に手伝いに帰っていた。

 昼過ぎに突然、母親から私のスマホに連絡があった。祖父がもう危ないので、直ぐに病院に来るようにと。


 私は会社に事情を話し、早引きし直ぐに家に帰った。

 父や他の姉弟にも連絡がいっていたらしく、みんなが家に帰って来ていた。



 「ねぇ。喪服は必要なんじゃない?」と姉が言った。

 「そんな縁起でもない。」と父親が言う。


 「そんな事言ったって、直ぐにこっちには帰れないでしょう?お母さんの喪服だって必要なんじゃないの!」と姉が怒鳴った。

 いつも冷静で気の利く姉が、こんな時だからこそ誰も言いたがらないことを言ったのだ。


 「そうだな…。」と父親は言った。


 母親と父親の喪服を手早く用意し、私たちにも声をかけた。

 私の喪服は直ぐにあったが、弟の喪服はなかった。

 弟は今年成人式を迎え、その時作ったスーツがあった。喪服はないのでそれで良いんじゃないか。と言う事になった。


 喪服を一纏めにし、普段着で車に乗り父親が運転し田舎まで急いだ。


 病院に到着し、急いで病室に行くと祖父は呼吸器を付けていた。

 母親から電話があった後、急変したそうだ。

 いくら呼びかけても目は開かず、そのまま息を引き取った。


 嗚咽する者、大声で泣く者、何度も声をかける者、声を出さず奥歯をかみしめて静かに泣く者…。

 祖父はこんなにみんなから愛されていたんだと実感した。


 そのまま次の日が通夜になり、その次の日が葬式になった。


 不思議なもので、葬式があると久しぶりの親戚達に会う。


 「久しぶり。めぐちゃん元気だった?」と叔母(母親の姉)が聞く。

 「ええ。お陰様で」と私は答える。


 「仕事はどうした。もう馴れたのか?」と叔父(母親の兄)に聞かれた。

 「あっ、はい。」と私は答えた。

 「恵はお姉ちゃんと違って気が利かないからな。しっかりやれよ。」と叔父に言われる。

 「あー。はい。」と私は答える。


 親戚のみなさんは私と姉を比べて、しっかり者の姉を誉めた。褒め称えた。


 私なんかと比べるから姉は誉められるんだ。

 世の中にはもっと凄い人が一杯いる。親戚のみなさんの世間は狭いなー。と毎回思う。

 まっ、しょうがない。やれやれと心の中で思った。

 別に姉のことは嫌いではないが、こんなに比べられるとこっちが卑屈になってしまう。


 親戚のみなさんとの会話にちょっとへこみ、私たち姉弟は忌引きの関係や、裕樹の大学もそんなに休めないので3日間で帰って来た。

 両親は、残された祖母や一緒に住んでいる叔母達と、悲しみや寂しさを分け合う時間もいるだろうからと、もう少し田舎に残るそうだ。



 そして今…。

 人が亡くなるなんて初めての経験だ。

 ペットの猫の死は一度だけ経験した。

 その時は辛くて苦しくて…。

 獣医は病気が治せるんだから、猫の死も治せるんじゃないかと本気で思った。

 それ位辛かった。

 もう猫は飼わないと誓ったが、ここら辺で彷徨っていた痩せこけた猫を見付け飼い始めた。懲りない自分に呆れている。


 祖父の死は…。

 一緒に暮らしたことはないし、一年に何度も会わないからそんなに家族ほどの愛情を感じてはいなかった。

 だから亡くなって寂しいとか辛いとか…。

 病室で祖父が亡くなった時、あんなにみんなが泣いたのにはびっくりした。

 私は同じ気持ちになれなかったので、なんだか後ろめたいような気がした。



 私は下の部屋のリビングでPCを開き、数日留守にしていた間のメールをチェックしていた。

 姉から「お風呂入っちゃいなさいよ~。」と声をかけられる。

 「うん。後で入るから先に入っちゃって。裕樹にも言っておいて。」と答える。


 ある程度はスマホで対応していたが、細かい事になるとPCの方が良かった。


 最初は集中してPCに向かっていたが、その内ぼんやりと祖父のことを考えていた。

 そう言えば、祖父と最後に会ったのは何時だったっけなー。とか。



 その内、階段を降りて来る音がした。

 リビングの扉が開いたので何気なくそっちに顔を向けた。

 裕樹が降りてきたのかと思って、そこにあるはずの顔を見た。


 ────────

 ────────

 ────────


 っ!!

 そこにあるはずの顔がない!!


 祖父か…そこにいるのは祖父か…!

 私は息を飲んだ。


 それは本当に一瞬のことだと思う。



 「にゃ~」と気の抜ける声がした。

 開けられた扉の足下を見るとルーだった。


 猫が居た。


挿絵(By みてみん)



ありがとうございました。

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