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8 (`^´) ドヤッ!

 ざまあって……。口悪いね、神様。


「……具体的には?」


「それを相談したいんじゃん! どうしたらぎゃふん? って言うかな!?」


 わたしの所為か。



 ざまあっていうのは因果応報って事だよね。

 でも、この国の人達……王様や宰相、教皇としか会っていないけど、聖女召喚を止めなかったからっていう理由でお城と教会がざまあの対象かな? その人達に不幸な事がただ起こるだけじゃ、聖女召喚という非道な事をした、その報いだって理解しないと思うんだ。


 わたしはそれを分からせたい。


 わたしが帰れないことは神様に保証されてしまった。

 わたしはもう、お父さんにもお母さんにも会えなくなってしまった。

 学校にももう通えない。友達にも会えない。

 わたしはまだ高校生で、そんなに仕事中心の生活をしていた訳じゃないけれど、それでもいくつか受けている最中の仕事もあって、それを放り出す責任とか、仕事柄、関係者への影響とか。


 何より、これまでのわたしの努力が一瞬で消えてしまった事への責任を取らせたいんだ。


 コネもあるし運もあったと思う。

 でも、今わたしが演者として、少なくとも同世代の間で上位を走っていられるのは、幼い頃から努力し続けて来たからだ。


 アイドルをしている友達が言っていた事がある。

 上に行けば行くほど自分に足りないモノが出てきて取り繕うのが大変だって。

 発声の仕方、見せ方、動き方、関係者への振る舞い方……。

 そういったものを、わたしは小さな頃から努力して獲得して積み上げて来た。

 そういう下地があるからいろんな現場でもそつなく振る舞えるし、いろんな仕事がこなせているって実感もあった。


 大変な事もたくさんあるけど、小さな頃から頑張って来た甲斐があって今のわたしがあるんだって。

 お陰でお仕事楽しいし、高校通いながら仕事をしている自分を誇らしく思っていてーーー。


 それが全部全部消えてしまった。


 わかってる。

 今までの努力があったから突然召喚なんてされてもあの人達の前でみっともなく狼狽えた姿を晒さなくて済んだ。即興で八重洲媛なんて演じて、あの人達の思い通りになんてさせずに済んでる。今までの努力は、培って来たものは無駄じゃない。わかってる。

 でもそうじゃない。

 そういうことじゃないんだよ。


「っていうことを分からせたいんだけど、正直難しいと思う」


 悟りを開くには時間とか切っ掛けが必要だと思う。

 そういった意味では悔しいけど敗北決定だろうね……。


「明らかに神罰って分かっても?」


「神罰が下れば反省を促す事にはなると思うけど、本当の意味で罪を理解するかどうかは本人次第だからね。何とも言えないかな」


 そしてあの人達が己の罪を理解しようとしなかろうと、わたしが帰れるわけでも失ったものが戻って来るわけでもない。

 だったらもうこんな国にいる意味がない。


「正直この国にいるだけでいらっとするからとっとと出て行きたいんだよね」


 神様にわたしが考える〈和国〉からのお迎えを聞いてもらう。

 反省するかは本人次第になっちゃうけど、あの人を見下した鼻っ柱はへし折ってやる!





 別室から出ると、扉の外で警護していた黒い羽織の八丁堀の旦那……もとい、護衛役の精霊さんたちの他に、召喚の場にいた聖職者や兵士達が何人もたむろっていた。

 え、何してるの? 見張りかな?

 まあいいや。


 精霊さんたちに囲まれて神様と教会の出口に向かう。


 この建物は、表の大きな礼拝堂の奥に召喚の場のような儀式をしたりする場所があって、さらに奥側に居住区や事務関連、今出てきたお客を通すような部屋があるみたい。

 建物から出ていくだけなら居住区の出入り口から出ればいいんだけど、堂々と正面から出ていくよ!


 居住区を抜け、召喚の広間を通り過ぎてしばらく歩くと礼拝堂らしき場所があった。

 きらびやか……というよりゴテゴテ? 何かいろいろ飾り付けられているけれど、召喚の広間でも感じた違和感が……。

 都心に住んでいると教会って御茶ノ水にあるニコライ堂のビザンツ様式のイメージがあるけど、あのきらびやかさを目指して失敗している感じがする。広さはあるけど柱も多いし……。

 神様の話を聞いた後だと、以前の文明の技術を失ったせいだとわかる。円形平面にドームを架けるような建物とかも難しいのかな?


「聖女様! お待ち下さい!」


「どこへ行く気だ!?」


「聖女様! お戻り下さい!」


 ばたばたと兵士を引き連れて王様達が礼拝堂に入って来た。なんかトリオって感じだね。宰相はともかく王様はとっくにお城に帰っているかと思ったのに。


「わたくしの迎えが到着したようなので帰ります」


「迎えが到着!? 聞いておらんぞ!!」


 普通は他国の一団が来たら王様に報告されるだろうからね。

 そんなはずは、とか、間違いでは、なんて言っているトリオその他をぞろぞろ引き連れて、大きく開いた教会の扉を出る。

 お祈りに来ている一般の人達は何事かと遠巻きにして見ているね。今から面白いものを見せてあげますよ。


 正面入り口を出ると、1階に満たない程度の階段があって、少し高いところから外を眺める事が出来た。いいね。素敵なステージだよ。今日は天気もいいね。


「なんだ。迎えなどいないではないか!」


 王様が小馬鹿にしたように言う両脇では宰相と教皇が安心したような顔をしている。


「もう、来ている」


 神様扮する〈和国〉の使者が前方の空を指し示した。


 浅い夕空。


 皆が見上げたその空に、五色が棚引いている。


「…………」


 見上げるすべての者の胸を打つような美しさ。


 その瑞雲が教会に向かって来るのだ。

 教会の前に五色の雲が到着する頃には、その場にいる者すべてが跪き祈りを捧げていた。

 〈和国〉の者を除いて。


「さあ、ひいさま。帰りましょうぞ」


 顔を輝かせて神様が得意気に言った。

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