6 クレーム対応
別段、わたしに共演者召喚なんていうユニークスキルが生えた訳ではなかった模様。がっかりですよ……。
「で、神様がお迎えに来たってことは、元の世界に帰してもらえるってことですよね?」
なんだかいろいろもにゃるけど、帰してもらえるならまあいいかな。出来れば今日のレッスンに間に合うといいな。
「申し訳ありません!! ああっ! こういうこと!?」
何なのいったい……。
こちらが要求するまでもなく、着流しの江戸時代なお迎えの人が教会内の別室を用意させていたのは助かった。
お迎えというのは、着流しのこの神様だと名告る人だけではなく、十人程度の一団なんだけど、皆さん黒い羽織で八丁堀の旦那にしか見えない……。神様がなんちゃって髷のただのポニーテールなのに対してこちらは皆さん月代にちょん髷もきちんとしていらっしゃる。
最初全員がすげ笠を被っていたからわからなかったけど、別室に通されて、こっちの世界の人をシャットアウトして扉の内と外を固めた時に、扉の内の人がすげ笠を外したから「おお」ってなっちゃった。ちょん髷だよちょん髷。
でもって一団に二人いた女性も扉の内組に入っている。こっちは大奥の御女中さんかな……。二人共、矢絣の着物で髪も島田って言うの? 日本髪に結ってるよ……。
わたしのイメージだと蜷川さんちの新右衛門さんとか宮中の女房さんとかだったんだけど。まあ、実際に誰かがお迎えに来るなんて思ってもいなかったからぼんやりした何となくのイメージでしかなかったし、これだけ江戸時代で揃えてくれていたらこれはこれでいいのかな……? 聞くところによるとこの神様、駕籠でこの教会まで来たらしいよ?
ただ、この一団がお迎えだと〈和国〉は軍事政権の国っぽい設定になっちゃうんだけど、この世界の人には分かりっこないのでヨシとしよう!
それよりさっきヒムラート宰相にこの一団は先触れだって言っていたから、お迎えの本隊がどう来るのかむしろ楽しみになってきたよ。やっぱり大名行列かな?
なんて思っていたけど、この一団、神様以外、実は精霊のような存在らしい。
お迎え本隊のプロデュースはこれからなんだって!
そこまでさらっと説明を受けて、肝心な、元の世界への帰還について言及した途端に頭を下げられた←今ここ。
ええ?
なんで?
“お迎え”に来たんじゃないの!?
「ごめんなさい。キミを元の世界に戻すことは出来ません」
「じゃあ何しに来たの!?」
「説明と、ここから逃がすのと、あともうひとつあるけど……」
「はあ!? ふざけないで!!」とか、「今すぐに元の世界に帰して!」とか、「喚べるのに帰せないっておかしいっ」とか。
八重洲媛の設定も演技も何もふっとんでいろいろ言ったと思う。
神様はわたしが何か言うそのたびに謝ったり頷いたり、でも一貫して静かに「おかしいよね。でも帰せない。ごめんなさい」って繰り返して……。
いつのまにかぼろぼろ泣いちゃっていたけど、場違い過ぎておかしな格好の神様を見ていたらだんだん冷静になってきて、別に神様が召喚した訳じゃないんだよねって思い至って来た。
ああそっか。ここに来たのは、クレーム対応かなって。
こんな、わたしのでっち上げた設定にわざわざ合わせておかしな格好までしてフォローしに来るなんてね。
悪いのは召喚したこの国の王たちなのに。
わざわざ帰る方法が無いことを告げに来た?
ちがう。そうじゃない。たぶんそれだけじゃない。
そう思ったら少し落ち着いて、それから神様の話を聞く事ができた。
かつて、この世界が迎えるはずだった終焉を救った聖女の話を。