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浪漫という名のふりかけ  作者: 睦月 葵
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誕生石色々事情

 アクセサリーや宝飾品に興味を持った女子が、最初に覚えるのは誕生石だろう。一年・十二ヶ月のそれぞれに、誕生石というものが存在する。自分の誕生石を知り、それに一喜一憂をするのは女子の特権かもしれない。

 一方で、五大宝石というものも存在する。基本的には、ダイヤモンド・サファイア・ルビー・エメラルド───もう一つは、東洋では真珠で西洋ではオパールであることが多い。この五大宝石を貴石と呼び、多くの他の宝石は半貴石と呼ばれる。この五大宝石が誕生石である生まれの方は、ほぼ自分の誕生石をとやかく言う人はいない。問題は、半貴石が誕生石の方々である。その理由はおそらく、五大宝石より見劣りをすることや安価であることが関係するだろう。

 更には、誕生石にも変遷があり、かつては誕生石だったアレキサンドライトや珊瑚、サードニックスやブラッドストーンなどがほとんど姿を消し、代わりにムーンストーンやペリドット、トルマリンやタンザナイトなどが加わっている。この変遷は、現在では天然物の多くが掘り尽くされてしまったことや、上流階級の人々しか手に入らない宝飾品を一般の方々にも広めようという販売側の意図があるからだろう。


 そんな訳とパワーストーンブームにより、今現在では、多少の混乱と本来の姿を失いつつある誕生石ではあるが、それでもそこには浪漫があることを忘れて欲しくない───というのは、私の個人的希望だ。

 基本的に、五大宝石はモース硬度が高く、現代に近いレベルの研磨が出来るようになったのは、工業技術がかなり発達してからだった。だから、それ以前は、半貴石こそが主流の宝石だったのである。

 一月のガーネットは、洋の東西を問わず生命そのものを表す赤。

 二月のアメジストは、これも洋の東西を問わず高貴なるものを表す紫。

 三月の珊瑚は日本独自のもので、桃の節句に合わせて女の子の幸せを願うもの。

 八月のサードニックスは、古代の高価な装飾品であるカメオに使われたものだ。

 十一月のトパーズは、現在ではシトリントパーズという黄水晶が主流だが、本来のトパーズという鉱物&宝石は、信じられないほど希少で高価で美しいものなのだ。

 そして、自分の誕生石に最も不満が多い十二月は、ターコイズ(トルコ石)とラピスラズリなのだが、彼らこそ宝石の最古参なのである。


 かつて、とある女性のお客さまから、「自分の誕生石のベビー・リングをペンダント・トップにして、お守りとして持ち歩きたいんだけど……」と、妙に憂鬱そうに相談されたことがあった。

「ステキじゃないですか。何をお悩みで?」

「誕生石……トルコ石なんですよね」

 なるほど、自分の誕生石には拘りがあるけれど、あまりパッとしないトルコ石なので、少し意欲が削がれるということなのだと理解した。

「お客さま、トルコ石を誤解されています。トルコ石を舐めちゃあいけませんよ(注:宝石屋のお姉さんとして、この物言いは超NGである)」

「はい?」

「トルコ石というのはですね、今を遡ること紀元前三千年前───」

 この時点で、私が何を言い出すのかと聞き耳を立てていた店長と同僚二人は、接客カウンターの下に撃沈した。

「古代エジプト王朝において、太陽の化身スカラベの姿を写すことが出来る、それは貴重な宝石だったのです(嘘ではない)。ダイヤモンドが研磨出来るようになったのなんて超近年で、ブリリアン・カットなんて◎ィファ☆ーからですよ(これも嘘ではない)。トルコ石に比べれば若造に過ぎません。宝石の起源はトルコ石なんですよ」

 ───と、言ったものだ。

 お客さまは笑いながら、自分の誕生石のベビー・リングを購入されていかれた。


 ただしこの後、「間違ったことは言ってないけど、もう少しトークには気を付けてね」と、当時の店長にお灸を頂いたことは言うまでもないだろう。


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― 新着の感想 ―
[一言] 奥山康子著『青いガーネットの秘密―“シャーロック・ホームズ”で語られなかった未知の宝石の正体』というガーネットに関連した本を読んだのですが、ガーネットは、研磨技術が拙かった時代でも、天然ルー…
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