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浪漫という名のふりかけ  作者: 睦月 葵
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宝石は資産か?

 貴金属店に勤務して、意外なほど多く訊かれたことがある。それは、『一〇〇万円で購入した貴金属は、一〇〇万円で売れるものなのか?』ということだ。つまり、それを訊く人は、資産として貴金属を捉えているのだろう。

 正直に言えば、地金と呼ばれる金・銀・プラチナは相場通りに売買出来るが、宝石が付随するアクセサリー類は、元の価格では売れない。ン千万・ン億クラスの宝石類のことは知らないが、一般人が購入出来る範囲の物は、転売すれば半分以下───下手をすると十分の一以下の価格になる。ただし、『日本国内では』。

 何故なら、日本にはアンティーク文化がさほど根付いていないからだ。明治・大正以前の物ならともかく、昭和以降の物になると、『誰かのお古』もしくは『おさがり』と認識されるので、他人が使用した宝飾品はあまり好まれない。だから値段が付かない。私が宝石屋のお姉さんを退職して随分経ってから、ヴァージン・ジュエリーという言葉が出来たほどである。

 更に、理由はそれだけではない。ドレスアップやドレス・コードとあまり縁のない日本人が宝飾品を購入するのが、何らかの記念であることにも深く関係しているだろう。

 典型的なのが、婚約指輪・結婚指輪だ。

 海外の映画などでは、求婚をする男性が「僕の父が、母に結婚を申し込む時に贈った指輪だ。是非、君に受け取って欲しい」と言うと、「まあ、そんな大切な物をわたしに?」と感動するものだ。だが、日本人がそれをすると、『もしかして彼、マザコンなのかしら?』とか、『えっ? 婚約指輪も買ってくれないの?』となってしまうだろう。これこそ、文化の違いだとしか言い様がない。

 他にも、赤ちゃんの誕生を祝うベビー・リング、二十歳のお祝いの金のアクセサリー、就職祝いに真珠のチョーカー(これは冠婚葬祭に使えるからということらしい)、結婚十周年にスィート・テン・ダイヤモンド等々───ことごとくが記念や記念日に直結している。しかも、人生の新しい門出に。

 これでは、『誰かのお古』が嫌でも、仕方がないような気もするのだ。

 しかし、私はここで声を大にして訴えたい。いまや定着した『記念の宝飾品』の概念のほとんどが、売りたい側のCMやキャンペーンで刷り込まれたものなのだ。『婚約指輪はダイヤモンド』も『スィート・テン・ダイヤモンド』も、そんな決まりごとはどこにもない。婚約指輪に誕生石、十周年の結婚記念日に愛と感謝の数のバラの花束でも、本来は一向に構わないのである。


 単に資産価値が欲しいのなら、金のインゴットか無垢のルースでも購入すればいいのだ。例え転売すると価値が下がるのだとしても、宝石には宝石の価値がある。

 何億年とかけて、地球の地下深くで生まれた結晶体───鉱脈の中では多くの物が濁った結晶でしかない。人間はその結晶を見付け出し、研磨技術を磨いて輝かせ、カット技術を工夫して地上の星として降臨させた。その一つひとつに物語があり、浪漫がある。だからこそ高額で売買され、多くの人の心に宿るのだろう。


 まあ、ここまでは美しい話なのだが、現代においては少し把握しておいて欲しいこともあるのだ。

 かつて希少なものとされていた宝石類の多くは、すでに採掘され尽くされていて、天然の物は少なくなった。けれども、発達した科学技術で合成出来るものも、発色を加工出来るものも少なくはない。いまやダイヤモンドですら、炭素を圧縮することで作ることが出来るのだ。

 それ故に、天然か合成かを素人が判別することは、ほぼ不可能といっていいだろう。

 だからこそ、資産や転売がどうのではなく、自分の好きな物・身に付けて楽しめる物・購入する時に無理のない物を、よく考えて選んでいただきたいと思うのだ。

 美しいものは、愛でてなんぼなのだから。


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― 新着の感想 ―
[一言] 歴史の長さということもあるのでしょうね。 日本でも、皇室の女性がお召しになるティアラなどは、作り直しをして引き継がれているそうです。 やっぱり、絵画や宝石などは、資産としてというより、「身…
[良い点] 自分がいいと思うから買う。 自分で価値を決める。 流行り廃りとか、関係なく。 それが一番だと思います。 [気になる点] 貴金属に宝石。 私には無縁の世界だ。(笑) [一言] 知り合いに実家…
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