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グリーンウルフ一掃

「絶対に中に入れてはいけない! みんな頑張るんだ」

 互いに声を掛け合いながら、剣と盾を持った兵士たちはグリーンウルフの群れに苦戦していた。

「あちらです」

 そこにカイトたちがやって来た。

「あの狼をやればいいのか」

「ええ。全部倒さずとも、こちらが優位とわかれば、向こうも逃げてくれるはずです」

 カイトは暴れている獣を観察する。四足歩行で体毛に包まれ、口の中に見える鋭い牙、そして三角の耳に尻尾。その身体的特徴のほとんどが、カイトの見たことのある狼にそっくりだった。一つだけ違ったのは、毛の色だ。草と同化しては見分けられないほどに、鮮やかな緑色をしているのだ。

「兵士たちには、柵の内側に戻るよう伝えてくれ。フォローは俺がするから。戦うよりも逃げることを考えてくれと」

「……わかった」

 村長はその言葉に驚きつつも、今はカイトに頼む他無いと考えた。戦っている兵士たちも疑心暗鬼だったが、少しずつ柵の方へと近づいた。

 カイトは前髪で隠している左目に集中を始めた。全ての意識をそこに向け、眼に焼け焦げそうになったとき、唱える。

「アヤメ、開眼」

 その目のなかには、赤と青と紫色の万華鏡の世界が広がっている。それはとてもきれいで、それを見る人間を吸い込んでしまいそうな力を感じる。

「みえる」

 カイトの目には今、グリーンウルフの体内に流れるエネルギーが見えている。チャクラと呼ばれる身体の中にある、エネルギーの貯蔵庫のような場所から出入りするエネルギーの動きを見ているのだ。それが見える彼にはウルフが次にどう動くのかを、予測できる。

「まずは手前の五匹」

 手裏剣を投げる。するとその軌道上に、五匹のウルフたちの首がちょうどのって、切り裂かれていく。

 他のウルフたちの意識はカイトに向けられる。

 親指人差し指、中指の三本だけを立てた右手を口許に添えるカイト。三匹のウルフがその隙を狙って飛びかかる。

「火弾炎弾」

 そう唱えながら左手の中に、赤く小さなボールのようなものを作り出して、三匹の方へと順に飛ばす。

 その球はそれぞれ獣の顔や腹に当たっては、高速に回転して勢いよく突き飛ばし、燃え上がって消えた。

 グリーンウルフのなかには、カイトに怯え逃げ始めるものが現れ始めた。

「すごい……」

 ユアナは心の声を漏らした。そのとき、ウルフたちの逃げていく方向、カイトのいる場所から少し距離のある草むらから子供が飛び出した。小さな剣と盾を構えている。

「まて、逃げるんじゃない!」

 当然、ウルフたちはその自分達よりも明らかに弱い小さな者に近づいていく。子供は十匹以上のウルフに囲まれる形となった。

「「ルーア!」」

 村長とユアナの叫び声が聞こえたのと、獣たちが子供に飛びかかったのは同時だった。

 多くの村人は思わず目をつむっていた。恐る恐る目を開く。すると、天高くに届きそうな炎の塔が視界に入った。

「どうなってるの?」

 ユアナがそう声に出したとき、炎の塔の向こうからさっきの子供を抱えたカイトが歩いてきた。その髪に隠れていない右目は赤色に光っていた。

「この子を頼む」

 腕の中で意識を失っている子供を兵士に託して、炎の塔の方を向くカイト。

「火炎孤塔、解」

 村と反対の方から塔は開いていく。ウルフたちは我先と、そこから走って逃げ出していった。

「アヤメ、解」

 塔が完全に消えてカイトがそう呟くと、彼の目はもとの黒色に戻っていった。

 村人の間に拍手が起こった。皆口々にカイトを褒め称えた。ただロードだけは怪訝そうな顔をしており、大きく手を叩いている村長に告げ口をしていた。それを聞いた尊重も一瞬、顔をしかめたがすぐに表情を戻すと、ロードに何かささやいた。

「ありがとう、カイト」

 ユアナはカイトの方に駆け寄った。

「これぐらいなんてことない。それより、聞きたいことが色々とある」

 とカイトがいい終えるか終えないうちに、からの腹の虫が鳴いた。

「お腹すいてるんだ。魔神のくせに」

 ユアナが笑った。

「カイトくん、ありがとう。さあ話するついでにご飯をご馳走するから、うちへ来なさい。あと、そのバカ者も誰かうちへつれてきておくれ」

 村長は意識を失ったままの子供を指差した。

 こうして、村の危機を一旦救ったカイトはまだまだ状況をのみ込めてないまま、村長の家を訪れることとなった。


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