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魔神召喚

「あの……」

 聞き覚えのある声に少年は意識を取り戻した。地に張り付いた腹にあたる草の感触からして、ここは屋外だと察していた。

「よかった。目を覚ました! でも、あなた本当に魔神なの?」

 目を開けて真っ先に視界に入ったのは、輝きを失いつある白い線。その線を対称に彼と反対側に女の子が一人しゃがんで少年を見ていた。

「私はユアナ。正式な従者契約を結びたく、あなたを召喚しました」

 茶色く短い髪にピンクのカチューシャをつけた少女。その向こう側に壁と扉を確認して、ここが屋内であることを少年は知った。

「無視するってことは契約破棄?」

 ユアナは悲しそうな目を向けている。しかし、彼は頭が混乱していて、何から聞けばいいかわかっていない。それに、もしかすると自分を騙しているのかもしれない、とさえ思っていた。

「ユアナ、召喚は成功したのか?」

 そういって入ってきたのは、頭に白髪がよく目立ち顔にシワの入った老人。一見するとただの年寄りだが、どこか威厳を感じさせる。

「おじいちゃん」

「外でそう呼ぶなと言ってるだろ」

 厳しい口調の老人だが、表情は愛しい孫を見るときのそれになっている。

「それはそうと、そこの者は何者だ」

 老人の顔は少年の方を向いている。そこには先程の優しいものはなく、部外者に威嚇するような顔つきとなっていた。

「魔神召喚したら出てきたの」

「なんじゃと? こんなもの魔神な訳がなかろう。ロード、こっちへこい」

 老人が叫ぶと、聖職者を想起させる白基調の格好をした者が中に入ってきた。

「ロード、今こちらに」

 右手を腹に、左手を背中に添えて礼儀正しくお辞儀した。

「この者は魔神か調べてくれ」

 ロードは両手の平を少年の方に向け、叫んだ。

能力値開示(ステータスオープン)

 するとロードの目の前に、青白い透けた光の板が現れた。そこには文字が書かれている。しかし見たこともない文字で、少年には読めなかった。

「教会魔法職の名において、偽りなきことをここに誓いますが、彼の魔力は1億です」

「魔力1億!?」

 老人もロードもユアナも、目を丸くして少年の方を見ている。

「上級魔術師で100万、一級魔神でも1000万程度なんじゃぞ」

「この者は一体何者なんです?」

「私が魔神召喚したら現れたのよ」

 三人とも慌てているようだ。

「おい、ここはどこなんだ」

 少年はさすがにしびれを切らして言葉を発した。

「そんなことより、お前は何者なんじゃ」

 村長はたずねながら後ずさりしている。

「俺はカイト」

「やっとしゃべった! カイト、よろしく」

 ユアナは右手を差し伸ばした。その手をカイトはじっと見つめている。

「ユアナ、気を付けるんだ。まだ何者かわからんのじゃぞ」

「ねえ、あなたは魔神なの?」

「魔神じゃねぇ。忍者だ」

 その言葉に三人は声を揃えて聞き返した。

「「「忍者?」」」

 いちいち大袈裟な反応に、カイトは狼狽えていた。

「忍者も知らねぇのか。逆にこっちから聞きたいが、魔神ってなんだ」

「魔神も知らないのか!?」

 ロードが声をあげた。

「知らねぇもんは、知らねぇ……」

「失礼します。村長、大変です」

 鉄の剣と盾だけを持った、兵士が入ってきた。

「なんじゃ。入ってくるなと言ったろ」

「グリーンウルフの群れの襲撃です。三十匹程はいます」

「うそ!」

 ユアナが悲鳴をあげた。

「モーリーもグラスも国王の召集を受けてここにいないのに」

「この村唯一の上級勇者と戦闘魔道師がいないときに、しかもそれほどの数で来るなんて、神よ」

「柵の内側には絶対入れさせるんじなないぞ」

 三人は絶望した顔をしている。

「ようやく、私が魔神使いとなって村を守れると思ったのに……」

 ここでユアナはカイトのことを思い出したようだ。

「カイト、助けて!」

 状況をいまだ掴めていないカイトの手を力強く握るユアナ。

「助けるってどういうことだよ。俺は勇者と魔道師もグリーンウルフも知らねぇんだよ」

「ワシからも頼む」

 村長がカイトの方に近づく。その顔は必死だった。

「説明はあとでする。このままでは、この村の住民が皆殺されてしまう。村人たちの多くが武器をとって戦おうとしているじゃろう。しかし、三十匹もの大群の前では戦闘力の低い人間がどれ程集まっても無力なんじゃよ」 

 カイトは迷っていた。「魔神召喚」とか言う謎の儀式によりここにいると言われ、「魔力」が一億とか言われ、村を「グリーンウルフ」三十匹の群れから救ってくれと言われる。処理しきれない情報を次から次へと与えられるなか、何かの罠ではないだろうかという疑心もあった。

 だが、カイトはそれ以上に違う感情を覚えていた。それは一族が滅びるまでは知っていて、滅びてからは忘れてしまっていたもののようだった。

「わかった」

 カイトは持ち歩いていたクナイや手裏剣が、無くなっていないことを確認して立ち上がった。

「助けてくれるの?」

「早く案内してくれ」

「こちらです」

 兵士とユアナについて歩くカイト。

 これがまさか、一族の復讐を果たす物語の始まりとは誰も知るよしもなかった。 

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