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実家暮らしな俺と何とか一人暮らしさせようとする女友達

作者: あかめがね

女友達っていいよね。

「一人暮らしの男ってもてるみたいよ?」


 お昼時、事務所の昼食スペースでいつもの様に母上作の弁当を食べていた俺は、ここ数ヶ月で一緒に食べるようになった女友達の発言にまたかコイツという顔をしてしまった。

 

「なに?その顔。

 現役OLである私の言葉が信じられないの?」


「俺はもてなくていいし、一人暮らししたくないの。」


 最近やたらこういう話題が多い。心当たりがないわけではないが、もう2ヶ月くらいこの話題だ。よく飽きないなと感心する。


「同期のよしみで言ってるの。あんたの係に入った新人ちゃん、かわいいって評判じゃない。私の方がかわいいけど。」


「確かにかわいいけどさ。 今はなに?セクハラ? そういうのあるから自分からは声かけられないの。」


 去年同期入所したコイツとは妙に馬が合い、今では所内で一番仲が良い。自己評価は妙に高いが、言いたいことはきちんと言うし、さっぱりとした性格は俺と相性が良い。

 だからこそ最近のやり方には疑問が残る。

 コイツにしては遠回しすぎる。


「もう聞いちゃうけどさ。一人暮らししてほしいの?」


「うん」


「おれはいやだ」


「なんでよ。もてたくないの? わたしよりかわいくない新人ちゃんにもてたくないの?」


「おま、やめとけよ。この事務所すぐ噂回るんだから。2人そろって新人いじめてるって噂たつぞ」


 というか新人ちゃんの方がタイプなんだよな。

 髪の長さとか。


「私の方がかわいいし!」


「なんで考えてること分かるんだ! 最近はマスクもしてるのに!」


「あんた目に出るのよ!考えてることが!

 どうせ髪型がタイプなんでしょ!綾波っぽいもんね!」


「俺らの世代で綾波嫌いなやついねぇし!」


 やべぇ本格的に噂経ちそう。綾波ってあだ名ついちゃう。ついでに宴会で物まね強要されちゃう。

 ここらへんで話を戻さないと。


「というか今は俺の一人暮らしの話だろ。言っとくけど俺はしないぞ。金かかるし、この事務所転勤あるし。」


「そうだけどさ・・・」


 そう言ってやつはため息をついた。

 もともと遠回しなやり方といい、妙なしつこさといい、"心当たり"の件もあるが、俺の一人暮らしはコイツにとって気になる問題らしい。

 しょうがない。コイツには世話になってるし、いらない心配かけるのもな。


「なあ」


「なに」


「今日の夜、時間あるか? 

 俺桃鉄の新作買ったからまた一緒にやろうぜ。

 今日金曜だし。」


「また私の家? あんたぐらいよ、ゲームのために家に来るやつ。まあいいけど。」


「夕飯もよろしく。いつものように材料費はおれ持つから。」


「当たり前。仕事終わったらすぐスーパー行くから」


「おけ」


 というかこの会話の方が遙かに噂経ちそうな・・・ま、いっか!コイツだし!



◇◇◇



「結構買い込んだな」


「あんた結構食べるじゃない。お酒におつまみ、お菓子も買ったらこんなもんよ。」


「そうだな。じゃ、あとよろしく!俺リングフィットやってるから!」


「ま、材料費に免じて許してあげる。

 私着替えたりお風呂入ったりいろいろしてから作るから。

 1時間半後くらいよ。

 あんたも頃合い見て着替えなさい。」


「おけ」



 

 1時間半後。

 俺がサゲテプッシュに腕をやられていると、香ばしい匂いがしてきた。なんかアヒージョっぽい。


「できたからリングフィット中断。準備して」


「すぐやります。」


 一人暮らしにしては贅沢な食卓の上には、アヒージョっぽいなにか、なんかおしゃれなサラダ、良い感じのスープ等々うまそうな料理が並んでいる。

 リングフィットしかしてないから罪悪感を感じる。

 それぐらいおいしそうだ。


「いただきます。」


「おあがりよ。」


何それかわ。


「うま」


「当たり前でしょ。あんたの好物くらい把握してるわ。」


 確かに最近胃袋つかまれてる感ある。今日のコイツのお弁当も正直美味しそうだったし。


「それで今日はどうしたのよ。私の家まで来て」


「だから桃鉄をやろうと」


「それ口実でしょ。お昼に言ったじゃない。あんたは目に出るって。

 どうせ何か話があるんでしょ。

 めんどくさいから今話しちゃいなさい。」


「・・・お見通し?」


「ここ数ヶ月であんたのこともわかってきたわ。じゃなきゃ家になんてあげない」


 まじか。コイツやばいな。

 ついでに俺の目もやばいな。

 文字でも浮かんでるのか。


 それはともかく。 

 正直心の準備をしてから話したかったが、この状況なら仕方ない。

 覚悟を決めよう。


「俺の一人暮らしだけどさ。あのこと気にしてるのか。」


「あんたが酔って実家にいたくないってぐだぐだ言ってた時のこと?

 あの時は気づかなかったけど、滅多に酔わないあんたにしては珍しかったわね。」


「そうそれ。俺の数少ない黒歴史の一つだ。

 でもあれがきっかけなんだろ。おまえがここのところ一人暮らしの話題を出すようになったの。」


 家賃相場から生活費に始まり、一人暮らしに役立つ物まで色々。最近はネタに尽きてきたようで、今日はついに眉唾物の話を出してきたが、コイツはずっと話し続けてきた。


「別に。あんたがぐだぐだ迷っているのが気に入らなかっただけ。自分のためよ。

 お昼の話し相手がしかめっ面してるとご飯が美味しくないの。」


「言ったろ。金かかるし異動があるんだ。金の無駄だ。」


「それは周りの意見。あんたの本音は別でしょ。

 実家にいたくない。だから一人暮らしをする。それでいいじゃない。

 いい加減行動しなさいよ。」


 

 コイツがこんなに強く言うのには訳がある。

 コイツは俺の事情を知っているからだ。

 正直本当にくだらない話だが。


 "家に自分以外の人間がいるのがいやだ" 


 中二病みたいな話だし、他人にはそんなこと、と思われるだろうが、当時俺はそんな理由で追い詰められていた。高校の頃はまだ我慢できたのだ。だが大学の一人暮らしを経て社会人になると、聞こえてくる家族の声、生活音、すべてがうるさい。


 実家に帰るのがいやになり、職場で仕事をしている方が何倍も居心地が良い。


 最初は自分がおかしいのかと思った。周囲の友達に相談しても、みんな半笑いで気のせいだと言うし、そんな理由で一人暮らしをするのはアホらしいと言う。

 実際金銭的にも実家にいた方がいいのだ。ただ俺が我慢できるのかは別の話として。


 そんな時だ。コイツにその話をしたのは。

 その頃はお互い大して親しくも無い。なのにコイツは俺の話を聞いて、


 ”そう。わかるわ。私もそんな理由で県外就職したから。”

 と答えてくれた。

 正直俺以上のアホがいるわワロタと思ったが、気は楽になった。


 それからコイツと親しくなるのに時間はかからなかった。根っこが似ていることをお互い気づいたからだろう。

 少しだけ追い詰められていた俺にとってコイツは得がたい存在だった。

 だからこそ、俺のくだらない話は今日で決着をつけるべきだろう。


「ここ数ヶ月ありがとうな。おまえのおかげで決心がついたよ。来月から一人暮らしする。俺決めたよ!!!」


「いやなにかっこつけてんのよ7月にしなさい。ボーナス出てからよ。あんた初期費用なめてんの?」


「いや行動しなさいって言ったのそっちじゃ」


「私が言ったのは前段階よ。住む場所、事務所の家賃補助、調べることは山ほどあるんだから。そういうのをやりなさいって言ってんの。」


「はい。すみません。頑張ります。」


「私もちょっとは手伝ってあげる。

 一人暮らしの先輩としてね!」


 やつはそう言って笑った。


 たかが会社の同期にここまでしてくれるやつはそういない。確かに俺らは馬が合ったが、だから何でもしてくれると甘えてはいけないだろう。


 こんなちっさいことに悩む俺だが、今後は見放されないように頑張るべきだろう。さしあったては


「とりあえず今日は桃鉄やろうぜ。10年で。

 ボコボコにしてやる!」


「良い度胸ね借金100億円にされたのもう忘れたの?」


□□□


 なんて、コイツは私を良い女友達なんて思ってるんだろうな。


 私は借金が凄い桁数になって真っ青になってるコイツを横目に、ため息を心の中でつく。


 確かに馬が合ったのは認める。考え方だって似通っているし、コイツと一緒にいるのは楽しい。

 コイツが追い詰められてて、それをなんとかしたいのも本音だ。


 ただ一人暮らしを勧めるのはそれだけが理由じゃ無い。


 私はコイツを依存させたいのだ。


 コイツは典型的な仕事人間だ。良い意味でも悪い意味でも。

 本人は絶対に否定するだろうが、「職場の方が居心地が良い」なんて言っといて何故気がつかないのか。


 コイツは同期の中ではダントツに評価が高かった。

 専門的な仕事のために長い研修期間があり、それでも現場に出ては知識の足りなさに同期が苦しんでるなか、コイツは当たり前のよう仕事をこなし、結果を出した。

 その評判は違う課にいる私にも届き、比べられもした。


 だからこそ、コイツとの飲み会には挑みかかる気で臨んだのだが、そこであの弱音だ。


 正直そのギャップにやられた。

 職場では圧倒的で、家では弱いコイツ。典型的な仕事人間。


 そんなコイツを私に依存させたくなった。中途半端に考え方が似通っているのもそれに拍車をかけた。


 私の読み通りならコイツは一人暮らしをしてもどうせ破綻する。

 それは家事能力とかとは別の話で、とことん生活するということに向いてない。

 私は知っている。こういうやつは自分だけの生活を大切にしない。一緒に暮らす相手がいないとまともな暮らしをしない。


 その時にコイツが真っ先に頼るのは?


 私はそのためにいくつか手を打った。


 遠回しな方法で一人暮らしを意識させ、同時に私の生活能力を認識させた。舌も肥えさせたので、自分の料理ではすぐ満足出来なくなるだろう。


 万が一にもコイツが他の女に気をとられないよう、所内の人間関係を把握し、私の都合の良いようコントロールした。

 そのために昼も堂々と一緒に食べたし、騒ぎもした。あとは周りが勝手に私たちの関係を誤解するだろう。噂の回りやすい職場だからこれで他の女は手を出せない。


 こんなやり方が間違っているとは思う。

 こんな回りくどいやり方は自分らしくないし、なんなら「一緒に暮らそう」と言う方がまだ自分らしい。


 だが、出ないのだ。その言葉が。

 コイツを前にすると。

 そもそもこれがどんな感情なのかもよく分からない。

 だがコイツを誰にも渡したくないのは確かだ。

 

 その答えが出るまでは、この回りくどいやり方を続けていこうと思う。


 そして、


 必ずコイツを私に依存させるのだ。


 







策士(笑)

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― 新着の感想 ―
[良い点] こういう仲のいい女友達と楽しくやってると思っている主人公の裏で着々とクモの糸のように主人公を絡め取っていく話好き。気がついたら退路は絶たれて戻れない感じがぞくぞくするぞよ。
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