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サービス終了までインフレに付き合ったので攻撃も防御もエグいほどチートです


「ん?」


その少女は、突然のことに混乱した。


「んんんっ?」


分かったのは、今が夜であること。どうやらここが森の中であること。そして、


「カタカタカタカタ」


どう見ても「ガイコツ戦士」としか言いようのない何かが群れを成し、その剥き出しの歯を繰り返し打ち鳴らしていること。


しかも、その数が尋常ではない。十や二十ではとてもきかないだろう。さらに、


「「「カタタタタタタタタタタタタタタタ」」」


月明かりの届かぬ森の奥、黒く塗りつぶしたような暗闇の向こうから、硬質な歯の音が無数に呼応する。


どう見ても仲間を呼んでいる。


「いやいやいやいや! ちょっ……!」


本能的に打開策を求め、服をまさぐる。何か役に立つもの、スマホとか、家の鍵なんか金属だし無いよりマシかもしれない。ところが、


「んんんんっ!?」


さらなる混乱が彼女を襲う。まず、スカートを履いている。何か胸も膨らんでるし、()()()()()()()()()


「英霊殿……!!」


思わず飲まれそうになった混乱の波を()き止めるように、背後から甲高い声がした。振り返るとそこには、ところどころ擦り切れ煤けてはいるものの、ひと目で上等と分かる青いドレスを身にまとった、端正な顔立ちの少女が跪いていた。


「異界より呼び出されし英霊よ! もはやあなたしか頼る者が有りません。私の身は、もはやどうなっても構いません。どうか……!」


どこかの国の姫君だろうか。(きっ)と、顔を上げた少女の瞳には、(くら)い、絶望と怒りが綯()()ぜになった、まだあどけなさの残る顔立ちには不釣り合いなほど強い決意が(あふ)れていた。


「どうか、あの者共へ裁きの鉄槌を……!!」


しかし、


「……っ、そんな」


自分が呼び出した者を目にした途端、その表情はあからさまな落胆、失望へと一変した。


無理もない。そこには、銀髪のセミショートこそ珍しいものの、自分と大して歳も変わらない、普段着姿の少女が小動物じみた仕草で身をすくませていたのだ。


一方で、


「あっ、はい、ナルホド」


当の召喚された銀髪の少女は、急速に現状を理解していった。


「テンプレ異世界かぁ……」


「「「カタタタタタタタタタタタタタタタ」」」


そして、先刻から歯を鳴らし続けるガイコツ戦士の群れに向き直り、頬を引き攣らせて言った。


「チュートリアル厳しすぎないっすかねぇ?」


手頃なガイコツ戦士を観察する。その鎧兜は黒く艷やかで、どこかオーラのようなものを纏っている。初めて実物を目にする片刃の両手剣(バスタードソード)はいかにも重厚で、ちょっと手をぶつけただけで皮が剥け、痣が残るであろうことが容易に想像できた。


というか……。


装備が随分上等に見える。さっきの個体はもちろんの事、後ろからゾロゾロと集まり続けるガイコツ戦士の武具や鎧は様々だが、モノによっては精緻せいちな紋様や、輝くオーブのようなものがあしらわれているものまで散見された。


ガイコツ戦士なんかじゃない。この群れを成すそれぞれが、ゲームならたぶん「骸骨将軍(スケルトンジェネラル)」とか、そんな名前がつく中ボスとかラスダン級の強敵だろう。


しかし、不思議と体が動いた。どうすればいいのかが分かる。まるでこの程度の窮地なら何度でも、いや、こんなもの窮地ですら無いとでも言うように。


虚空に(かざ)した手に暖色の閃光が(きら)めき、次の瞬間、黒く、どこか機械質な羽様の装飾が施された錫杖(しゃくじょう)が顕現した。


「おへぁ……っ??」


まるで魔法じみた現象。自分で引き起こしておきながら、理解が追いつかず素っ頓狂な声が漏れる。


「しゅごい……」


その錫杖の存在感は圧倒的だった。材質不明な六角柱の黒い柄には幾筋ものモールドラインが走っており、内包するエネルギーが黄土色の光となって脈を打つように明滅している。


しかし、ガイコツ戦士たちもそんな少女をいつまでも待ってはくれなかった。


一瞬の事だった。


「英霊殿っ……!!」


姫君の悲鳴じみた声音が聞こえたときは、もう遅かった。


先程のガイコツ戦士が少女に肉薄し、その身の丈の倍はあろうかという両手剣を叩きつけていたのだ。


「えっ?」


そう、既に叩きつけていた。少女が時分で喚び出した錫杖に見惚れている隙に斬り込んだのだ。両手剣は少女の脳天に叩きつけられ、そこで止まっていた。


「んっ!?」


しばしの間、間抜け面を晒した少女が、ようやく自分の頭に恐ろしい凶器が叩きつけられている事に気づいて、


「うおああああああっ!!!?」


慌ててガイコツ戦士めがけて出鱈目(でたらめ)に錫杖を叩きつけると、


バキイイィン……!


と、物凄い金属音と共に刀身が砕け鎧はひしゃげ、ばらばらになった中の肋骨を振りまきながらガイコツ戦士が吹っ飛び、そのまま後続のガイコツ戦士達を巻き込んで森の奥へ消えていった。


「…………」


パチクリと少女が瞬き、再び間抜け面を晒す。そして、それは後ろで一部始終を目にした青いドレスの姫君も同じだった。


「これ、打撃武器じゃないんですけど」


失われた文明(ブラックボックス)シリーズ、『黒い羽(ブラックフェザー)









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