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第2話

 サミュエルとエルメラが学園に入るより前──五年前

 

 サミュエルは王宮にある温室で自分の婚約者となる人と茶会をすることになった。 

 

 婚約者は様々な貴族令嬢の中から、派閥、影響等を考慮した上で選ばれる。私の婚約者に決まったのはグリーン侯爵の娘、エルメラ・グリーンだった。

 

 婚約者を選ぶことに乗り気では無かったので、エルメラの絵姿をちゃんと見ていなかった。そのためどんな人が来るのかと想像していたが、その想像以上に美人だった。

 エルメラはオリーブ色のつややかな髪、猫目で、その瞳はエメラルドのようだった。

 

 王妃、グリーン侯爵夫人、エルメラと四人でお茶を飲みながら世間話をするが、エルメラとは会話が弾む……とまではいかなかった。

 

「サミュエル様、今日はありがとうございました。またお誘いください」

 

 その後、エルメラとは何度か茶会をするのだが、二人の間に大した進展は無かった。

 

 ◇◇◇

 

 エルメラとの最初のお茶会から三ヶ月の時間が過ぎようとしていた。

 

「エルメラに好きになってもらうにはどうすればいいと思う?」

 

 サミュエルは王宮の温室でエルメラの兄であるエルヴィス・グリーンに助言を求めた。エルメラとの婚約が決まる前から彼とは交流があったが、最近は特に仲良くしている。

 たった数ヶ月の自分より、兄であるエルヴィスの方が確実にエルメラに詳しいと思ったからだ。

 

「私は恋愛には疎いので何とも言えませんが……恋愛小説を読むのはどうでしょうか」

 

「君はそう言う種類の本も読むのか?」

 

 エルヴィスは本を読むことが好きと言っていたが、恋愛の本を読んでいるのは意外だった。

 

「エルメラに薦められてからたまに読むようになりました。よく読んでいるので、参考になるかもしれません。少なくとも話題の一つにはなると思います。……よかったら、お貸ししましょうか?」

 

「では、エルメラが薦めた本を貸して欲しい」

 

「……はい。分かりました。……確か、うちの図書館に置いておいたはず。……今取り出しますね」

 

 エルヴィスは腰に提げていた杖を手に持って、目の前で一振りする。空中の何もないところから、薄桃の表紙に金色のタイトルと装飾の付いた本が出てきた。彼はそれを手に取って、私に渡す。

 

 何でもないように目の前で魔法を使われたが、この国では魔力を持っているは少なく、このように使いこなせる人は更に少ない。

 魔法使いを家庭教師に雇えないこともないが、雇うには結構な値段がする。彼は、素質がなければわざわざ雇うのは勿体無いと思い、本を読んで独学で覚えたらしい。

 

 ◇◇◇

 

 エルヴィスから借りた本はその日のうちに読み終えた。

 

 身分や金髪碧眼といった容姿が同じであるからか、婚約者に捨てられた王子に感情移入してしまう。

 エルメラは綺麗だから、これから色んな人に好意を向けられて、その内の誰かに恋をするかもしれない。そうしたら、自分はこの本の男のようにエルメラに捨てられるのかもしれない。そんな自分の姿を想像すると悲しくなった。

 

 そんな思いをするのならば、もっと好きになる前に──今のうちに婚約を白紙にしてしまおう。婚約をまだ公言していないから、出来ないこともないだろう。それがいい。……辛い思いをする前に。

 

 ◇◇◇


 大事な話があるとエルメラに伝えて、最初に出会った時のように温室でお茶をしようと誘った。

 

「サミュエル様、今日は大事な話があるとおっしゃっていましたが、そろそろお聞かせ願えませんか?」

 

 伝えよう伝えようと思っていたものの、中々言い出せなかった。そんな中、エルメラから催促された。

 

「大事な話と言うのは……君との婚約を破棄したいんだ」

 

「……どうしてでしょうか? たった四ヶ月前に婚約したばかりですわ」

 

 変に別の理由を考えるよりもいいと思い、私はエルメラに、正直に不安に思っていることを話した。

 

「そうだったのですね。でも、安心してください。そんなことは絶対にないですわ。あの小説の少女は、とても可愛らしいのですけれど……私は婚約者がいながらに別の方に思いを寄せるなど、不誠実な行いは致しません。私から婚約を破棄したいと願い出るようなことはありませんわ。でも、もし、殿下が浮気してしまった場合には、私との婚約を破棄して下さい」

 

「まだ、私達は婚約したばかりです。もう少しお互いを知ってからでもよいのではないでしょうか? 公に発表するのはもう少し先ですし、ね?」

 

 普段一緒にお茶をしているときとは違い、エルメラは随分と饒舌になっていた。その後、エルメラに説得されて婚約を破棄することにはならなかった。

 

 ◆◆◆

 

「覚えているだろうか? 昔、君との婚約を破棄しようと考えていたことがあった」

 

「あのとき、馬鹿な理由から婚約を破棄しようとしていた私を止めてくれたのは、エルメラだ」

 

 随分と昔の話を……あのときは確かに婚約破棄をしようとしていたので阻止した。でも、今思えば、あのときそのまま破棄してしまえば良かったのかもしれない。

 

「前置きが長くなりすぎたけど、私が婚約を破棄しない理由は、ずっと君のことが好きだからだ」

 

 今更好きだと言われても……その言葉は信用ならない。もっと前に言っていたら、私は頬を赤くして喜んでいただろうに。

 

「嫌いだと言われても、政略結婚に愛が無いことの方が多いのだから、別に気にはしない。……無関心よりはましだからね。私が婚約を破棄するつもりはない」

 

「私は嫌いですわ。殿下は引く手あまただと思いますので、わざわざ自分の事を嫌いな人間と結婚する必要は無いかと思いますの」

 

 私がそういうと、サミュエル様は不機嫌そうな顔になった。

 

「言っておくが、エルメラ以外の女性には興味はない。嫌われるにも理由が必要だと思うが、私はエルメラに嫌われるような事をした記憶がない。いつエルメラは私を嫌いになった? それに……何故、エルメラは婚約を破棄したいのだ」

 

 興味がない? 笑わせますわね。何の冗談かしら。

 

「殿下、何も心当たりがありませんか?」

 

 このタイミングで「心当たりがある」と言う訳が無いが、一応聞いておく。

 

「そもそも、エルメラとは学園ですれ違う位で、あまり会う機会が無かったじゃないか」

 

 確かに、最近は出来るだけ会わないようにしていました。でも、それは嫌いになってからのこと。

 サミュエル様は全く思い当たる節が無いようだ。

 

「では、殿下は自覚が無いようなので、最初から最後まで、詳しく、お話いたします」

 

 紅茶を飲んで、十分に喉を潤すと一つ咳払いをした。そして、自分の思いの丈をサミュエル様にぶつけようと話始めた。

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