最終話 ★そして日常は銀に輝く
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激動の決戦から半年。暖かな春の陽気が、孤児院の山を色取り取りに飾る季節になった。
あの後、私達は一部の樹士団を帝都に残し、いったん樹都へ帰った。樹都に帰ったら、それはもう賑やかな宴や式典がずっとずっと続いた。何せ長らく続いた大戦争が、ついに終結したんだもの。
でも、そのせいで――孤児院には、私だけが帰ることになった。革命を成功させた両国の英雄トルネードはもちろん、ダニーも皇帝を討伐した終戦の立役者として引っ張りだこ。やれ叙勲だ、昇格だってバタバタ。なんとあのトルネード以来の飛び級での一等樹士だってんだから、ホントに聖樹士も夢じゃないかもね。
そんなわけで、半年も経ってようやく今日、ダニーとトルネードが孤児院に帰ってくる。私とママは、朝から一生懸命ご馳走をたっくさん作ったの。特にママ直伝のミートソースオムレツは、我ながら最高の出来!
私はエプロンを着て張りきってたんだけど、ママが「そんなんじゃダメよ」って言うから、ママがくれた一張羅の白いシルクのワンピースにお着替え。食卓にご馳走を並べて、後は待つだけなんだけど――……
「どうして皆もいるの?」
食堂を見渡せば、孤児院の兄弟達だけでなく、これまでに出会った人達がたくさんいる。長卓を囲むようにぐるりと人がぎゅうぎゅうで、座って食べたり、立ってお喋りしたりワイワイガヤガヤ。
「うまいもんが食えるって聞いてな」
がぶっと大きなステーキにかぶりつくのは、ニド。そう言えば砂漠の街サンテラスで出会った時も、ステーキ食べてたっけ。
「ごめんね、お邪魔して」
謝ってるけど、ニドの隣で同じくステーキにかぶりつくヨナ。ニドとヨナって振る舞いが似てるんだよね。育ちが同じっていうか。
――……
【ニドとヨナ】
ふたりは、あれから魔獣退治専門の枝コンビとして活躍中。どう見てもおじさんのニドと、私と同い年くらいに見えるヨナ。ヨナいわく、たまに依頼主から「娘さんですか」って聞かれるらしいんだけど、その度にニドが「連れだ」って怒って依頼を断っちゃうから困ってるんだって。そう言うヨナの顔は、困ってるようには見えなかったけどね。
――……
「主役がまだなのに、もう食べてる」
私がため息をつくと、ユウリイがぽんと肩を叩く。
「まあまあ。王城から食材はたっぷり持ってきたから」
「≪幹≫から料理人兄弟も連れて来てますしね」
ユウリイの言葉に、幹の受付嬢兼根の副頭ティエラさんが続けた。ティエラさんが目線を送る先には、樹都とサンテラスにいた超ごつい料理人達。ホントに兄弟だったんだ!
――……
【ユウリイとティエラさん】
ユウリイは王子として城に戻るのかと思いきや、紫葉隊隊長として魔女の遺した≪粉≫の回収に東奔西走。今もまだ悪い人の間で出回ってるらしい。捜索にいつもティエラさんを連れてるから、父王のように、平民だけど才女のティエラさんをお嫁に迎えるのでは、なんて噂もあるとか。
――……
「何で食材いっぱい……? 料理人まで」
私の疑問に、仙草堂の見習い薬師ローエンが得意気に声をかける。
「そりゃそーさ、何たって今日は――」
「こりゃローエン! 黙っとれ!」
「いっけね! ごめん、じっちゃん」
何か言おうとしたローエンを、大薬師サニタスさんが止めた。ローエン、何て言おうとしたの?
――……
【ローエンとサニタスさん】
大戦に同行したサニタスさんは、その間の仙草堂の営業をローエンに任せてたみたい。意外にもローエンは商才を発揮。お店を少しずつローエンに任せて、サニタスさんは今も≪粉≫に苦しむ人達のため、ゲコヨモギ薬の研究に尽力されてるらしい。
――……
ローエンに続きを聞こうとしたその時、吟雨詩人レイニー=バードが長椅子に立ってリュートを鳴らす。
――ジャジャンッ!
「ここで余興に一曲。待たせたねアーシャ。やっと出来たよ、報酬の詩が。聞いておくれ――≪灰髪のアーシャ≫」
「ダメよ! せっかくの晴れの日なんだから!」
歌おうとするレイニー=バードを、踊子サニアが慌てて止めた。そりゃダメだよ、レイニー=バードが歌ったら屋内だろうと雨が降っちゃうからね。
――……
【レイニー=バードとサニア】
ふたりの歌と踊りは、もはやサンテラスの名物に。今ではなんと東大陸からも観客が訪れるそう。夜もすごい賑わいで人目が多いから、夜雨に紛れた犯罪なんか起きなくなったんだって。
――……
「アーシャ、おかわりー」
喧騒も気に掛けず、もぐもぐとマイペースで頬張るゴンス。目の前にある大きなチーズは、ゴンスがベンおじさんの牧場で作ったやつかな? 私は文句を言いながらオムレツの皿をゴンスに渡す。
「もう、自分で取って!」
「今だけアーシャに取ってもらいたかったんだよ、ありがと。このオムレツとチーズの相性がまた最高なんだよね。あーん、もぐもぐ……」
その時だ。
「ただいま」
玄関から、懐かしい声が響く。ゴンスはちょうど喉に食べ物がつっかえたみたいで、胸をドンドン叩いている。
「はーい」
私がバタバタと玄関に向かうと、ママも台所から出てきた。ママの首もとには、金のロケットペンダントが輝いている。
開いた玄関扉から、柔らかい陽が射し込んだ。立っていたのは、ダニーと、トルネードと――聖女様!?
「邪魔するぞ」
「ええ、どうぞ。こんな所までようこそお越しくださいまして」
ママは驚くことなく丁寧にお辞儀をした。聖女様は当然のようにずんずんと食堂へ入っていく。何で聖女様まで? なんだかおかしいぞ。
顔を上げたママに、トルネードが話しかける。
「すまんな、ミーナ」
「ダニーの頼みだからね。……で、私はいつ主役にしてくれるのかしら? 明日? ねえ明日?」
ママがぷんぷんしながらトルネードの胸をつんつん指す。トルネードがママを抱き締めて何やら耳元で囁くと、ママは頬を赤らめてトルネードと一緒に食堂へ入っていった。
??? ぽかんとする私。
暖かな陽を背に、ダニーがポリポリと頭をかく。照れた時にする、いつもの癖だ。でも、服装はいつもと違って樹士の正装の深緑のローブ。世界樹を象った一等樹士の徽章まで着けちゃって。
「……あのさ、アーシャ」
「何?」
ほんのわずかな沈黙。
2人きりの玄関に花吹く風が入り込み、私の灰髪がなびいてキラキラと輝く。
「お土産が、あるんだ」
――……
かつて灰と化した私の日常は、
いま春の陽に煌めいて。
喜びも苦しみも胸一杯に想いを重ねた私達は、
どんな困難だってくるっと回って乗り越えて。
これからもずっとずっと、輝き続ける。
2つの銀環のように。
……―― 灰髪のアーシャ 完
これにて本作は完結です。
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