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灰髪のアーシャ ~炎の力に目覚めた少女は、英雄に導かれ灰の荒野を往く~  作者: 星太
最終章 辿り着く場所

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第62話 落陽に染まる終幕

 ――ガラガラガラ……


 遥か地下深くのドームの崩壊は地上まで連鎖し、轟音と灰煙を上げ帝城が崩れていく。私はトルネードと共にダニーに抱えられ、空からその様子を見ていた。


「ニド……」


 私は地下深くに残してきたニドに想いをはせる。ダニーは、それもニドの想いだって。わかるけど、でも……。


「……ウィル。頼みがある」


 トルネードが抱える皇帝の頭部が喋った。え、生きてるの!? 頭部だけで生きているのも≪粉≫による異形化の一種だろうか。トルネードが頷くと、皇帝が続ける。


「帝都北側の倉庫――最後の帝下四仙将(カルテット)≪心無い剣士≫のもとへ、私を連れて行ってくれないか」

「……何か考えがあるんだな。ダニー、頼む」



 ダニーが飛んで小さな倉庫のもとへ辿り着くと、中には動かぬ兜なしの全身鎧があった。これが≪心無い剣士≫……?


「ウィル。あれに私を乗せてくれ」

「! そういうことか」


 トルネードが皇帝の頭部を全身鎧に乗せると、首回りが鋼で覆われて繋がり、やがて鎧が動き出す。


「これは≪魂鋼の器≫の模造品(レプリカ)だ。強度は劣るが……もはや私に≪力≫は必要ない」

「ゼノヴァ……」


 薄暗く小さな倉庫の中、皇帝は片膝をつき、トルネードに頭を垂れた。


「降伏する。私の負けだ」

「……終戦だな」



 私達が崩れ落ちた城の正門前広場に行くと、深緑の聖女様が樹士団と共に陣取っていた。灰人となった都民達は、みな聖女様の樹々に捕らわれており、プライドの面々も無事生きている。


 共に歩く皇帝とトルネードを見て、聖女様が世界樹の葉巻をふかしながら声をかける。


「終わったか、トルネード。遅れてすまなかった、ダラライを殺さず倒すのに手こずってな。奴は帝国の対魔獣戦力としてこれからも必要な男。やれ、戦う相手まで守るのは骨が折れることよ」

「まったくだ」


 トルネードは同意しながら、皇帝を聖女様に引き渡した。皇帝は聖女様の正面に立ち、真っ直ぐに視線を向ける。聖女様は構わず葉巻をふかした。


「皇帝バーディスよ。何か言い残すことは」

「……東大陸を、頼む」

「言われずとも」


 聖女様は葉巻をしまい、革袋から七色に淡く輝く種を取り出す。


「これは世界樹の種だ。深緑の聖女エメラダ・グリンヴェルデの名に懸けて、この東大陸に緑を取り戻すことを誓おう。たとえ千年かかろうとも」

「……」


 皇帝は黙って、ただ深く頭を下げた。樹士達に捕らわれ、神妙に簡易テントの中へ入っていく。


「これからどうなるの?」


 私がトルネードに聞くと、トルネードはテントを見つめながら口を開く。


「けじめを着けなければならない。革命の仕上げとして、断首は免れないだろう」

「え? でも首――」


 トルネードが私の口に人差し指を当てる。


「……()()()()()()()()死ぬ。あとは、あいつ次第だ」


 トルネードはそれきり黙ってテントを見つめていた。その後、私達はしばらく聖女様と話し、帝都決戦の経緯を報告する。


……


……


……


 かなりの時間が経ち、日が傾く頃。後処理をトルネードに任せ、私とダニーが正門広場の様子を見て回っていると、心配そうに探し回る女性とユウリイを見つけた。


「ユウリイ! 良かった、無事だったんだね」


 私はユウリイに駆け寄り、抱き付く。


「アーシャ、君も無事だったか。ダニーも。僕達は城が崩れる前に、何とかガープを連れて出たんだよ」


 私はユウリイから体を離し、横の女性を見る。ショートの金髪のキレイな女性だ。ユウリイのコートを羽織っている。


「こちらはヨナ。ニドの想い人だよ」

「えっ……」


 硬直する私に、ヨナは心配な顔をしたまま少しだけ会釈し、すぐに口を開く。


「あなたがアーシャ……ニドは? ねえ、ニドはあなたの所へ行ったはず。どうして……一緒にいないの?」

「……ニドは……」


 口をつぐむ私に、ヨナが膝から崩れ落ちた。


「どうして……無理にでも止めるべきだった……! 私、私……!」


 夕焼けに染まる朱の広場に、泣き声だけが響く。戦の過ぎた帝都はやけに静まり返っていて。ヨナの静かなすすり声が、余計に私の胸に刺さった。


 ユウリイは心苦しそうにヨナを見下ろしながらも、私にニドの行方を問う。私はヨナに気を遣い、言葉を選びながら経緯を話した。するとユウリイは少し考えてからしゃがみこみ、ヨナに語りかける。


「ヨナ。ニドが飛び降りた縦穴、覚えてるかい」

「……忘れるはずないじゃない」


 ヨナは拭っても拭っても溢れる涙を抑えながら応えた。ユウリイはうずくまるヨナの背をさすりながら、優しく語りかける。


「あの昇降機のケーブル……僕には、奈落にれる天の糸に見えたよ。諦めるのは、まだ早いんじゃないかな」


 ――その時だ。


 ――バガァンッ!!


 崩れた城から激しい破砕音が響き、瓦礫が飛散する。中から顔を出したのは、灰砂だらけの黒き剣士――!


「――――!!!」


 ヨナはすぐに顔を上げ、溢れる涙もそのままに駆け出した。私とダニー、ユウリイも後を追う。瓦礫の山から出てきたニドは、全身の灰砂をはたきながら笑った。


「どうしたてめーら、ユウレイでも見るような顔してよ。俺ぁ自分も生き埋めになるなんざ一言も言ってねえぞ。昇降機の縦穴がギリギリ登れてな。奴は二度と出てこれねえよう散々ぶった斬ってやったぜ――おおッ!?」


 ヨナが駆ける勢いのまま、ニドに飛びついた。


「この……バカァッ! 私はもう復讐なんて良かったのに! ニドとやっと会えて、それなのに、どれだけ人を心配させたら――!!」

「……」


 ニドは黙ってヨナを抱き返し、ヨナが少し落ち着くのを待ってから口を開く。


「会えたから、だ。余計に奴を斬らなくちゃならなくなった。俺が本当に憎悪だけでってたら、奴の思い通り邪龍になっちまってただろうよ」

「……どういう意味?」


 ヨナは涙を拭って、ニドの顔を見上げた。ニドはまた黙って見つめ返す。答えが返ってこないことにヨナが少しだけ首を傾げると、ニドはヨナの頭をぐっと胸に抱き寄せた。


「惚れた女のためなら、不死の魔女だろうがぶった斬んだよ。もう怖がることも、心配することもねえ」


 沈み行く夕陽が、瓦礫の山で抱き合う2人を優しく朱に包む。見ていた私とダニーも、そっと手を繋いだ。これで、全部終わりだ。帰ろう。私達の家に――。

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