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灰髪のアーシャ ~炎の力に目覚めた少女は、英雄に導かれ灰の荒野を往く~  作者: 星太
最終章 辿り着く場所

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第60話 今ふたり心満ちて

 私は、長い長い夢を見ていた。


 炎に揺らめく膨大な記憶が、

 火砕流のように、

 私の意識を押し流した。


 真っ赤な世界。

 爆ぜる火花の音だけが静かに響く。

 ただそれだけの世界。


 私、何が知りたかったんだっけ。

 ぼうっとする。私のかたちが無いみたい。

 こころも、からだも。全部炎に溶けていく。


 どうしてここにいるんだっけ。

 ……思い出せない……。


 このままなくなっていくのかな。


 ……それでも、いいのかな……。


 真っ赤な世界に、誰かの優しい声が響く。


『なあ、聴こえてるか? アーシャ』


 誰? 

 知ってる声だ。でも、思い出せない……。


『オレ、声が出せないみたいだ。情けねえな』


 大丈夫、聴こえてるよ。


『でも、一生懸命伝えるから』


 うん。


『これが、最期かもしれないから』


 ……。


『オレ頭悪いからさ、うまいことは言えない。

 きれいな言葉も、かっこいいセリフも。

 だから、全部言うぞ』


 いいよ。


『アーシャが好きだ。

 初めからずっと』


 ……うん。


『会った時から、好きだった。

 覚えてるか? オレは、忘れもしない。

 雨の日だった。

 トルネードが連れてきてさ。

 アーシャ、びしょ濡れだったな。

 仲良くなりたくて、すぐ話しかけた。

 アーシャはトルネードの後ろに隠れてたけど、

 オレが差し出した手を、取ってくれたんだよ。

 で、にっこり笑った』


 覚えてる、気がする。

 私にとっても大事な思い出だったような……

 でも、君の名前が思い出せないの。


『一目惚れだった』


 ……ごめんね。


『ごめん、何か涙出てきた。

 かっこ悪いな、オレ。続けるぞ』


 私も涙が出てきた。

 何でだろう。

 わからないけど、思い出したい。君のこと。

 うん、続けて。


『あれは、いつだったかな。

 いや、いつもだった。

 アーシャの灰髪が、陽に煌めいて。

 キラキラと銀に輝くんだ』


 そうなの。きれいでしょ。


『小さい頃に一度だけ、「きれい!」って。

 つい言葉に出た。

 後で恥ずかしくなってさ。

 言わないようにしてたけど』


 嬉しかったな。

 言ってくれたらいいのに。

 

『好きだ。

 その髪も、

 その目も、

 耳だって、鼻だって、何だって。

 好きだ』


 ……ありがと。


『悪かったよ。

 灰被りなんてからかってさ。

 ガキだった。

 ホント反省してる。

 嫌な想いさせたかなって』


 そうだよ。嫌だったんだから。

 構ってほしいなら、普通に遊べばいいのに。

 でもそんなこと言うのは、1人だけだったな。


『馬鹿だな、オレ。

 いまさら謝って。

 遅いよな。ごめん』


 いいよ。


『なあ、聴こえてるか?』


 うん。


『秘密基地、作ったよな。

 実はオレ、基地を作ったことより、

 あの会話が嬉しかったんだよ。

 アーシャがママで、オレが聖樹士で。

 2人で孤児院を守るんだってやつ』


 君は、聖樹士になりたいんだね。

 あいつと一緒だ。

 ……あいつ……


『夢だったよ。そんな暮らしが。

 まだそんな夢を抱いてるのは、オレだけか?』


 ううん。

 私も、夢だよ。そんな暮らし。


『そうだ、最高の思い出があるぜ。

 覚えてるか。

 ふふ、オレだけかもな。覚えてるのは』


 何? 教えて?


『ある冬だった。

 星がきれいだったな。

 2人でバルコニー出てさ。

 本当の親ってどんな人だろうかって。

 で、名字の話になった。

 アーシャが≪もがく者(ストラグル)≫より

 ≪友情(アミキータ)≫が良いって言ったんだ。

 アナスタシア・アミキータが良いって』


 ……アミキータ……


『ドキドキした。

 意味わかって言ってんのかって』


 ……!!


『オレもそうしたいよ。

 アナスタシア・アミキータが良い。

 今なら、わかるだろ?』


 わかる。

 わかったよ。

 思い出した。

 大事なこと、全部。


『伝わってるか?

 聴こえてるか?

 返事、くれないか。

 うんでもいやでも、何だっていいから』


 伝わってる。

 聴こえてるよ。

 私も返事したい。

 今すぐ会いたいよ。


『アーシャがオレのことどう想ってても。

 オレは、アーシャのことを絶対に守る』


 私自身、気付いてなかったかもしれない。

 今ならわかる。私の心のかたちが。


『いつもオレの方が守られて。

 悔しいんだ。

 オレが馬鹿だから、粉飲んだ時も。

 大穴に飛び込んでオレを助けてくれたよな』


 違うよ。

 いつも守られてるのは私の方だよ。


『だったら次は、オレが炎に飛び込む番だ。

 炎を怖がってちゃ、アーシャに向き合えない』


 ねえ、今どこにいるの?

 そばにいるの?


『だって、アーシャが一番向き合ってきたんだ。

 ずっと悩んでたろ。

 そりゃ悩むよな』


 うん。

 ずっと、悩んでた。

 あまりにも強く、大きな炎。

 いつか大きな過ちを犯すんじゃないかって。

 ママを焼いたときのように。

 紅蓮の魔女のように。


『今、どう想ってる?

 怖いか? 自分の炎が』


 ううん。だって、わかったの。

 紅蓮の魔女――お母さんはただ守りたかった。

 大好きなひと達を。

 ただほんの少し、うまくいかなかっただけ。

 怖いのは、炎じゃなくて。

 想いが壊れてしまうことだったんだ。


『オレは怖くないぜ。

 この炎もひっくるめて、アーシャだから』


 私も、もう怖くない。

 何より強い想いが、いま私を満たしてるから。


『炎ごと、抱き締めてやる』


 答えは、初めからずっとそばにあったんだ。


『アーシャ』


 ダニー。


『愛してる』


 愛してる。



……―― ◆ ――……



 真っ赤な世界は煙のように消え、現実――薄闇のドームが広がる。逆立ちたなびいていた赤髪は、燃え尽きるように毛先から灰色に戻り、ぱさと降りた。


「アーシャ……良かった」


 声にならない掠れ声でダニーは呟き、私の足元に膝から崩れ落ちる。私はすぐにしゃがんで、ダニーを抱き締めた。全身を覆う白銀の鋼毛が焼けただれている。


「ごめんね、ごめんね……!」

「……謝んなよ……今、最高の気分なんだ」


 ――ガギイィンッ!!


 ドームに激しい金属音が響き渡る。

 見れば、トルネードとニドが誰かと戦っていた。相手はまさか、皇帝!?


 横を見た私の灰髪を、ダニーの焼けただれた白銀の手がそっと撫で、私はダニーに目を戻す。ダニーは今にも途切れそうな掠れ声を、喉から絞り出した。


「……髪……戻ったな。……きれいだ」

「あ――」


 私が返事しようとした瞬間、灰髪を撫でるダニーの手が力無く地に落ちる。


「……ダニー?」


 返事がない。動かない。抱き締める私の腕の中で、ダニーの力が抜けていく。


「ダニー!? ねえ!」


 ダニーは、いっそう微かな声を絞り出す。


「少し……休む」

「! わかった。休んで。でも、必ず起きてね。絶対だよ!」

「……ああ」


 そう言うと、ダニーの体は完全に力無く私にもたれかかった。私はダニーを支えながら、焼けた白銀の顔を見つめる。


「……絶対よ」


 そっと、口づけた。

 閉じた目にたたえた涙がこぼれ、頬を伝う。


 薄闇のドームに激しい剣戟が響き続ける中、私は腕の中で眠るダニーをぎゅっと抱き締めた。


 そんな場合じゃないのはわかってる。

 でもお願い、ほんの少しだけ。

 このままでいさせて――……。

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