第52話 希望を繋ぐ名
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今話は、炎の百日の後の世界をエメラダの視点で語る短めのサブエピソードです。
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――ガラガラ……
百日続く炎に炭と化した樹々をどけ、煤けたエメラダが身を出す。
「……!」
エメラダは絶句した。
見渡す限りの灰の世界に。
眼前に広がるは、ひたすらに灰。地に積もる灰砂、風に舞う灰煙、天を覆い尽くす灰雲。全てが色を失っていた。――ただ一つ、エメラダの足元に残った世界樹の苗を除いて。
炎の百日の間、エメラダは世界樹の枝を地に植え、難燃性の樹で周りを囲い、守り続けていた。瞬く間に広がる炎の中、エメラダに守ることが出来たのは、ただ1本の枝。それは百日の間に根差し、見事七色の葉をつけていた。
全てが灰色の世界で、淡く輝く七色の葉を持つ世界樹は美しく、希望の光そのものだった。
「……私が止めていれば……いや、まだ終わっちゃいない。樹はちゃあんと生きてるじゃないか」
生命無き灰の大地に、生命を植えていく。繁る樹は空気を浄化し、水を蓄え、種々の生命を育んでいく……――エメラダは途方もない天地創造に、生涯をかけた。
その献身はやがて人々の心を打ち、自ずと従者が増えていった。人々はエメラダを≪深緑の聖女≫と崇め、植樹組織≪幹≫を立ち上げた。賛同者は自らを≪枝≫と称し、その枝葉を広げていく。
……
……
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炎の百日から80年後。
小さな枝だった世界樹は立派な大樹となり、それを囲むように一つの国が興った。エメラダに従った最初の賛同者が王となり、エメラダは世界樹の幹から樹剣と樹砲を造ると、国王に託す。脅威に備え、永劫の平和を築くために。
また、エメラダは後任に一人の少女を選び、自らの名と記憶の全てを継いだ。もう二度と悲劇が起きないよう、戒めを込めて。
◆――……
彼の地にて いずれ炎は流転する
願わくは 次こそ 穏やかな生を
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御年120歳、エメラダ・グリンヴェルデは淡く輝く七色の葉に包まれ、樹のように静かに息を引き取った。その名と想いは、遥か千年の時を連綿と紡ぎ、現代まで続いていく――。





