第46話 邂逅
―― ◆ ――
ジュダと共に降りた螺旋階段の果て、大井戸のような縦穴の底には、だだっ広いドーム状の空間が広がっていた。その中央でオレンジの暖かな光を放つ、小さな城ひとつ程もある巨大な赤炭、これが――
「神炭……!」
見上げながら、思わず息を漏らす。
例えるならそれは、≪凍てついた炎≫。
燃え盛る炎がそのまま時を止めたように姿を留め、塊となって鎮座している。
「いかにも。これが、神炭です」
オレンジに照らされたジュダが、私に微笑みかける。でも、その微笑みは口だけだ。目は企みに満ち、鋭く私を捉えていた。
「さて、本題に入りましょう。どうぞこちらへ」
ジュダはツカツカと神炭のすぐ前に歩み寄り、振り返って私を手招きした。私はごくりと唾を飲み、身構える。
「……まだ、聞いてない。神炭って何? なぜ私を連れて来たの」
私はじっと足を止めたまま、ジュダに問う。
「これは、紅蓮の魔女の力の結晶――即ち、≪流転の炎≫。ここまで来ればすでに《《共鳴している》》はず。ご自身の胸の内に問うてはいかがですか」
ジュダの言う通りだった。
神炭に近付くに連れ、徐々に熱くなる体。
チリチリと、今にも燃え出しそうな程に。
熱と緊張で、汗が頬を伝う。ポツと地面に滴ると同時に、意識が闇に飲まれていく――
……
闇の中、神炭と全く同じ形の炎が、轟々と燃え盛る。その炎の正面、現実ではジュダが立つ位置に、赤髪の少女がいた。
『……あなたには……あなただけには、来てほしくなかった』
「……どうして?」
赤髪の少女は、目を伏して応える。
『あなたに知られたくなかったから』
「何を?」
赤髪の少女はしばらく沈黙した後、覚悟したように重い口を開いた。
『……あの中には、≪本当の私≫の記憶がある。今の私は、ほんの欠片に過ぎない。記憶はまばら、心は歪。でも、あなたがあれに触れたら――きっと全てを知ってしまう』
赤髪の少女は伏した目を上げ、私を強く見つめた。いつもどこか曖昧な彼女が、ハッキリと意思をもって、私に伝えてくれている。触れてほしくない、と。神炭にも、本当の自分にも。
でも、私は知りたい。私が何者なのか、この身に宿る炎の意味を。
「ねえ、≪本当のあなた≫って……ううん、≪本当の私≫って――」
――ドン
……
「え……?」
急に背中を強く押され、私の意識が現実に引き戻される。突き飛ばされながら後ろを見れば、紅いシルクハットとマントに身を包む紳士風の男――紛れもなく、ジュダが私の背を押していた。
神炭の正面にいたジュダがゆらりと消える。いつの間に≪幻≫とすりかわっていた――?
ハットのつばで目元は隠れているが、ジュダの口角が意地悪く上がる。突き飛ばされた私は、そのまま神炭に触れ――飲み込まれていく。炎の中へ。
――ボゥッ
視界の全てが赤に染まる。
焼ける匂い、爆ぜる音。
外から、内から、熱が身を包む。
燃える?
溶ける?
どこまでが私で、どこからが炎か。
五感の全てを炎に包まれた私は、境界がわからなくなっていく。まるで、私自身があの炎でできた赤髪の少女になったような――
炎に溶けゆく私の中へ、無数の音が、景色が、そして感情が雪崩れ込む。これは、誰かの記憶? 私自身が、膨大な情報――誰かの思い出の渦に引きずり込まれていく。
薄れ行く意識の中で、魂に声が響いた。聞き慣れた、赤髪の少女の声が。
『ごめんなさい。
ごめんなさい。
どうか、私を――
許して』
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