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灰髪のアーシャ ~炎の力に目覚めた少女は、英雄に導かれ灰の荒野を往く~  作者: 星太
第5章 交錯の帝都

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第38話 それぞれのプライド

 アーシャの炎が帝都上空を焼く前のこと。反帝組織≪プライド≫は、元帝国将軍ガープを先頭に、濃灰煙る帝都市街地へと進軍していた。


「プライドを胸にッ! 進めーーーーッ!!!」


 高い石壁に囲まれた帝都の入り口は、固く閉じた大正門ただひとつ。ガープ率いる数千もの軍勢は、内通者に開けさせた大正門から、凝灰岩の家屋が並ぶ目抜通りを真っ直ぐ駆け抜けていく。


 この戦いは侵略ではなく、誇りを懸けた革命。堂々と駆ける≪プライド≫の勇姿が、都民の目に焼き付く――はずだった。


「……おかしい」


 ガープの右隣を駆けるトルネードが呟く。


「ええ、静かすぎる」


 トルネードの呟きに、ガープの左隣でニドと共に駆けるユウリイが返す。互いの呟きが聞こえること――それ自体が、帝都の様子の異常を示していた。


 あたりにはプライドの軍靴だけが響き、灰煙が舞い上がる。濃霧のごとき灰に包まれ、全てが幻のように霞む市街地に、都民の声も姿もなく。間もなく道半ばまで進軍するというのに、迎え撃つ帝国軍も現れない。


 異変の原因に気付いたのは、ニド――いや、ニドの皮膚だった。全力で駆ける最中、ニドが息を吸い込むたび、軋む音を立てて皮膚が鱗に覆われていく。


「……」


 ニドは、至って冷静だった。体を蝕む鱗……宿願を果たす前に、無駄に魔獣化するつもりはない。にもかかわらず、黒鋼の鱗が筋骨を侵し、拡がっていく。思い当たる節は、ただひとつ。


「この煙、灰じゃねえ……≪粉≫だ」

「何ッ!?」

「何じゃとおッ!?」


 ニドの言葉に、ユウリイとガープが驚く。トルネードはすぐさま後ろの軍勢に指示を出す。


「皆、鼻と口を覆えッ!」


 布や腕で鼻と口を覆うも、時すでに遅し。プライドの団員が、次々に呻きをあげて倒れていく。全力で駆ける大軍は、街中に撒かれていた≪粉≫を巻き上げ、激しい呼吸で多量に吸い込んでしまっていた。


 それでも、動き出した革命は退けず、止まれず。ガープ達は、≪粉≫の霧中に浮かぶ城影へ一直線に駆けていく。


 白い当て布をマスク代わりにし、顔の下半分を覆ったユウリイは、駆けながら思慮を巡らす。


「動きを読まれていた……? いやそれより、蜂起を止めるために、ここまでするのか? これでは、民も皆……!」


 先頭を駆けるガープは、抑えきれぬ怒りを込め、正面の城に向け大戦鎚を振るう。


「こんな……! こんなことをしてッ! いったい何がしたいんじゃあ、バァーディスーーーッ!!!」


 大戦鎚はごうと風を巻き起こし、辺りの≪粉≫を払う。わずかに晴れた視界の先に、ついに皇帝バーディスの座す城が現れた。気付けば、プライドの一団は城門前の広場に到達していた。


 そびえるは、凝灰岩を積み上げた要塞のごとき色無き城。城門前にはフルフェイスの兜に全身鎧の帝国軍がずらりと待ち構えている。が、皆の目を引くのは大軍ではなく、3階のバルコニーから広場を見下ろすたった一人の男だった。


 男の名は、皇帝バーディス=ドラガン。

 後ろに流した銀の長髪に、初老とは思えぬほど若々しく、自信と威厳溢れる顔立ち。鍛え上げられた肉体に漆黒の鎧とマントを纏うその男は、切れ長の冷酷な眼でガープを見下ろす。


「久しいな、ガープ」


 落ち着いた低く静かな声は不思議と良く通り、一団に緊張が走る。同時に、広場を囲む市街地の家々から灰人化した都民がぞろぞろと現れ、広場に出たプライドの一団の退路を封じていく。


 帝都中に撒かれた≪粉≫は、すでに都民を灰人と化し、民を守らんとするプライドの革命は、その実、とうに打ち砕かれていた。


 色を失った虚ろな眼でふらつく《《元》》都民達は、救世主になるはずだったプライドを囲み、手に手に持った刃を向ける。その胸の内は空洞か、はたまた恨みか。なぜもっと早く、助けてくれなかったのかと。


 遅きに失した絶望と罪悪感にうち震えるガープは、その困惑と怒りを、張本人にぶちまけずにはいられなかった。


「バーディスーーッ! 狂ったかッ! 兵のみならず民までも……! 共に国造りを語ったあの頃のお前は、どこに行ってしまったんじゃああッ!」


 怒りに満ちたガープの眼と対照的に、バーディスはいっそう冷めきった眼で見下し、呆れ声を出す。


「どこに行った、だと? 逃げたのはお前の方だろう、ガープ」

「……!」


 刺さる返答にガープは歯噛みするも、バーディスは気にかけず続ける。


「強き国づくりのため、私は常に実行してきた。より安全な地を求めダラライに西征を命じ、魔獣を超える力の研究をルクレイシアに、さらに灰の元凶であり史上最強の異能者≪紅蓮の魔女≫の研究をジュダに命じた。そして私自身は、≪神炭≫の研究を」

「兵や民を灰人にして得た強さに何の意味がある!」


 淡々と語るバーディスに、ガープは吠える。


「お前は間違っておる、バーディス!」


 その時、突如上空で爆炎がとどろく。


 瞬間、

 世界が、

 燃えた。


 そう思えるほど、巨大な炎が天を覆うように渦巻き、地を赤く照らす。

 炎が燃え盛っている時間は実際はわずかなものだったが、見上げた誰もが時が止まったような終世感に襲われた。


 炎渦は、空を覆っていた灰雲のみならず帝都中の≪粉≫の霧を吹き飛ばし、煙となって消えた。皆の視線はその中心の少女に向けられていたが、やがてバーディスに戻る。バーディスは炎の元凶をジュダが回収したことを見届けると、視線をガープに落とした。


「この灰の世は、いずれ魔獣で満ちる。次の時代に進めるのは、灰に打ち克つ者のみ。私は導かねばならないのだ、いかなる犠牲を払おうとも。……ガープ、私が間違っていると言うのなら、言葉ではなく力で示せ。私よりも強き国を作れる証を」


 バーディスはマントを翻し、城内へと消えていく。


「言われずとも、儂の戦鎚で過ちを打ち砕くッ! 待っとれよ、バーディスーーッ!」


 ガープは消え行くバーディスの背に大戦鎚を向け吠える。それを合図に帝国軍と周囲を囲む灰人がプライドに襲い掛かり、都民を救いたかったプライドと、救われなかった兵や元都民の悲しい戦いが幕を開けた――……。

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