自己紹介しました
「ところで今更だけど自己紹介してもいいかな?僕はクロウ。君は?」
彼女へ呼びかけようとして、そういえば名前も聞いていなかったことに気づいたので、僕から名乗った。お貴族様のマナー本にも『名前を尋ねるときは自分から名乗るべき』と書いてあったからね。
「そういやそうだったな。アタシはルル。ルルティアってのが名前だけど出来ればルルって呼んでほしい。いきなり連れ出して悪かったよ。でもホント助かった!ありがとな!」
ようやく自己紹介をした僕らは、よろしくと言い合いながらぎゅっと握手をする。彼女のがさついた手の平が気になった。多分僕と同じくらいの年なのに・・・。自分の恵まれた環境と思わず比べてしまって、申し訳なく感じてしまう。
申し訳ないといえば・・・
「あ、そういえばゴメン。せっかく集めた薬草勝手に使っちゃって。」
「うん?いいよいいよ。どうせほとんど金にならねーからな。あんなに集めても、たったの銅貨5枚ぽっちだぜ?」
そういう彼女は全然気にしてないといった感じでケラケラと笑った。そう、彼女のいうように、籠いっぱいに葉っぱが詰められていたが、全てギルドに買い取ってもらっても、銅貨5枚。効果の高い若い芽ががあったので、もう少し貰えたかもしれない。
「・・・もしかして査定内容って聞いてない?」
「ん?サテイ?なんだそれ?」
彼女の返事に思わず額を押さえた。そりゃぁこんなに使えない葉を集めるわけだ。そういえばミミリーさんも質を考えなければ量はあるみたいなこと言ってた気がする。
「他にも冒険者見習いの子がいると思うんだけど、やっぱりおんなじ感じ?」
「あぁ、そうだな。こんなに集めてんのになー。もっと金になるものあればいいんだけど、なんか知らないか?」
「やっぱりそうなのか・・・ルル。僕がさっきまで何してたか分かるかな?」
「ラッセルを助けてくれたな!ありがとな!」
「いや、そうじゃなくてさ・・・」
ラッセルに食べさせるためにヒールリーフを選別していたことだと察してほしかったんだけど、彼女にとってはラッセルを心配しすぎて記憶に残っていなかったようだ。
「ルルがどう聞いてるかは分からないけど、ヒールリーフって生えてる葉っぱ全部が薬に使えるわけじゃないんだよ。ルルの籠から何枚かさっき使わせてもらったけど、あの籠の中、半分以上は薬に使えない葉っぱなんだよ。貰える報酬金も銅貨5枚ってことなんだよ。」
「げっ!そうなのか!くっそ~~あの野郎、見つけたら全部持っていけばいいとかテキトー言いやがったな。いや、もしかしたらアイツも知らねーのか?くたびれ損じゃねーか!」
悔しそうにいうルル。そりゃぁそうだよな。金にもならないものを集めてたと分かれ僕だって悔しいと思う。きちんとした知識を持っていない冒険者が多いらしいから、ルルに教えたのはそういうのだったんだろう。
「だからさ、薬に使える葉っぱだけを籠に詰め込んだら、もっと貰えるはずなんだよ。」
「そういうことだよな!頼む!どうすりゃいいか教えちゃくれねーか?この通り頼む!」
力いっぱいに頭を下げるルルだが、そんなに必死にならなくても最初からそのつもりだよと伝えると、弾けるような笑顔で「ありがとう」と手を握られブンブンと大きく振られた。
ラッセルが目を覚ますまでは動けないというルルを1人にはしておけず、少しだけヒールリーフの解説をして時間を潰していた。
「ハートの形をした葉っぱで分かりやすいヒールリーフだけど、成熟した葉は薬にならないんだ。若いと黄色っぽい色の葉っぱなんだけど、これが成長すると煮ても焼いても薬にならない物になる・・・こいつみたいな深い緑色になるんだ。黒緑っていいかも。黒くなっちゃったらもうタダの葉っぱと変わらないんだ。」
「なるほどなー。黒いの取らないだけでも随分手間が無くなりそうだ。」
「ホントはもうちょっと見分け方はあるんだけどね、そっちは難しいから機会があればって感じかな。」
「クロウすっげーな!よくそんなこと知ってんなー!」
そんな風に話していたら「うぅ~~ん」と声が聞こえてきた。ラッセルが目を覚ましたみたいだ。
「うぇ・・・口、苦い・・・。お腹・・・あれ・痛くない。」
「苦いのはヒールリーフだね。若い芽ほど甘いんだけど、それ以外は一気に苦くなるんだ。」
「・・・誰?苦い。」
「ラッセルぅぅぅ!大丈夫か?痛いところないか?」
「ルル・・・。お腹、大丈夫なった。口、苦い。これ、誰?」
しゃべるのは苦手なのか、口の中が苦すぎてしゃべれないのか、片言ではあるがラッセルの腹痛は無事に収まったようだ。アースフラワーが効いてくれたのかは定かでは無いけど、これで一安心だ。ルルの目には安堵のためか、少し涙が滲んでいた。
「あぁ、僕は彼女に連れてこられたんだ。クロウだよ。よろしく。水とかもってないのか?川とかあればいいんだけどなぁ・・・」
水筒とか持ってないかと聞いてみたけど、ルルもラッセルもそういうのは持っていないらしい。僕も急に連れてこられたもんだから、水筒どころか何も持っていない。水源があればと思ったんだけど、さすがに森に入ってすぐのこの場所からは遠いらしい。仕方ない。町に戻るまで我慢してもらうしかないね。
「余り同じ場所にとどまっていると魔物が嗅ぎつけるって聞いたことがある。ホントかどうかは分からないけど、とりあえず町に帰らない?僕もたくさん走ったから喉乾いちゃったよ。」
僕の提案に一も二もなく賛成する2人とともに、量の減ったヒールリーフを籠を背負って帰路に就く。ずっと渋い顔をしているラッセルを横目に、僕とルルは笑いを堪えながら町に戻った。