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孤児に連れられ町の外へ

「おい!そこの・・・そこのお前!」


いつものように、体力づくりの一環として、走って教会まで向かっていたら、突然後方から声が上がった。声の方へ振り向くと、赤毛で快活そうな少女が僕を睨んでこちら見ていた。


「頼む!手伝ってくれ!人手が欲しいんだ!」


かなり切羽詰まった様子で腕を捕まれ、引っ張られた。うわっ、僕と同じくらいのくせに結構力が強い・・・。


「ちょっ、ちょっと待ってくれよ、何なんだ?君は何者なんだ?」

「急いでんだ!頼むから黙ってついてきてくれよ!」

そのものすごい剣幕に、思わず「わ、分かった」と返事をしてしまった。一体何が彼女をそうさせているのかに興味があったということもある。大人たちに声をかければいいのにと思ったが、彼女の姿をよくよく見てみると、それが出来ないことが分かった。


(そうか、この子は孤児か・・・。)

この町での孤児の扱いはあまりよくない。衣服はボロボロで、いつも土や草で汚れているのだから仕方ないかもしれないけど、孤児たちもまた、大人たちを信用していないというのが大きい。噂によると、孤児院の管理者が酷い扱いをした所為で、周りの人間全て信用するなという意識が広がっているらしい。


ぐいぐいと引っ張られ、何度か転びそうになりながらも何とか彼女に並走していると、町の西門が見えてきた。


「ちょっ、ちょっと待って!町の外に出るの!?」

「そうよっ!」

それ以上は何も言わず、門番の横を当然のように駆け抜ける。町の外に出ることが禁止されているわけでもないので、そのまま素通りできてしまう。両親に心配をかけないように町の外に出ることを忌避していたのに、こんなにあっさりと・・・。


直ぐに街道をそれて森の中に入りそのまま突っ切る・・・って枝がちょいちょい引っかかって痛いんですけど!僕の足はすでに限界に近づいており、ほとんど引きずられるように、ようやく目的の場所へとたどり着いたらしい。


「おい!ラッセル!ラッセル!大丈夫か!?死んでないか!?」

少し遅れて近づくと、お腹を押さえてうずくまる少年・・・顔面蒼白で明らかにヤバイ状態だ。彼は「うぅ・・・」と呻くばかり。彼女が慌てていたのは確実に、ラッセルと呼ばれている子の少年の助けるためだと思うのだけど・・・これを助けろって子供の僕にはハードル高くない!?


「君!ちょっとあんまり揺らさないの!とりあえずこういう時は余り揺らさないほうがいいはずだよ。この子も受け答える余裕もなさそうだ。どうしてこんなことに?」

「アタシも分かんないよ!アタシたちはただ、ヒールリーフを集めてただけなんだ!でも急にラッセルがお腹押さえて苦しみだして・・・。」

突然の痛み・・・お腹・・・なるほど、全然分からん!情報が無さ過ぎ!こんなのどうしろってんだよ・・・。お腹・・・お腹か・・・食べ物が原因かな?孤児たちって普段何食べてるんだ?


「・・・今日何食べたか覚えてる?」

「今日?・・・芋だ。あとはその辺に生えてる食えそうな奴。」

頭を抱えるしかない・・・芋以外はなんなんだよ・・・草か?草なのか?もうこの辺の薬草飲ませるしかないだろ。手始めに・・・あった、あれだ!ひと際背の高い白い花!ホントに見つけやすいんだな、アースフラワー。これの解毒作用に期待するしかないや。


確か乾燥させて砕いて粉末状に・・・ってそんな設備も時間もあるわけ無い!生でもそれなりに効果はあったはず。僕は医者でも何でもないんだ。治らなくてもお願いだから怒らないでくれよ。

森にあるものは効能が薄いらしいので、目に付く白い花の花弁をひたすらむしり取り、ラッセルの口に詰め込む。


「お、おい、これ大丈夫なのか!?」

「これは毒消し。ところでヒールリーフってどこ?」

「あ、あぁ、この籠にはいってる。」

どうにかしてやろうと最初は思ってたけど、何が何だか分からない状況のため、「もうどうにでもなれ」という気持ちで僕の頭は染まってしまい、とにかく毒消しと体力回復しとけば大丈夫だろうという乱暴な結論に行きついたため、少しイライラしていた。


籠の中身をどさっと広げると「何やってんだ!」という声がかけられたが、「何か?」と言ったら静かになった。集中したかったからちょうどいいや。


予想通り、籠に入っていたヒールリーフはほとんどが効果の薄い成熟しきった葉ばかりが入っていた。その中から効能が残っているものを見つけ無いといけないのかと嘆息したのだが・・・。

「若いのが1枚だけあるな・・・これならいけるか」

浅緑色の一目で分かる若い葉を見つけると、すぐにラッセルの口に放り込む。それだけでは心許ないので、他にも回復効能のありそうな葉を探していく。


「これはダメ、ダメ、ダメ。ダメなの多すぎじゃないか?あぁ、これは大丈夫そうだ。またこれはダメ。これはギリギリだけどいけるか。」

籠の中にぎっしり詰まっていたヒールリーフを選別していると、「な、なぁ・・・」と、おそるおそるといった具合に話しかけられる。顔を上げると、心配そうな瞳でこちらを見つめる少女と目があった。最初の剣幕はどこいってしまったのか、しおらしくこちらを伺う姿が、どことなく妹と重なった。


「それって今なにやってんだ?」

「なにって、使えるヒールリーフの選別だよ。使えない葉を食べさせてもしょうがないからね。」

そういうの彼女は目を丸くして驚いた。


「えっ!!葉っぱって全部使えるんじゃないのか?」

「そんな都合のいい薬草なんてないよ?誰から聞いたの、そんな話。」

「いや・・・とにかく葉っぱを集めればいいと思ってた・・・そうか・・・違うのか・・・。」

どうやら、孤児の子たちへの指導内容に問題があるようだ。下の方まで情報がまわらずに、無駄に苦労を重ねていたとしって、彼女は相当ショックを受けたようだ。


とりあえず回復効果の高そうな葉をもう2、3枚ラッセルの口へを放り込んで、無理やりにでも顎を動かして口の中ですりつぶさせる。効果は直ぐには出ないだろうけど、少なくともヒールリーフによる体力の回復効果だけは期待できるだろう。


「ラッセルはこれで治るのか?」

「多分・・・としか言いようが無いかな。薬草の効果に期待するしかないよ。僕ができることはしたつもりだよ。」

そういうと、彼女はようやく不安そうな顔を少しだけ綻ばせて「ありがとう」と言った。


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