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夜は1日を振り返って、有用な情報をメモにまとめる大事な時間だ。今日はなんといっても冒険者ギルドから得た薬草についての情報だ。さっそく自作の『薬草辞典』に追加情報を記入していく。新しい情報を追加していくのは楽しい。こうして様々なところから得た情報を書き記していくと、新たな発見につながるから面白い。


ただ、毎日こんな日課があるために、インクはどんどん減っていくのだけは困っている。本を書き写せば給金はでるけれど、お金はどれだけあっても足りない。もらった分インクと紙で消えていくのだから、なかなか貯蓄ができない。どれだけ書いても減らないインクがあればいいのにと思いながら、今日も羽ペンを走らせる。


それに、わざわざインク壺にペンをつけなおさないといけないのがちょっとめんどくさい。それとインクはもうちょっと乾きやすいならなかったのかな。うっかり紙を重ねてしまってダメにしちゃうとホント凹むから勘弁してほしいよ。


(でも、そんなものあるわけないよなぁ・・・)


仕事で使うようになってから、何回願ったか分からないことを思いながらメモをしていると、ペン先が僅かに光って見えた。なんだろう、見間違いかな?と思ったけど、確かにぼんやりと光ってる。不思議に思いながらも、ランプの明かりだけでは心許なかったペン先がはっきり見えるようになったことで、気分を良くしてペンを走らせた。


不思議な現象だけど、とりあえず便利なので構わず文字を書いていくが・・・インクがかすれない!明らかにペンに溜まったインク以上に文字を書いているはずなのに、インクはいまだにかすれることはなく、今日残しておくべきメモは全て書き終えてしまった。


「これっていったい・・・便利だけどなんなんだろう。もしかして・・・明日爺ちゃんに聞いてみようかな。ちょうど本も出来上がったことだし丁度いいや。」

考えても分からないのは情報が足りていないからだというのは知ってる。だから僕はすっぱりと考えを切り替えて布団へ入る。今日はなんだかいつもより疲れていたのか、眠気は直ぐに訪れた。





「・・・というわけなんだよ。爺ちゃん、何か分かる?」

「ほっほっほ。もちろんじゃ。ちょっと待っておれよ。」

本を渡しに来たついでに、昨日の現象について爺ちゃんに聞いてみたら、あっさりと分かると言った。さすがは爺ちゃん。長いこと本屋をやっているだけはある。しばらくすると、爺ちゃんは奥から瓶を2つ持ってきた。瓶は透明で、中に入っている液体も透明だった。


「爺ちゃん、それ何?水?」

「ほっほっほ。これはの・・・実は魔法のインクなんじゃよ。これをこうしての・・・」

そういうと爺ちゃんは透明な液体をペンにつけて線を引いていく。どんどん・・・どんどんと引いて・・・インクは掠れることなく線が引かれ続ける。


「驚くのはまだ早いぞい。」

もう一つの瓶の液体をペンにつけて紙へ線を引くと、透明でも黒でもない、鮮やかな赤で線が引かれはじめた。やはりインクは掠れることなく赤い線が描かれ続ける。


2つとも、昨日の僕と同じように、ペン先がぼんやりと光っている気がする。


「まさに魔法みたいじゃろ?クロウもやってみるといい。」

促されるままに僕も同じようにやる。爺ちゃんがやったのと同じように、いつまでもインクは掠れなかったし、色も付いた。でもこれってホントに魔法のインク?なんか違う気がするんだけど・・・。


「腑に落ちん顔をしておるな。ほれ、赤にも青にもなるぞ?でもこれは魔法のインクでもなんでもなく、タダの水じゃよ。気づいておるとは思うがの。ではこの現象は何か?それはの・・・。」


そうか、やっぱりこれは・・・


「これがスキルなんだね、爺ちゃん。」

「これ、ワシの台詞を取るでない。・・・まぁ、お主のいう通りじゃよ。それは『筆記スキル』。生物がある程度成長すると、それに合わせて発生する『スキル』と呼ばれるものの1つじゃ。詳しくは教会で調べることもできるがちと寄付金がかかるぞ。

性質はまぁワシと同じじゃろう。見ての通りのこのスキルの効果は『魔法のインクを生み出す』じゃよ。」


そういって爺ちゃんは、ペンすら持たずに指先で紙に文字を書いて見せる。まさかペンすらいらないとは!


「正しく言うなら『何もないところからインクを生み出すスキル』かの。必要なのは、『魔力』だけじゃよ。」

魔力。全ての生き物に備わっている不思議な力のことだ。なんともあいまいな表現しかできない理由は、爺ちゃんからこれらに関する本を禁止されていたからだ。どうやら教会で行われる儀式で、このスキルが根付いているかどうか確認するまでは説明しないという慣習があるみたい。主に貴族関係で、相続するためのスキルがどうのと揉めたらしく、子供には親のスキルをできるだけ引き継がせようというのが発端らしい。庶民には関係ない話だけど広まったらしい。


なにはともあれスキルだ!インクがいらなくなるスキル!これで紙だけ買えばいいからお金を貯めれる!やった!


「・・・というわけでインク代分の給金は抜いておくからの。」

「えっ!嘘!?」

内心で喜んでいたのが顔に出ていたのか、爺ちゃんにしっかり釘をさしてきた。


「いやいや、インクは高いのは知っとるじゃろ?その分こみじゃったから、子供に渡す金額としてはありえんのじゃぞ。月に銀貨30枚なんぞもらっとる8歳児などおりゃせんわ。」

たしかに・・・銀貨30枚もあれば安宿であれば10日は余裕で泊まれるくらいの金額だから分かるんだけどさ。


「むぅ・・・残念。25枚くらいじゃだめ?」

「・・・20枚じゃ。まったく、本だけでなく金にも執着するようになりよってからに。」

あって困るものじゃないけど無いと困るものなのは理解してるからね。世の中お金を出さないと手に入れられないものが多すぎるのが悪いんだよ、爺ちゃん。


「その代わりといってはなんじゃが・・・ほれ、スキルや魔力に関する本は解禁するからの。読みたい本があったら持っていくといい。保証金はちょっと高めにするから汚すんじゃないぞ?」

「分かってるよ、爺ちゃん。保証金が必要になることなんて無かったでしょ。」

保証金は、本を汚したり破損してしまったりしたときには没収されるが、本の返却時にはそのまま帰っていく、いわば保険のような物。もちろん丁寧に扱っているのでいつも保証金は返ってきている。いいながら早速本を物色していく。ついでに仕事用の本も受け取る。今日から読書が捗りそうだ。


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