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休憩に遠慮はいらない

「おー!クロウが来たにゃー」


 一階に顔を見せると、元気なラミネさんが迎えてくれた。朝の煩雑した空気はすでに落ち浮いており、受付の裏側ではテーブルが並べられ、コパールさん、ミラルダさん、ラミネさんの受付部3人と、査定部見習いのルムルが座っていた。


「みなさん朝の冒険者の対応おつかれさまです。ルムルも手伝ってたんだね」

「はいです。クロウさんもおつかれさまなのです。朝はいっつも大忙しなのですよ」

「争奪戦だもんね。みなさんお疲れ様です」


 依頼書が張り出されるのは朝の時間。前日に持ち込まれた依頼は、緊急性の高いもの以外は一つ一つ依頼書としてクエストボードに張り出される。冒険者は、自分が受けられそうな物のなかから、より報酬の高いものを選ぶ。そしてそれらは当然のように人数に制限があり、先着順だ。つまり、朝早くから並べば良い依頼を受けられる可能性が高いというわけで、冒険者ほぼ全員が朝からクエストボード前に並んでおり、もう落ち着いた阿曽から来るような人は、冒険者としては2流か、お金に困っていないランクの高い冒険者かのどちらか。


「毎日こんな感じだからね~ミラルダちゃんのこれが無ければ私もまいっちゃうわぁ」

「休憩は大事。しっかり休む」


 コパールさんもかなり参っている様子。ミラルダさんが入れる美味しいお茶と、茶菓子が無ければこれ以上はやっていけないと、ミラルダさんをチラチラと見ている。コパールさんはミミリーさんに次ぐしっかり者かと思ってたけど、意外なことにミラルダさんにべったり甘えるようなお姉さんだった。ミラルダさんはやはりしっかりしていた。


「にゃー。ワタシにもくださいにゃー」

「・・・クロウもルムルもおいで。今日は自信作」


 この茶菓子はミラルダさんのお手製なんだとか。ようするにコパールさんは餌付けされたのだと。でもこの美味しさでは納得だ。ミラルダさんの作った焼き菓子を初めて食べたときに、思わずその手が止まらず、もう一枚、もう一枚と食べてしまい、すぐに無くなってしまった。空になったお皿を悲しそうに見つめてしまった僕を見かねて、ミラルダさんは、僕にそっと自分の焼き菓子を渡してくれたことがあった。口数の少ない人だけど、その深い優しさを知っている冒険者は多く、彼女の受付には今日も多くの冒険者が並んでいたはずだ。


「まったく!ボーグさんには困っちゃうわ!クロウ君はまだ子供なのにあんなになるまで働かせて!」

「いえ、ですから僕も望んで」

「クロウ君!あなたもあなたよ!誰がどう考えたって、倒れるまで仕事をするなんてことは健全ではないの。私はそんな職場は嫌。だからあなたもそんなことはしては駄目。いいわね?」

「は、はい。分かり・・・ました」


 普段よりも強い口調でまくしたてるミミリーさんの迫力に肯定したけど、実際その通りだと思う。僕も毎日仕事で父さんが倒れながら仕事していると聞いたら嫌だ。そんなところで働いてほしくないと思う。仕事というよりも冒険者として鍛えてもらってると思っていたので特に疑問にもおもわなかったけど、確かに健全ではなかったんだ。


「僕ももう少し考えるべきでした。ミミリーさん、ご心配かけました」

「いいのよ、分かってくれたなら。さ、ミラルダが今日も美味しいお茶とお茶菓子を用意してくれてるわ。一緒にいただきましょ」




「で、クロウは副マスターのところで何してたにゃー?」

「え?お仕事の手伝いですけど・・・えっと師匠が精査したはずの書類に印をする仕事・・・かな?」

「にゃー?よくわかんないにゃ」

「僕もよくわかってませんね。部屋に呼ばれてスキルを使っただけですからね・・・」


 実際、ボーグさんの仕事で手伝ったことと言えば、まとめられた書類に印を『筆記スキル』で一気につけただけ。中身がなんだったのかすら分からないし、スキルの練習としか捉えていなかったので、説明しようにもよくわからない。


「いいのよ、それで。副ギルドマスターの仕事なんて覚えてもいいことなんて無いもの。トラブルの元よ」


 そんなに偉い地位に付くことは皆無とは言わないけど、可能性が限りなく低いだろうから間違いない。トラブルというのは書類関係で見られたらいけないものもあるってことかな?聞いてみようにも、ボーグさんは現在、ミミリーさんの手によって返事のない物になってしまっている。


「今日のところはクロウ君の仕事は終わりでいいと思うわよ。少し査定部の方にも顔を出しては欲しいけど」

「そうなのですっ!クロウさんは査定部の所属なのですから!お爺ちゃんも聞きたいことがあるって言ってました!」

「バドルさんが?」


 聞きたいことというのは、先日のダンジョン産のの種子と思われるアイテムのことだろうか?だったらいいな。僕もあれについて気になってるので顔を出さないといけない。


「お茶飲んでからでもいい?」

「もちろんなのです。ミラルダ先輩のお菓子いっつも楽しみなのです!」


 ミラルダさんのお菓子は美味しすぎるから仕方ないね。今日のお菓子はハチミツクッキー。ハチミツなどの甘味は結構高価なんだけど、ミラルダさんは普通に持ってくる。どこか大きい商会の人なのかもしれない。


「・・・遠慮は不要」


 ミラルダさんもこう言っていることだし、ありがたく頂こう。


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