目覚めると修羅場
「まったく何を考えてるんですか!」
ぼんやりの意識野中、芯の通った女性の声が耳に入ってきた。うん、分かってた。ミミリーさんに怒られるのは分かってた。魔力枯渇でだるさが半端ないけど、どうにか身体を起こすと、僕の体にかけられていたブランケットがずり落ちた。意識がはっきりして辺りを見回してみると、僕はソファーに横にされていたみたいだ。多分ボーグさんじゃなくてミミリーさんがしてくれたんだろうな。自室で倒れたときは問答無用で魔力回復薬を口に突っ込まれてたし。
「いやいや、ミミリーちゃん。今日は坊主に俺の仕事手伝わせるって言ってあったでしょ?」
「聞いてましたが、こんな無茶させるとは聞いてませんよ!」
「無茶かね?魔力を枯渇させちまう可能性はあったが、ここは安全な町の中、しかも俺の職務室だ。ダンジョンの中でも町の外でもない。魔力を練り上げる鍛錬の意味合いもある。そこに何の問題がある?」
「で、ですが、クロウ君はまだ8歳なんですよ!子供にさせることではありません!」
なんかすっごい言い合ってるんだけど・・・。ボーグさんの言い分は、とにかく僕を鍛えようという意図でごり押している。ミミリーさんは僕を心配して怒ってくれてる。どちらも僕にとってはありがたい話だけど、それで2人が喧嘩するのは申し訳なさすぎる。
「師匠。ミミリーさん」
「クロウ君!気がついなのね!」
「お、坊主。今回は早かったな」
僕が声をかけると2人ともそれぞれ声をかけてくれる。ミミリーさんは本当に心配をかけていたみたいで、目には涙がうっすらと浮かんでおり、顔も紅潮して、見たこともない表情で・・・思わず胸が詰まった。冒険者ギルドには何度も通っていて、仲良くはなっていたと思っていたけど、こんなにも心配してくれるなんて・・・。
「心配かけてごめんなさい。ミミリーさん」
「ホントよ!受付が落ち着いたから様子を見に来てみたら、気を失ってるクロウ君に、ボーグさんが無理やり魔力回復薬を飲ませようとしてるのよ?何事かと思うじゃない!」
予想はしてたけど、ボーグさんはまったく説明をしていなかったみたい。この様子を見る限り確実に止められると思ったから何するかは隠してたんだろうな。ずるい大人の見本みたいな人が、爺ちゃんの他にも1人増えたね。
「まったく、ミミリーちゃんは心配しすぎなんだよ」
「・・・じゃぁボーグさんが無理やり覚醒薬を無理やり飲まされながら仕事をさせられていたとしても、私は心配せずにどんどん仕事を追加させてもらいますね」
「スイマセンでした!!!」
覚醒薬というのは、ポーションの一種で、冒険者たちが町の外やダンジョンで寝ずの番をする際に使われる眠気覚ましの薬だ。体の芯がカーっと熱くなって、目が冴えると聞いてるけど、僕はまだ使ったことが無いので実際のところはよく分からない。父さん用の物がうちにもあるけど、家で使われたことは無い。父さんは仕事を持ち帰らないからね。その代わり帰ってこないことはちょくちょくあるけど。
そんな薬を飲みながら仕事をするっていう状態は、間違いなく健全じゃない。つまり、ミミリーさんは僕がそんな状態であると訴えてくれたのだ。そしてそれにボーグさんが折れた。
「あの、ミミリーさん。師匠のことをそんなに怒らないでください。」
「でもクロウ君」
「僕の鍛錬のためというのは本当だと思うんです。・・・多分」
「坊主・・・そこは自信もってくれよ」
「いや、師匠って結構私情も挟みこんでくるじゃないですか」
「・・・否定はできんな」
自分の利益も確保できる方法を取ってる感じがしてたから言ってみたら、やっぱりそうだったらしい。でもそれは悪いことじゃないと思う。特に商人は損得で動く人が圧倒的に多い。うちの爺ちゃんも、頼まれ事があった場合、100%善意で受けることは絶対に無い。だからボーグさんのそういう所は当たり前だと思ってたんだけど、ミミリーさん的には、子供相手に打算を持ち込むな、と対立してしまったわけだ。
「仕事もできて鍛練にもなるなんて一石二鳥くらいに僕も思ってるわけなので、ミミリーさんもあまり師匠を苛めないでやってください」
僕が頭を下げると「しょうがないわね」と矛を納めてくれたミミリーさんだったが、納得いかない大人が一名。
「おい、クロウ。師匠に対して敬意が足りないと思うんだが」
「尊敬する師匠なら、こういう事態を防げたと思うので。事前に説明するだけじゃないですか」
「いや、そりゃ無理だわ。お前さん抜きで『スキル使ってぶっ倒れるかもしれないけど目をつむってくれよな』なんて説明したら殴られてるぞ、絶対」
「そうね。クロウ君の口から聞いてなかったら張り倒してるわ」
えぇ・・・ミミリーさんってそんな過激だったっけ。優しいお姉さんのイメージしか無いんだけど。
「そりゃぁお前さんの前でいいとこ見せたかったんだろうよ。前もよく言ってたもんな。『可愛い弟が欲しかった』ってな。『頼れるお姉ちゃん』になりたカハッ」
ボーグさんが言葉の途中で、みぞおちを押さえながらうつ伏せに倒れた。結果だけでミミリーさんがなにかしたのだとは分かるんだけど、何が起こったのかは全然見えなかった。
「あら~ボーグさん、どうしたのかしら?きっと疲れが溜まってたのね。しばらくそのまま休んでくださいね。さ、クロウ君。下も落ち着いてるはずだから、お茶でも飲んで休憩にしましょ」
「あ、でも師匠が」
「大丈夫よ。ボーグさんは自分で健康を管理できる、ちゃんとした大人だから」
いつもの穏やかな笑顔ではない、圧を感じるニッコリとした顔でそう言われてしまっては、僕にはもう選択肢は残されていなかった。
師匠・・・風邪引かないでくださいね。




