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ちょっと危ない師匠の手伝い

 ガンザン山から帰ってきた翌日。僕は筋肉痛になった。馬に乗るのって歩くより楽だと思ってたんだけど、内腿がすごく張ってて痛い。歩けないほどじゃないのが救いだけど、結構きついぞ、これ。馬に乗る機会がこれからどのくらいあるかは分からないけど、少し覚えた方がいいんじゃないかと思う。


 歩くたびにピキピキと音を立てているような感覚に襲われるけど、それでも仕事はやって来る。来るというか行くんだけど。辛い階段を降りて、母さんとネルに「行ってきます」と伝え、僕は冒険者ギルドへ向かった。前回は顔合わせしかしてないので、仕事として行くのは今日が初めてだ。昨日の話の流れから、ボーグさんの仕事を手伝うことになったっぽいけど、査定部の方がいいのかな?受付でミミリーさんに聞けばいいかな?


 冒険者ギルドの朝は慌ただしい。受付カウンターはいつものように冒険者でごった返している。「押さないでくださーい」というか細い声はルムルかな?受付で手伝えない代わりに、ギルド内の交通整理を行っているらしい。ルムルの傍にはバドルさんもおり、ルムルのボディーガード代わりになっているようだ。こりゃぁ落ち着くまでは話も聞けないなと思っていたのだが、ミミリーさんが僕を見つけてくれて「副ギルドマスターがお待ちかねよ」と言ってくれた。このまま向かっても良いようだ。


 冒険者達でごった返した受付から逸れて、2階へと続く階段へ上る。2階は資料室とギルドマスターの部屋以外は、入ったことが無かったが、副ギルドマスターの部屋は、表札が出ているので一目瞭然だ。


 ノックをすると「開いてるぞ」と声が聞こえたので中に入ると、書類の山に囲まれたボーグさんの姿がかろうじて見えた。


「まってたぞ、クロウ。ちゃんと来てくれたみたいで嬉しいぜ。じゃぁ後は頼んだ」

「いや頼んだって・・・まだなにも聞いてませんよ・・・」


 部屋にたどり着くと、すでにボーグさんは疲れ果てていた。そんなに仕事抱えてたのに僕に付き合ってくれているのに感謝しかないけど、どういう状況かくらいはさすがに教えてほしい。


「いや、ミミリーちゃんにこってり絞られちゃってね。いや~さすがに無断欠勤はまずかったな。はっはっは」


 昨日、僕に付き合ってくれたのは、冒険者ギルドとしては、ただのサボりと言うことが判明してしまった。しかも『弟子のため』という理由を手前に置かれてしまっているので、僕も知らぬ存ぜぬとは言えない状態で。あれ、これ僕もミミリーさんに下手したら怒られるやつじゃぁ・・・。


 内心で冷や汗を欠いていると、ボーグさんはにやりと「気づいたようだな」と言わんばかりの悪い笑みを浮かべている。逃げる気は最初からなかったけど、完全に逃げ道を失った形だ。


「さぁ、ここのところお前さんにかかりきりだったからなぁ。そうだよなぁクロウ」


 うっわ、めっちゃ悪い顔してる。僕はいったいこれから何をさせられるんだ・・・。


「おっと、脅かしすぎたか。まぁ心配すんな。お前さんが得意な書類仕事だよ。但し、ダンジョンアタック級のな」


 にやりと笑ったボーグさんは、爺ちゃんみたいにイキイキしていた。やっぱりボーグさんも爺ちゃんと一緒でずるい大人だった。本当にずるい。とても厄介ごとの匂いがするのに、こんなにも憎ませてくれないなんて。


「こっち来い。冒険者の仕方だけじゃなく、ギルドの仕事のやり方ってのを教えてやる」


 ボーグさんの執務机はすでに書類の山になっている。書類の山を崩さないようにボーグさんへ寄ると、1枚の書類が渡された。これは・・・


「決裁の書類?え、これ結構重要なんじゃぁ・・・僕が見ても大丈夫なんですか?」

「あぁ、コイツはそんなに重要な奴じゃないからまぁ問題ないだろう。魔物の素材なんかを卸してる商人ギルドの決裁書だな。内容はどうでもいい。ここだ、こいつだ」


 ボーグさんが指さしたのは、おそらくボーグさんが決裁したという焼き印。羊皮紙に龍の紋章が焼き付けられていた。それを見て、僕はそういえばボーグさんが貴族だという噂を思い出した。


 『ドラグネス家』。中央貴族の中でも高い地位を持つ歴史ある貴族の家柄。そんな人が冒険者になるのはなぜ?と思った記憶がある。なので、噂は噂と頭の隅に追いやっていたんだけど、この印を見ると、その噂は本当なのかもしれない。


「俺の印は覚えたな・・・?」

「はい。多分覚えたと思いますけど・・・まさか」

「お前さんの想像通りだろうな」


 バンッ!と机に置かれた書類の束を叩く。


「机に置いてあるのは俺が徹夜で目を通した分で、決裁予定の書類だ。そこまで言えば分かるな?」

「はぁ・・・やっぱりですか・・・。僕がこの印を悪用したらとか考えないんですか?」

「悪用するのか?」

「しませんよ、そんな危ないこと」

「だろ?じゃぁいいじゃねーか。俺は楽できる。お前さんは魔力の鍛錬の足しにもなるしいい事尽くめ。一石二鳥ってやつだろ」


 信用されてるのは嬉しいけど、本当にいいんだろうか・・・でもミミリーさんも何も言ってこなかったし、冒険者ギルドとしては許可されてるということでいいのかな?


 今回転写するのは、インクではなくボーグさんの焼印(やきいん)。転写先は、いつもの紙ではなく、動物の皮である羊皮紙。魔力を込めるわけじゃないから大丈夫だとは思うけど、結構な魔力が持っていかれることが予想される。


「おっと、こいつも忘れないようにな」と言って、机の上にはここ数日で見慣れた青い液体。魔力回復薬・・・終わるまで解放する気が無いね、これ。


「・・・ミミリーさんに怒られないようにしてくださいね」

「うっ・・・お前さんが倒れなければ大丈夫だ。バレねぇよ。・・・多分な」


 あ、これ怒られるやつだ。・・・しょうがない。怒られても怒られなくてもやることは変わらないんだ。目の前に積みあがった羊皮紙に『転写』を使い、僕の意識は早速遠のいていくのだった。


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