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訓練と言えば山なのかな

「よし、今日は実地訓練だ。山いくぞ」


 今日は外で色々教えてもらえると聞いていたので、朝から街の門でボーグさんと合流した。馬に乗ったボーグさんを見て、結構町から遠くへ行くんだろうとは予想はしてたんだけど、ボーグさんの口から一言で、僕の口から思わず「は?」と気の抜けた声が出てしまった。聞き間違いかな・・・山?森じゃなくて?


「山だ。あっちに見えんだろ?ちょっと慌ただしくはなると思うが日帰りコースだ」


 聞き間違いじゃなかった。この辺りで山と言えばガンザン山。正直知っていることはほとんどない。僕がガンザン山について知っていることと言えば・・・


「ランクC以上指定の危険地域じゃないですか!」

「おっ、よく知ってるな、クロウ。まぁ危なくないといえば嘘になるが、まぁそうはならんよ」

「・・・本当ですか?うちの母さんの目を見て同じことが言えるなら信じます」

「お前は・・・まぁ人の言う事をポンポン信じすぎるよりはマシか。コイツを使う」


 ボーグさんが取り出したのは緑のグルグル。グリングだ。魔物除けのお香を使うということかと思ったら違った。ボーグさんによると、お香にして炊かなくても、持っているだけでも特定の魔物が寄ってこない特性があるらしい。僕一人ならわざわざ火を焚いて煙を出す必要はないらしい。


「ウルフ系の魔物の大半が苦手なんですね、このグリングって」

「あぁ。とはいっても効果範囲は狭いしそれでも襲ってくる個体もいるが、お前さん一人というわけじゃないからな」


 確かに、ダンジョンの最前線で戦っている冒険者であるボーグさんがいるのだから、早々危ないことにはならないかもしれない。それでも安心というわけではない。危険が完全になくなるわけではないのだから。


「まぁ、お前さんの心配も分かるが、こいつはちょっとした名馬でな。ユニーク個体でもない限り追い付かれる心配もない」


なるほど。ウルフは単体で見れば強い種ではない。しかし彼らは群れで行動をする。そのため集まられないように、一ヶ所に留まることが危険と言われている。ウルフより足の早いこの馬であれば、遭遇してもすぐにその場から離れられるのだから、驚異にはならないということ。


「でもウルフより早い馬なんていたんですね」

「あぁ。馬とは言ったが正確にはこいつは馬型の魔物。魔馬(まば)だ。ロケットホースと呼ばれていてな。馬車を引くほどの馬力は無いが、その分走ることに関してはかなりのもんだぞ」


 前に読んだ本に、飼育された動物を魔物化させることはできるのかという研究を見たことごあったけど、実用化してたのか!魔物化した馬をよくよく見ると、たしかに普通の馬ではなかった。額には魔物特有の核である魔石があり、全体的にほっそりしている。『魔力視』で見ると、かなりの魔力が内包されていることが分かる。魔法か何かで早く走れるようにしているんだろうか。


「準備はできているな。早速行くぞ。前に乗れ」

「はい!」


 100%安全な旅なんてない。決して安全とは言えないながらも、信頼のおける師匠と、見たこともない魔馬の背にのり、実地訓練が始まった。


 道中、いつ魔物に襲われても動揺しないように、ずっと緊張していたのだけど、途中に出くわしたウルフをあっさり引き離し、ゴブリンなどなんかはその細い脚にどれだけのパワーがあるのかと思うほど蹴散らしてしまい、緊張しているのがバカらしくなって、途中からは高速で流れていく景色をただただ眺めていた。見たことない植物とかないかなって期待してたのに、この魔馬速すぎるんだよ!全然分かりゃしない!


 そうこうしていたら、急に流れる景色がゆるやかになった、周囲にはゴロゴロとした巨大な岩だらけ。


「着いたぞ。ここがガンザン山だ。さぁ降りろ」


 これからきっと厳しい修行が始まるんだ。古来から、修行といえば山らしいからね。僕は安全な旅路ですっかり緩んでしまった気を引き締め直してガンザン山に地を着けた。





 訓練が始まったと思ったんだけど、これは何だろう。一体僕は何をさせられているんだろう。


「あの・・・師匠?」

「どうした、坊主」

「これはいったい何をしているんでしょうか?」


 ガンザン山に来てから僕はずっと地面に向かって手を付いてジッとさせられていた。「いいから集中しろ」と言われるが、何に集中すればいいのかが分からない。いったいこの行為に何の意味があるのか・・・。見渡す限りごつごつした岩が転がっており、草葉は一切見られない。時折その岩から岩石の魔物ゴーレムが現れては、ボーグさんの魔法か何かによって、瞬時に倒されていたり、遠くから『アォーン』という鳴き声が聞こえてくるので、僕としては気が気でないのだけど、そのたびに怒られる。こんなところに連れてこられてこんな状況で動じるなというのは無理な話すぎるでしょう。それでも言われたとおりに僕はずっと地面に手を当て続けていた。


 どれだけそうしていただろう・・・何かが手に触れる感覚が・・・なんだろうこれは。


「師匠・・・何か・・・手を突かれている感じがするんですが、何か知りませんか?」

「んおっ!なんだっ、どうした」


 あ、この人寝てたな・・・こっちは何の意味があるか分からないのにずっと四つん這いの姿勢で手を手をついてたってのに・・・。せめて説明してほしいよなぁ。


「で、坊主、何か感じたのか」

「・・・」

「寝てたのは悪かったよ。ギルドの仕事も溜まってんだ、勘弁してくれ」


 そうだった。師匠は冒険者ギルドの副マスターをしているんだった。当然自分の仕事もあることが完全に頭を抜けていた。


「すみません、師匠にもお仕事があるというのを失念してました」

「おう、そうだぞ、ちゃんと感謝しろよな」

「あ、はい。感謝してますからこの手をツンツンしてくる感覚は何なんですか早くおしえてください」

「おま・・・そういうとこだぞ」


 ギルドのお仕事で忙しいのは分かったので、早くこの状況説明してほしい。さっきから手の平をツンツンくすぐったいのだ、ホント何なのこれ。


「はぁー、お前さんのその性格はジジイ譲りかね。まぁいい。まだそのまま我慢してろよ。そいつはこの山の意思だ」


 意志。師匠によると、危険なこの山はいわゆる霊峰の一部らしく、魔力が常に満ちた場所なんだとか。そのためゴーレムが頻繁に現れるということだった。そして僕が今、手の平に感じているのは、岩をゴーレムに変質化するための魔力なんだとか。


ツンツン ツンツン ツン ツツン


 今も僕の手の平を不定なリズムで突いてくるこれが、ガンザン山から溢れる魔力。


「これって僕もゴーレムになっちゃうんですか?」

「そんなわけあるか・・・と言いたいところだが、前例がないだけなのかもしれんな。少なくとも俺は知らないな」

「何ですかそのふわっとした解答は・・・怖いじゃないですか」

「根拠がないだけだ。まず大丈夫とみていいだろう」


 たしかにその通りなんだけど、大丈夫だった前例の中に、僕みたいな子供はいたんだろうか。『成人してたから大丈夫』なんて話だったら嫌すぎるんですけど。


「つつかれてるだけで、中に入ってくる感覚がないってことだろう?だったらお前さんの中にその魔力は入っていない。だから大丈夫なはずなんだよ。・・・あ、もう手は放していいぞ」


 なるほど、言われてみれば中に何かが入ってきた感覚は少なくとも感じていない。ひとまずはホっと胸をなでおろして、僕はようやく四つん這い姿勢から解放された。


「それで師匠。僕は何のためにあんな屈辱的なポーズをさせられていたんでしょうか?」

「あぁ、中々似合ってたぞ・・・って冗談だよ、そんなに怒んな」


 冗談にしても質が悪いです。何時間もあんなポーズをさせられていたんだから、少しくらい怒りたくもなるでしょ。しかもその結果がツンツンされてお終いなんて思いたくない。はい、今とってもイライラしてます。


「お前さんは『魔力視』で魔力を見ることは出来るのは知っていたからな。ならばと思って魔力を肌でも感じて貰おうと思ってな。人の魔力は見ることで慣れてしまっているだろうから、自然に流れ出る魔力を知覚出来れば強みにもなる。俺も何度もこの感覚に助けられたもんだ」

「魔力を肌で?魔法や魔導具で出した炎や水では駄目なんですか?」

「あぁ、ダメだ。人を介して発せられた魔力と自然に発生した魔力では性質が全然違う」


 ボーグさんの説明によると、魔法や魔導具によって生み出された魔力は、「こうしてほしい」という人間の思いを起点に発生する魔力の塊のため、感知しやすいのだとか。だから炎は『燃えろ』という思いから生み出されたために熱いと感じるし冷たいと感じるけど、それは魔力を使わなくても同じなので、そういう魔力を感じることはあまり意味はないらしい。

 しかし、自然から発生した魔力には、人が使う魔法と違って「願望」が存在しないものが多い。そのため、その力が発現するまでには長い年月がかかるし、その意思を汲み取ることも難しいのだとか。


 もともとガンザン山は、霊峰の一部ということで魔力の濃度は濃いため、こういった訓練に向いているのだとか。


「ダメ元で試させたんだが、まさか1日で感知できるようになるとはなぁ・・・いやまいったまいった。俺にもうちょっとギルドの仕事もさせてくれ」

「と言われまして・・・なんかすいません」


 ボーグさんの冒険者ギルドでの仕事が立て込んでしまっているらしい。ボーグさんの思惑では、ここで僕が中々課題を達成できずにいる間にそちらを片づけてしまおうというつもりだったらしいのだけど、1日で終わってしまったので、別の課題を見つけないといけないと言うのだ。


「あの・・・僕としても冒険者ギルドの方にも顔を出せていないので、明日は僕も冒険者ギルドへ行こうと思っているのですが」

「そうか!じゃぁ明日は俺の仕事を手伝ってもらうぞ」

「分かりました。師匠にはお世話になりっぱなしですから頑張ります」


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