成果はあったようななかったような
「ぜぇっ・・・はぁっ・・・もう1回・・・っ!」
魔力を込めるたびにバタンと倒れる。そのたびにボーグさんに魔力回復薬を口に突っ込まれ、目が覚める。もう何度繰り返しただろう。胃の中はすでにちゃぷちゃぷとしているし、倦怠感はないけど精神的な疲労は溜まっている。それはもう物凄く。当然ながらこんなにバタバタ倒れたことなんて初めてだから当たり前だ。
それでも止めない。
ボーグさんの目があるというのもあるけど、魔力回復薬の存在が大きすぎる。これがない状態で、こんな無茶なやり方なんて出来はしない。こんなに大盤振る舞いしてくれるなんてことはそう何度もないだろう。素材の貴重さと制作難易度の高さも相まって、薬師ギルドでも安定供給の目途がたっておらず、その価格は本1冊分よりも断然高い。僕のひと月ぶんの稼ぎでは足りない量は確実に飲んでいる。
しかし、そんな状況にようやく変化が生まれた。
「はぁ・・・でき・・・た・・・」
紙に転写できたのは、古びた指輪の内側に刻印されていた文字。そして魔力枯渇せずに意識を保っている僕。
「よくやったぞクロウ。やはり魔力を増やすという選択肢は正しかった」
「はは・・・はい、師匠・・・」
僕は成功を確認すると、また意識を落とした。
目が覚めたらゆっくりできると思っていたのだけれど、そうはならなかった。
「おう、クロウ、起きたか」
「師匠・・・何やってるんですか?」
師匠は僕が転写した紙をジーっと見ていた。転写した物は規則性を感じられるので、文字だとは思うのだけど、その判別はできない。そういえばこの指輪の効果を聞いていない気がする。
「難しそうな顔をしてますが、ひょっとして成功していませんでしたか?」
「いや、そうじゃないんだが、効果がな」
「どういうことですか?」
「発動媒体を選ぶ刻印だったらしい。魔力が徐々に抜けてしまってな。紙には向かない物だったらしい」
どうやら紙への『転写』は成功したみたいだけど、指輪の持っている効果は紙には適さなかったみたいだ。文字が消えることはないけど、その効果が徐々に失われているらしい。
「ちなみにどんな効果だったんですか?」
「僅かだが装着者の耐久力を上げる。『硬化』と言われているが、紙には付与できないんだろうな。紙は装備もできんからな。お前さんには悪いがこいつは成功だが失敗作だ」
「そう・・・ですか・・・」
失敗作。
さすがに面と向かって言われると悲しいなぁ。せっかくの成功事例なのに使えないとはどうしたものか。
「まぁ気にすんな。コイツの効果は本当に微々たるものでな。その辺の錬金術師でも運が良ければ作れるかもしれない程度の代物だ。だからこそお前さんにポンとくれてやったんだ」
「・・・へ?これって頂けるものだったんですか?」
「あれ?言ってなかったか?すまんすまん」
頭をガシガシと掻きながら悪びれることなく師匠は僕の頭をポンポンと叩く。
「冒険者は危険な仕事だ。気持ち程度だがないよりはマシだろう。俺がいるうちはそんなことはさせんがな」
「師匠・・・ありがとうございます」
テーブルに置いたままだった指輪を改めて渡され、指にはめようとしたけど、何処の指にはめてもブカブカになりそうだった。困惑していたら師匠から声がかけられた。
「どの指でも大丈夫だぞ。通した指のサイズに合わせて伸縮される効果もあるからな・・・っと、そうか。それが紙に適さなかった理由か」
師匠の言葉に納得して、とりあえず左の人差し指に通してみる。するとブカブカだったサイズがぴったりとなるように収縮した。すると、なんとなく体に熱を感じるのが分かった。指輪から僅かに魔力が流れ込んでおり、体の表面を薄く覆った。
「なるほど・・・すごいですね、魔導具っていうのは。これをつけている間はこの膜が守ってくれるんですね」
「ほぅ・・・そうか、お前さんは『魔力視』を身に着けているんだったな。装着者に影響を与える魔導具の大半がそうなるぞ」
指輪も無事に装着できたので、あとはこの失敗作になってしまったこの紙。刻印されていた文字は間違いなく正しく『転写』されている。でも使えないんだよなぁ・・・どうにか出来ないだろうか・・・。
「とりあえず1つ試してみてもいいですか?」
「ん?どうしたクロウ。何か思いついたか?」
「思いついたというか確認というか・・・。『転写』」
指輪から紙への『転写』は魔力不足が補われて、ようやく成功した。では、転写に成功した紙から、他の白紙の紙への『転写』はどうなるのかと気になったんだ。結果は案の定効果は発揮しないけど成功。
「紙から紙へはやっぱり問題なさそうですね」
「あぁ、そういうことか。素材の変化による影響ってのは中々大きそうだな・・・いや参ったな。もうちょっと楽に魔導具が手に入ると思ってたぜ」
「はは・・・そんなに旨い話にならなくてスイマセン」
「半分くらいは冗談だ、気にすんな」
やっぱり半分くらいは本気なんだ。じゃなけりゃこんなにしてくれないよね。
「まぁお前さんも頑張ってくれたし、スキルについても検証が深まった。不可能ってわけじゃないのは幸いだが、一朝一夕でみにつくような物でもないことが分かっただけでも十分だろう」
「であればいいんですが・・・」
あまり成果がなかったことは目に見えて分かる。僕が申し訳なくうなだれていると、師匠は僕の髪をクシャクシャにした。
「ガキの内から大人の顔を伺いすぎるのも考えもんだな。もちっと肩の力抜いとけ」
乱暴な物言いと手つきだけど、顔を見上げるとその目は優しかった。ボーグさんが師匠で本当によかった。心からそう思った。




